HPがXeroxによる敵対的買収回避のために数千億円規模の配当を株主に提案

HP(旧Hewlett Parckardから分割した、もう1つの上場企業であるHewlett Packard Enterprise、略称HPEと混同しないように)は、自分よりずっと小さなXeroxによる敵対的買収を回避すべく、投資家に数十億ドル(数千億円)という配当を約束しようとしている。

この報酬を手にするために投資家がすべきなのは、買収を拒否することだけだ。

株主宛ての書簡で、HPはXeroxの提案を「無責任な資本構造」を引き起こす「偽りの価値交換」であり「誇張されたシナジー」を謳っていると指摘している。独立性が維持された場合にHPが株主に約束しているものは以下の通りだ。

  • 会計2020~2022年度(参考までにHPの2020年Q1は2020年1月31日締めだった)の期間に約160億ドル(約1兆7600億円)の「投資利益」を得られる。同社によるとこの数字はHPの現在の時価総額の「約50%に当たる」。TechCrunchは、このニュースが「知られた後」、株価が上昇する前に、この評価を正しいと認識している。
  • この投資利益はいくつかの部分からなる。まず、会社の株式再取得プログラムを150億ドル(1兆6550億円)に増額する(従来は50億ドル、日本円で5521億円)。具体的には、HPは「今後12カ月間に少なくとも80億ドル(約8834億円)の株を買い戻す」意志があることを会計2020年度の株主総会後に表明している。同社はさらに「長期的資本利益の目標をフリーキャッシュフロー100%」とし、株式購入および配当支払いの増額を可能にする(HPは1株当りの配当増加を少なくとも売上に連動させる意志がある)。

上の説明が外国語のように感じたならば、少々噛み砕いてみよう。HPが投資家に対して言っているのは、会社が生み出すキャッシュは「すべて」株主への報酬に使うつもりだということだ。これは、買い戻し(将来の利益を少ない株数に濃縮し、保有株式の価値を高める)および配当(HPの稼ぎに応じて株主への支払いを増やす)のかたちで行われ、その一部はコスト削減(現金生成と利益の増加)によって賄われる。

つまり、HPは以下のように言っている。

「どうか私たちをXeroxに売らないでください。そうしてくれたら、全力を尽くしてみなさんにお金を差し上げます」

HPの株価は本稿執筆時点(米国時間2月26日午前1時)で6%上がり、旧HPの消費者向けスピンアウトである同社の時価総額はほぼ340億ドル(約3兆7537億円)になった。投資家が会社のために何を選ぶのかは結果を待つしかない。そこで、なぜこうなったのかを考えてみたい。

今日までの道のり

どうしてこうなったのか、不思議に思うだろう。すべては2019年の秋、XeroxがHPと合併したいと表明し、270億ドル(約2兆9808億円)で自分よりずっと大きい会社を買う提案を出したことから始まった。 当時TechCrunchはこう書いた

この買収話で不思議なのは、ゼロックスの時価総額が80億ドル(約8700億円)をわずかに超える程度なのに対し、HPは290億ドル(約3兆1500億円)とそれよりはるかに大きいこと。いわば、カナリアが猫に襲いかかるような話だ。

HPは敵対的買収のアイデアが始めから気に入らず、すぐにいがみ合いが始まり、両社は公然と論争した。HPの取締役会は全会一致でXeroxの提案を拒否した。HPは買収提案の金銭的基盤が「極めて条件が多く不確定」であると指摘した。さらに同社は、提案の攻撃的な性格にも不快感をおぼえ、Xeroxは「適切な情報を与えることなく楽観的な条件の組み合わせを強要しようとしている」と語った。

そのわずか1日後、Xeroxは反論し、同社は取締役会を迂回するために買収をHP株主に直接提案しようと、公開文書に「我々はHP株主と直接交渉し、HP取締役会が正しい決断を下し、この魅力的な機会を追求するよう協力を求めるつもりだ」と書いた。

2020年に入っても騙し合いは続き、1月にXeroxは、先の同社の提案を拒否した取締役全員を置き換える都合のよい取締役候補を推薦した。そして最近、株主に買収賛成の票を投じさせるべくXeroxは提示額を340億ドル(約3兆7537億円)、1株当り24ドル(約2649円)へと吊り上げた。

XeroxはHPの大株主と会話を続けていると書いていて、これがHPの注意を引いたとみられ、その結果HPの直近の株主への提案は、断るのが難しいほど魅力的なものだった。HPの次期株主総会は4月に行われ、そこで最終的な顛末が決まる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

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TechCrunch Japan

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