Facebookメッセンジャーの人工知能ボットはMだけに留まらないようだ。このSDKを直接知る情報筋によると、Facebookは数名の開発者にまだ非公開のChat SDKへのアクセスを与え、メッセンジャーでのショッピング、旅行の予約といった「ボット」とのインタラクティブな体験を構築を促すという。
このChat SDKで開発者は、ユーザーがメッセンジャーにテキストメッセージを送るとそれに対応する情報、画像、位置情報サービス、商品価格、購入ボタンなどの自動返答するボットを構築することができる。Chat SDKはさらにメッセンジャーに実装されている支払いシステムとも連動し、ボット経由で何かを購入することも可能だ。
FacebookはこのChat SDKについて正式な文書をまだ発表していないが、開発者間でPDFの文書が共有されているようだ。このプロジェクトはFacebookメッセンジャーのストラテジックパートナーシップのリーダーであるBryan Hurrenが関与している。Facebookはこの件についてコメントを差し控えた。
現在は限定的なリリースだが、このChat SDKは、初期のUberといった大手パートナーとの実験より開かれたプラットフォームに成長するきっかけとなるだろう。
メッセンジャーでは、人以外にもメッセージを送ることができるという概念を浸透させたいと考えています
Facebookが開発者にメッセンジャーボットの開発を促すのは一見矛盾しているように思える。自社の人力と人工知能のハイブリット型アシスタントMと競合することになりかねない。しかし、Mの最大の目標はメッセンジャーに強力な力を与え、ユーザーが毎日使いたいと思うコミュニケーションツールとなり、SMSや他の競合を引き離すことにある。
チャットボットのエコシステムを育てることで、Facebookは外部の開発者の力を借りて、メッセンジャーの価値を高め、ユーザーがより高い頻度で使うアプリにすることができるだろう。そうすれば、ユーザーはFacebookの姉妹アプリから離れず、Facebookにとって利益が得られる道筋に乗せ、つながりを強めることができるだろう。
西のWeChat
Eコマースやニュースなどを消費できるチャットベースの気軽に使えるインターフェイスのコンセプトは、中国のWeChatや日本のLineといったアジアのアプリが牽引し、普及した。各ビジネスやユースケースごとのアプリをユーザーにダウンロードさせるのではなく、ユーザーは毎日使うチャットアプリの「公式アカウント」やチャットボットにメッセージを送るだけで他の機能を使える。WeChatの支払いオプションと連携させることで、タクシーを呼んだり、映画のチケットを購入したり、支払いもできる。
これらのボットや公式アカウントに付加された機能はユーザーにとって便利というだけでない。ビジネスもチャットアプリのプラットフォームを活用することで、アプリを作り、普及させ、それぞれのモバイルOSに対応したアプリを維持する労力から解放される。アプリストアに大量のアプリが溢れかえる中、ユーザーにアプリを発掘してインストールしてもらうのは、ビジネスにとって負担でもある。ユーザーがビジネスに直接メッセージを送る方法は、ビジネス側にとっても手軽で便利な方法だ。
開発者やビジネスがメッセンジャーで便利な機能を作るほど、ユーザーは離れずらくなる。これはSlackと似た戦略だ。Slackも仕事用チャットアプリのプラットフォームを先月ローンチしたばかりだ。
以前、Facebookは特定のパートナーとメッセンジャー用ボットに似た機能の開発を始めていた。だが、それらは大手企業とのコントロールした実験に近かった。昨年、私たちはFacebookがメッセンジャーをプラットフォームにするというニュースを伝えた。メッセンジャーのGiphyやPingTankといっアプリでは、ユーザーがリッチメディアのコンテンツを制作し友人に送ることができる。
FacebookのF8カンファレンスでのローンチでは、それに留まらず、さらにBusinesses On Messenger(ビジネス版メッセンジャー)のプラットフォームを発表した。このプラットフォームを使用する企業は、チャットでリアルタイムにカスタマーサービスを提供することができる。領収機能や注文の変更を受け付けることも可能だ。初期のパートナーとなったEverlaneは、カスタマーがチャットから担当者と連絡して、届け先の住所を変更したり、他の要望もEメールでなくチャットで全て行えるところを見せた。
Facebookの焦点はFacebook Mアシスタントの限定ローンチに移ったため、それからBusinesses On Messengerの続報は発表されていない。その間、ユーザーがリアルタイムでMLBのワールドシリーズの更新情報を受け取ったり、家の修繕の仕事の見積もりを得て、Pro.comの職人と連絡を取ることができる機能などを付加していた。
またTechCrunchは、メッセンジャーに関する面白い情報を得た。ユーザーの中には、メッセージに「@」マークを入れると、「コマンド」メニューが出て、「ホリデーチャレンジ」というオプションが出てくるそうだ。どうやら、Telegram やKik、他のSDKを介して制作されたボットアカウントと似たメッセージ内ボットもFacebookは検証しているようだ。
便利=また使いたい
先月、Facebookはメッセンジャーボットが秘める可能性をUberとの機能連携の例で示した。Transportation(移動)ボタンをタップ、あるいは住所をタップしてUberを選択すると、Uberのサービスとのチャットのスレッドが始まる。チャット内のインタラクティブなパネルから、Uberがユーザーをピックアップする場所、目的地、支払い方法を設定することができる。その後、ドライバーが到着する際のアップデート情報や地図の閲覧、そしてドライバーとの通話もできる。
メッセンジャーのChat SDKを用いて制作したボットは、上のスクリーンショットのような見た目と機能になるだろう。友達申請や「いいね!」を押したりせずともすぐにメッセージを送ることができる。インタラクティブなボタンをタップしたり、キーワードをスレッドに入力することでボットが対応する。ソケットの技術を使うことで、リアルタイムで返答が可能となった。Mは開発者のアプリの競合ではなく、テストに使用したり、ユーザーが何を求めているかを検証したり、メッセンジャーのボットで何が可能かを試したりすることができるだろう。
ポータルとしてのチャット
ウェブではキーワード検索がウェブ体験の中核を成している。しかしモバイルでは、ユーザーはほとんどの時間をチャットに費やしていることが明らかとなった。つまり、メッセージングの競争で勝つことが、Facebookの目標であり、チャンスである。
モバイルでも市場を席巻したいなら、メッセンジャーを代えがたいほど便利にすることが必要だ。そうするためには自社のプロダクトを開発者のアプリで拡張し、ニッチなユースケースで使える便利な機能を付け加えるのが一番だろう。もしFacebookがメッセージング分野を支配するなら、Eコマースのポータル、コンテンツ、そしてコミュニケーションを支配することができるようになる。
ここでMark Zuckerbergの2016年の挑戦の意味がはっきりする。彼は、映画アイアンマンに出てくる人工知能アシスタントのJARVISと同じように家をコントロールできるようにすると伝えた。「言葉を理解して、自宅の全ての物を音声でコントロールできるような人工知能を開発します。声で音楽、証明、室温を変えることができるようにします」と書いている。彼も自然言語に対応するボットを構築している。
Uberとの統合機能をローンチする前、FacebookのプロダクトマネージャーであるSeth RosenbergはTechCrunchに「メッセンジャーでは、人以外にもメッセージを送ることができるという概念を浸透させたいと考えています」と話していた。Chat SDKでより多くのユーザーをメッセンジャーに惹きつけることができるだろう。
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