アップルのスペシャルイベントでの新iPhoneの発表を受けて、さまざまなメディアから数多くの記事が上がった。いつものように、礼賛する記事、購入を勧める記事、買ってはいけない記事までバラエティーに富んだ内容で、アップルとしては想定内だっただろう。一方、発売前に解禁された実機レビュー記事については、撮影機能の向上を絶賛する記事が多数を占めた。
一般コンシューマーから見ると「進化はカメラだけなの?」と思ってしまう内容ともいえ、アップルとしては少し想定外だったかもしれない。もちろん個人的にiPhoneは大好きなので、Apple A12 Bionicチップの恩恵による撮影機能の向上やiOS 12によって使い勝手がどれほど向上するのかを、iPhone XS Maxをきちんと購入して早く確かめたいところだ。
しかしながら、発表会や数々のレビュー記事を読んで頭をよぎったのは「スマートフォンとして機能的な進化はそろそろ頭打ちかな」という懸念。もちろん撮影の機能の向上は素晴らしい。夜景や逆光での撮影で見た目どおりに絵作りしてくれるのは大変ありがたいが、ポートレートモードを普段使いするコンシューマーがどれだけいるかは少し疑問だ。日常のスナップショットを撮るのであればiPhone 7シリーズでも十分に美しく、SNSで公開したり、友人や家族に送ったりするぶんには不満はない。
iPhone XSシリーズは10万円超えの高価格なので、旧モデルからの買い替え需要をどれだけ喚起できるのだろうか。特にiPhoneやAndroidのデュアルレンズ搭載機をすで持っている人にとっては、分割払いでいますぐ購入するほど食指は動かないのではないか。自腹でiPhone XS Maxは購入するものの「お買い得はどれ?」と聞かれるとすごく悩む。強いて言えば、一般の感覚からすると安くはないが、背面のカメラがシングルレンズで液晶パネル搭載のiPhone XRだ。
昨年はiPhone 8とiPhone 8 Plus、iPhone Xの3モデルがリリースされたが、実際に売れ筋になったのは3モデルの中で最も安価かつ最もコンパクトなiPhone 8だった。今回発表された新iPhoneの中でiPhone 8の系譜を受け継ぐモデルは、(3モデルの中で)低価格、シングルレンズ、液晶パネルという3要素を備えたiPhone XRだろう。
だが、iPhone XRはiPhone 8より、さらにiPhone XSよりも大きく50gほど重い。iPhone SEの終焉を嘆くコンシューマーがいるように、スマートフォンの大型化を必ずしも望んでいない層にXRが受け入れられるのだろうか。先行販売されるiPhone XSの予約状況が芳しくないという一部報道もあり、XR待ちなのか、大幅値下げされた旧モデルに流れているのか、XS Maxを予約したのか、実際のところは10月19日のiPhone XRの予約開始までわからない。それでも個人的にはiPhone XRが3モデルの中で群を抜く人気を集めると予想している。
例年なら話はこれで終わりだ。しかし、今年はアップル自体が市場予想をややこしくしている。アップルはここ数年、1世代前のモデルを製品ラインアップに残して値下げ。そして、それよりも前のモデルをUQ mobileやY!mobileといった、au、ソフトバンクのサブブランドが販売してきた。今年に入り、月々の料金が1500円割引されるNTTドコモの長期割引プラン「docomo with」のラインアップにもiPhone 6sが加わっている。さらに一部のMVMO業者は自社調達したSIMフリーの海外版や整備品を販売したりと、iPhoneの型落ちモデルの販売合戦はいまだ熾烈を極めている。日本国内では廉価なiPhoneの需要が無視できない存在であることがわかる。
そういった状況で、アップルは1年前に登場したiPhone 8シリーズだけでなく、2年前のモデルとなるiPhone 7シリーズも製品ラインアップに残したまま大幅値下げ。結果的には、5万円台で手に入る廉価版のiPhone 7から16万円超のプレミアム版となるiPhone XS Maxまでの豊富な製品群をそろえてしまった。しかもいずれの機種もアップルのオンラインストアや直営店では金利なしの12回払いでSIMフリー版を購入できる。
新3モデルの中でのiPhone XRの一番人気は揺るがないと思われるが、家電量販店や調査会社各社の年末ごろの売り上げランキングにぜひ注目してほしい。アップルはモデル別の販売台数を明かしていないので、このランキングによって、コンシューマーが欲しているのがコンパクトな端末なのか、安い端末なのかハッキリするからだ。ランキング上位をiPhoneシリーズが独占することは想像に難くないが、iPhoneのあとに続く文字がローマ数字なのかアラビア数字なのかで意味合いは相当変わってくる。
iPhoneのあとに7や8が並んでしまうようならコンシューマーは価格重視であることがわかる。加えて、新モデルの価格が高すぎたことの証左となり、アップルは日本での戦略を練り直す必要があるだろう。
iPhone XのあとにSが並べば、コンシューマーは高くてもコンパクトな端末を求めている。そして、次世代のiPhoneとして登場したXの系譜がコンシューマーに完全に受け入れられたことになる。その一方で、廉価版として投入したiPhone XRは失敗作として消えるかもしれない。
アップルにとって最も望ましいのは、iPhone XのあとにRが並ぶことではないか。新3モデルの中で廉価版という位置付けのiPhone XRが一番人気となり来年以降も長く販売されることになれば、当然価格も下がるだろう。そうなれば、アップルが提供するFaceIDやアニ文字、ミー文字といったTrueDepthカメラを使った新たなユーザー体験をより多くのコンシューマーが体験できることになる。iPhone XRがiPhone SEに継ぐ名機といれわれる日がくるかもしれない。
最悪のシナリオは、ナンバーワンの座をファーウェイに奪われることだ。