Facebookは間もなくエンタープライズ市場の難しさに気づくだろう

The silhouette of an attendee is seen looking at a smartphone ahead of the global launch event of "Workplace" at the Facebook Inc. offices in London, U.K., on Monday, Oct. 10, 2016. Workplace is meant to help employees collaborate with one another on products, listen to their bosses speak on Facebook Live and post updates on their work in the News Feed. Photographer: Jason Alden/Bloomberg

FacebookはWorkplace(旧Facebook at Work)のリリースで、今週正式にエンタープライズ市場へ参入した。コンシューマー向けツールとしてのFacebookの成功は言うまでもないが、異なるニーズを持つエンタープライズ市場は別世界だ。

対象となった1000社にWorkdplaceを無料提供したベータテストの結果、特に社内SNSに関して、エンタープライズが求めるものはコンシューマーとは全く異なることがわかった。Facebookが目指していたのは、既存のコンシューマー向けサービスとの親和性だった。つまりプライベートでFacebookを使っていれば、職場でWorkplaceにもすぐ慣れることができるという考えだ。この戦略は間違いではないものの、リリースのタイミングがあまりにも遅かった。

しかしBOXのCEO Aaron Levieは違った見方をしている。Workplaceのリリースについてのブログポストを読むと、彼はこのサービスに秘められた可能性に本心から期待しているようだった。「FacebookのWorkplaceがリリースされれば、企業や開発者は、私たちがプライベートな連絡や人との繋がりで日頃使うようになった手段を、職場でも有効活用できるようになる」と彼は綴っている。

ちょっとおかしいのは、オンラインソーシャルツールを職場で利用するというエンタープライズ2.0の考え方は、10年ほど前からすでに存在しており、YammerやJive、Confluenceといったソフトは”エンタープライズ用Facebook”として売り出されていたのだ。それでもFacebookはこれまで何の動きも見せなかった。

もしかしたらFacebookはSlackの成功に圧倒されていたのかもしれない。Slackのこれまでの調達資金は5億ドルで、バリュエーションは40億ドルに達しており、ようやくエンタープライズ2.0のゴールを達成するサービスになると思われていた。しかしFacebook以上に上手くその役を担える企業が存在するだろうか?

エンタープライズ版のFacebookをつくるというアイディアは机上では素晴らしいものに見えるが、コンシューマー向けとエンタープライズ向け製品の間には大きな違いがある。というのも、エンタープライズはコンシューマーとは全く違ったニーズを持っているのだ。

Dow Brook Advisory Servicesでアナリストを務めるLawrence Hawesは、エンタープライズ向けソーシャルサービスの動向を追っており、2015年1月のFacebook at Work発表の際に、Facebookはエンタープライズ市場で苦しむことになるかもしれないと話していた。以下が当時の彼の見方だ。

Facebookは、購買担当者の信頼を得るために、安全性や信頼性などをエンタープライズレベルまで引き上げなければならず、さらに、フリーミアムモデルに頼りきるのではなく、ボリュームに基いた課金モデルへ移行しなければいけないとHawesは話していた。そもそもどれも難しい問題である上、既存プレイヤーがいる市場では、これらのアドバイスを実現するのは困難を極める。

しかし、TechCrunch記者のIngrid Lundenが月曜日に報じていた通り、Facebookは自分たちの問題を理解しているようで、これまで利用してこなかったMAU(月間アクティブユーザー数に基づく課金システム)の採用を含め、問題解決に向けて動いていることが当初の発表から伺える。さらにローンチ直後の目を引く契約について、以下のように発表している。

初期段階からWorkplaceのユーザーとなった企業として、3万6000人の従業員を抱えるTelenor、10万人のRoyal Bank of Scotlandなどがある。そして今日、Danone(従業員10万人)、Starbucks(23万8000人)、そしてBooking.com(1万3000人)などの企業がユーザーに加わったことを新たに発表した。

しかし、Facebookは今後もこの調子で顧客数を増やしていかなければならず、SaaSの運営はコンシューマー向けSNSの運営とは事情が違う。Saasには顧客を1番において彼らのニーズを聞くという、もっと高いレベルでの顧客中心の考え方が必要とされるが、これまでFacebookはコンシューマーとも上手く関係を構築できていない。

エンタープライズ向けFacebook自体は確かに的を射たアイディアではあるものの、Facebookがエンタープライズの要望に応えつつ、SaaSベンダーとしてやっていけるかという点についてはまだ疑問が残る。これはWorkplaceが成功しないということではなく、Facebookは今後慣れない顧客のニーズに応えるため忙しくなるということだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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