Qualcomm(クアルコム)が、10年ほど前のUMTSベースバンドチップ販売時に不当な価格引き下げを行ったかどうか。長い間続いていた独占禁止に関するEUの調査は、クアルコムに2億4200万ユーロ(約290億円)の制裁金を科すという結果となった。この額は、2018年のQualcommのグローバル売上高の1.27%にあたる。
EUの競争委員会は、Qualcommが当時主要なライバルだった英国企業Iceraをマーケットから締め出すために不当な価格で販売したと結論づけた。具体的には、製造コストを下回る価格でUMTSチップセットを戦略的に重要な顧客である中国のHuaweiとZTEに販売したというものだ。
競争政策担当のMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏は今回の決定について声明文の中で次のようにコメントしている。「ベースバンドチップセットはモバイル端末がインターネットにつながるために鍵を握る部品だ。Qualcommはこれらのプロダクトを、競合他社を排除する目的で主要顧客にコストを下回る価格で販売した。Qualcommの戦略的な行為はこの分野における競争とイノベーションを妨げ、多大な需要と革新的なテクノロジーの可能性を伴うこの分野で消費者に提供する選択肢を狭めた。これはEUの独占を禁止するルールに反することから、我々は本日Qualcommに2億4200万ユーロの制裁金を科した」。
これに対し、Qualcommは不服を申し立てると語り、争う姿勢をみせている。Qualcommはまた「係争期間中に制裁金を払う代わりに保証金を提供する」とも語った。
Iceraからの申し立てが発端となった今回のケースは2015年にさかのぼり、2009年から2011年にかけてのQualcommの事業に関連している。疑惑のベースバンドチップセットはスマートフォンやタブレットを3Gを含むセルラーネットワークにつなげるために使用された。
「IceraはQualcommのチップセットよりも高度なデータレートパフォーマンスを提供していて、それゆえにQualcommにとって脅威となった」と競争委員会は指摘する。
競争委員会は「2009年から2011年にかけてUMTSベースバンドチップセットのグローバルマーケットでQualcommが支配的地位にあった」とした。当時、Qualcommは約60%のマーケットシェア(最大の競争相手の3倍だ)を握り、またマーケットへの参入も阻んでいたとした。Qualcommが持つ特許の多さのため、そうしたチップセットやIPをデザインするためのR&Dへの初期投資などが阻まれたとのことだ。
欧州の競争ルールでは、マーケットにおいて圧倒的な立場にある企業は、競争を制限して強い立場を乱用しないよう特別な責任を持つ。
競争委員会は、Qualcommが当該期間に不当な価格で販売したとの結論は、Qualcommのチップセットの価格・コストのテストと「Iceraがマーケットでの存在感を高めるのを阻止しようとしたQualcommの行為の裏にある反競争的なものを示す広範な多くの証拠」に基づいているとしている。
「価格・コストのテストの結果は、競争委員会が集めた証拠と矛盾しないものだった」と書いている。Qualcommの値引きが意図したものにより、Iceraのビジネスは大きな悪影響を受け、その一方でQualcommのUMTSチップセット販売による売上高への効果は小さいものとなった。また、Qualcommの行いがその正当性を証明できるような効果があったという証拠は見当たらない」。
「よって、Qualcommの行為は競争に著しく有害な影響を及ぼした。マーケットでの競争からIceraを排除し、イノベーションを妨げ、消費者の選択を狭めた」。
2011年5月、Iceraは米国テック企業のNvidiaに3億6700万ドルで買収された。そしてNvidiaは2015年に、ベースバンドチップセットの営業部門をなくすことを決めた。
EU競争委員会の決定に対するプレスリリースの中で、Qualcommの副会長で法務部長のDon Rosenberg(ドン・ローゼンバーグ)氏は、競争委員会のセオリーは前例がなく矛盾していると主張し、反論する姿勢をみせた。
「競争委員会は顧客2社への販売の調査に数年を費やした。これら2社は価格のためではなく競合他社のチップセットがテクニカル的に劣っていたためにQualcommのチップを選んだ、と語った。今回の決定は法律や経済原理マーケットの現実に反している。我々は不服を申し立てる」と発表文に書いている。「競争委員会の決定は、短期間、そしてかなり少量のチップがコストを下回る価格だったという、新しいセオリーに基づいている。このセオリーに前例はなく、高度なコスト回復の経済分析や競争委員会のプラクティスとも矛盾している」。
「競争委員会の発見とは裏腹に、Qualcommの疑われている行為で不服を申し立てたIceraへの反競争の悪影響はなかった。IceraはのちにNvidiaに数億ドルで買収され、疑惑行為が終わってからの数年間、関連するマーケットで引き続き競争している。我々は調査にずっと協力してきていて、競争を妨げる行為を示す事実はないと調査当局が認めることを確信している。不服申し立てでは今回の決定の根拠のなさを主張するつもりだ」。
Qualcommに対する制裁金の規模は、欧州経済エリアにおけるUMTSチップセットの直接的・間接的売上の額と、競争委員会が認定した違反が行われた期間に基づいて計算された。この制裁金の規模は、同社がiPhone LTEチップセットに関する不正行為で1年前にEU規制当局から受けた12億3000万ドルという制裁金に比べると小さいものだ。制裁金に加え、競争委員会はQualcommに今後同様の行為を行わないよう命令した。
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(翻訳:Mizoguchi)