iPad Proでノートパソコン並のタイピングを可能にするMagic Keyboard

これまでの2年以上、私が出張中に書いたほぼすべての記事は、iPad ProのSmart Keyboard Folioによってタイプしたものだ。その理由は、このiPad Proのレビューを読んでいただければわかるだろう。

今回の新しいMagic Keyboardについての評価を読む前に、以前のKeyboard Folioについて、次の2つのことだけは知っておいて欲しい。

  1. 信頼性が高く、信じられないほど耐久性があり、その点では一度も期待を裏切ったことはなかった。
  2. それ以外の点は、まったくお粗末だ。

Keyboard Folioの表面は、プラスチックでコーティングされていて、少々液体をこぼしても大丈夫だが、それによってキーの応答性は損なわれていた。そのため、キーが確かに打鍵されたことを確めるために必要なフィードバックが指に伝わりにくい。そのため私は、常にすべてのキーを思い切り力を込めて叩くという方法に訴えるようになっていた。

新しいMagic Keyboardは、それとはまったく違う。ちょうど、新しいMacBook Proキーボードが、長年物議を醸してきたストロークの浅いキーボードと、まったく違うものになったのと同じだ。このMagic Keyboardによって、新しいiPad Proの使いやすさは格段に向上する。これは昨年発売されたiPad Proにも使える。

もはや、ペナペナしたキーボードに指を叩きつけなくても済むと思うと、安らかな気分になる。これまでは、長時間速いタイピングを続けていると、指先の方からだんだん痺れてくるように感じることもあった。感触がなくなってくると言ったほうがいいだろうか。それほど苦痛というほどでもなかったが、気にはなっていた。

それに対してMagic Keyboardは、16インチのMacBook Proや、新しいMacBook Airにも負けない、きれいなバックライト付きのキートップを備えた最高のポータブルキーボードを実現している。キーを押した感覚も素晴らしい。私の感じでは、ちょうど上に挙げたMacBookの2つのモデルの中間といったところか。触感はタイトで、反応も良く、正確だ。これは間違いなく、ファーストクラスのタイピング体験と言える。

ここ数日、これら3種のキーボードを並べてテストしてみたが、いずれもキーの安定性は、いくら強調しようとしてもしきれないほど。MacBook Airも、指先をキーに触れたまま、その場でゆっくりと円を描くよう動かしても、キーはほとんど動かない。しかし、その点ではMacBook Proの方が優れている。同じようにしても、さらに動きは小さく、ほとんど認識できないほどだ。

Magic Keyboardは、16インチのMacBook Proと比べると、ややフワフワした感じがある。しかしMacBook Airよりは硬めで、反発力もやや強く、ストロークも深いと感じられる。私の感じでは、タイピング音も16インチのProより大きめだ。おそらくプラスチック製のケースが、アルミニウムよりも響きやすいためだろう。ただし、それもほぼAirと同じくらいだ。キーを戻すときの感触は、Proの方に近い。それに対してAirは、少し深い感じがするが、ちょっと頼りない気もする。

というわけで、Magic Keyboardの感触は、やはりMacBook Proと同Airの中間といったところ。いずれにせよ、ProやAirのキーボードを改善するために施されたのとまったく同じ手法が成果を発揮したものとなっている。

スタンドとしての構造

私の最大の懸念は、アップルがヒンジの設計に凝りすぎたあまり、タイピングの際にグラグラするようなものになってしまっているのではないかということだった。しかしそれは杞憂だった。可動範囲が犠牲になっている感は否めないが、かなりしっかりしたものとなっている。

実際、ヒンジ自体の可動範囲はかなり狭い。開こうとすると、期待したよりもはるかに小さな角度で止まってしまう。そこからは2番目のヒンジが動き、ディスプレイを80度〜130度の間の角度で開くことができる。ディスプレイの角度を調整できる範囲は、Keyboard Folioの2段階の固定角度に近いが、Magic Keyboardでは、その間の任意の角度で止めることができる。

アップルは、テーブル上で使う場合と、膝の上に乗せて使う場合、両方のバランスを考えて、このような角度の調整範囲を決定したものと思われる。ヒンジを2段階にしたことによって重心を移動させ、傾きを抑えながら、ついに膝の上でのタイピングを可能なものとした。また、キーボードを強く叩く必要がなくなったことも、膝に乗せて使うのを容易にしている。

タイピングに関しては、このような画面角度の調整範囲でも、ほとんどのユーザーにとって、十分満足のいくものだろう。また、固い(摩擦が大きい)ヒンジは、可動する部品は多いものの、全体としてかなり頑丈にできている。私自身、12.9インチのiPad ProとMagic Keyboardの組み合わせを、キーボード部分に手をかけて持ち上げ、あちこち持ち歩くことに何の不安も感じない。ノートパソコンを持ち運ぶのと何ら変わらないのだ。途中でグラグラしたり、外れてしまったりする心配は無用だ。

さらに、iPadを空中に浮かせるような新しいデザインにより、左手でも右手でも、わずかな力で簡単に、すばやく開くことができる。これによって、Magic Keyboardはデスクトップに置いて使うドックの類にも取って代わることができる。これも、Keyboard Folioにはできなかった使い方だ。

Magic Keyboardは、物理的なタッチパッドを装備している。これはいわゆる触覚パッドではないが、表面のどの部分でもクリックできる。これはもう、ノートパソコンレベルのトラックパッドとなっている。キビキビと、期待どおりに機能するトラックパッドを設計する方法について、アップルののエンジニアリングチームが、他のどの会社のハードウェアチームより良いアイデアを持っていることを証明するものだろう。

私は、ケース自体のソフトなコーティングが気に入っているが、これと同じような仕上げの他のデバイスの表面と同様、摩耗することは避けられないだろう。トラックパッドの両側のパームレストの部分に、光沢のあるスポットができてしまうかもしれない。

ハーフサイズながら、矢印キーは反応もよく、すばらしい。

その他の詳細、注意点、そして限界

フロントカメラは、ディスプレイの左辺に位置することになるが、iPadの左側を保持する必然性はないので、カメラを取り巻く状況は改善したと言える。キーボードと画面の距離は3センチ弱ほどで、まだ理想的とは言えないが、Zoomなどでビデオ会議をする際の視線も改善された。鼻の動きばかりが強調されるようなことはなくなる。それでもアップルは、今後iPad Proのフロントカメラの位置の変更を検討する必要があるだろう。

キーボードのバックライトの明るさは適切だが、iPad Proに接続すれば「設定」で調整できる。今回のテストでは、Magic Keyboardの消費電力は大きめだったが、それを数値で示すことができるほど長くは使っていない。Facetimeで通話中に、充電しながら使ってもバッテリーが減っていくことがあった。ただ、それはその後のテストでは再現せず、そんな気がしただけかもしれない。Magic Keyboardに設けられた充電ポートを使えば、iPad Proに最大速度で電力を供給できる。これについてはテストで確かめた。

これは、アーティストが待ち望んでいたようなタイプのケースではない。Magic Keyboardは、Keyboard Folioのように、後方に回転させて逆向きに折りたたむことはできない。つまり、画面に直接何かを描く際には、ケースから外す必要がある。実際に外すのは簡単だ。まるで「ドローイングに適した角度にセットしたり、何にでも使えるようにすることができなかったので、簡単に取り外せるようにしました」と、アップルが言い訳しているかのようにも感じられる。まあ、それでもよいのだが、次のバージョンを設計する際には、もう少しマジックを働かせて、タイピングとドローイングの両方に、1つのケースで対応できるようなものにして欲しい。

ちょっと特殊な状況かもしれないが、iPad本体をいっぱいまで後ろに倒して使っているとき、数字キーを打つ際に指がiPadの底辺部分に引っかかってしまうことがある。これは私のタイピングの姿勢によるものなのかあるいは手が大きすぎるからかもしれないが、指摘しておくべきことだと思った。

Magic Keyboardは、ちょっと重い。12.9インチモデル用で700gある。これはiPad Pro本体より重いので、合わせるとiPad本体の2倍以上になる。ほぼMacBook Airと同じ重量だ。この重量が問題となるなら、11インチモデルの方がいい。また、Magic Keyboardを装着して折りたたむと、かなり分厚いものになる。

今回登場したMagic Keyboardは、昨年発売された旧モデルのiPad Proでも使える。そのモデルを持っている人にとっては、すばらしいアップグレードの手段となる。ただし、リアカメラの周囲の切り欠きは、だいぶ余ってしまうことになる。これは、iPad本体を買い換えることなく、デバイス自体を大幅にアップグレードしたかのような効果をもたらす。アップルが、iPad Proのモジュール性を重視していることの現れだろう。アップル製品以外に目を向けても、最も目立つ新機能は、最新デバイスのハードウェアに依存していて、新モデルだけに限定されのが普通だ。その点でも、Magic Keybardが旧モデルをサポートしているのは際立っている。

Magic Keyboardの価格は、11インチモデル用が$300(日本版は税別3万1800円)、12.9インチモデル用が$350(同3万7800円)となっている。この価格は、予算に組み入れておく必要がある。今や、iPad Proにとって、Magic Keyboardがベストなキーボーであることは、紛れもない事実なだけに、iPad Proパッケージの価格の一部と考える必要があるからだ。もしそうできないのなら、そもそもiPad Proは諦めたほうがいい。そこまで言っても差し支えのないパッケージになっている。

欲を言えば、角度の調整範囲は、もっと広いほうがいい。次のバージョンでは範囲が拡張されることを願いたい。それはともかく、本当にiPadで仕事をしたいと考えている人にとって、特にその仕事の中心がタイピングとなる人にとって、Magic Keyboardは必須と言っていい。ここ数年の間に、清水の舞台から飛び降りるつもりで、iPadをメインのコンピューターとして使うことにした人間にとって、これは夢にまで見たキーボードだ。欠点がないわけではないが、新鮮で、何のごまかしもなく実現されたアクセサリーであることは確かだ。ちょっと古いiPad Proでさえ、普通のノートパソコンよりも、さらに使いやすいノートパソコンにしてくれるのだ。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

投稿者:

TechCrunch Japan

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