外国語の機械翻訳がとても便利であることは確かだが、どこかへの行き方やおすすめのランチ以上の話題になると、その浅さが現実的な障害になる。そしてそれが、法律や基本的人権の問題になると、“まあまあの翻訳”では役に立たない、とある判事が裁定した。
その判決(PDF)にそれほど重大な意味があるわけではないが、翻訳アプリは今や法曹の世界でも使われ始めているので、その今後の正しい進化のためにも、気にする必要があるだろう。今は幸いにも多言語社会になっているが、しかし現在および短期的な未来においては、異なる言語間の橋渡しがどうしても必要だろう。
その裁判では、Omar Cruz-Zamoraという名前のメキシコ人がカンサス州で警官に、道路脇への停車を命じられた。警官たちが彼の同意のもとに車の中を調べると、大量の覚醒剤やコカインが見つかり、当然ながら彼は逮捕された。
でも、ここからが問題だ。Cruz-Zamoraは英語が話せなかったので、車の中を捜索する同意はGoogle Translateを介する会話によって得られた。法廷は、その会話が十分に正確ではないので、“当事者の自発的かつ了解のもとに”得られた同意を構成しない、と見なした。
アメリカの憲法修正第4条は、不合理な捜索や押収を禁じている。そして正当な理由がない場合公務員は、Cruz-Zamoraが、車内の捜索を断ってもよいことを理解していることを必要とする。会話からは、その理解が明確でなく、一貫して両者は、相手の言っていることの正しい理解に失敗している。
それだけでなく、アプリが提供した翻訳は、質問を十分に正しく伝えていない。たとえば警官は英語から翻訳されたスペイン語で“¿Puedo buscar el auto?”、と質問している。その文字通りの意味は、“車を見つけてもよいですか”に近く、“車を捜索してもよいですか”にはならない。Cruz-Zamoraがその“字義通りだが無意味な”(←裁判長の言葉)翻訳結果から、車の捜索に同意するかという本当の質問を類推できた、という証拠はない。彼自身に選択の権利があることすら、理解しなかったかもしれない。
同意が無効なので車の捜索は憲法違反となり、Cruz-Zamoraの告訴は取り下げられた。
Google Translateなどのアプリでは同意が不可能、という意味ではない。たとえばCruz-Zamoraが自分でトランクやドアを開けて捜索をさせたら、それはたぶん同意を構成しただろう。しかし、アプリを使った対話が正確でないことは、明らかである。これは、英語の話せない人を助けたり調べるためにパトロールしている警官だけの問題ではなく、法廷の問題でもある。
機械翻訳サービスのプロバイダーは、その翻訳がほとんどの場合に正確だ、数年後にはとても難しい場合をのぞき人間翻訳者をリプレースする、とわれわれに信じさせようとしているかもしれない。しかし今回の例が示すのは、機械翻訳がもっともベーシックなテストに失敗することもありえる、ということだ。その可能性があるかぎり、私たちは健全な懐疑主義を持ち続けるべきだろう。