1ヶ月以上前から点灯していた数々の赤信号の末、LeEco〔楽視〕のアメリカでの事業はついに人員の大幅削減に追い込まれた。LeEcoは中国の野心的なコングロマリットだが、アメリカだけで325人の社員をレイオフすることを明らかにした。私が受け取ったメールアドレスの変更通知の数からするとすでにレイオフは実行されているものと思われる。
月曜日のフットボール・ファンのように後知恵で試合を批評するのは簡単だとはいえ、惨事が起きたのは事実だ。しかもこのことは以前から予想されていた。LeEcoがアメリカで重要なスタートアップとみなされていたのはわずか1年前だという点には注意を払うべきだろう。大がかりで派手なプレス・カンファレンスが実施されたのはなんと昨年10月中旬だ。わずか7ヶ月でこの結果に終わるとは驚くべきスピードだ。しかしアメリカ事業には当初から事態を警告するシグナルはいくつも出ていた。
LeEcoはもちろん警報を無視した。同社は300人以上が職を失うという事態を招いたことを惨事とは認めず、何か悪いことが起きるたびに口にされる言い訳を持ち出している。つまり悪かったのは同社の戦略ではなく、資金調達で思わぬ障害を経験しただけだというわけだ。LeEcoはインドでレイオフを実行したときにも同じような声明を出した。
TechCrunchがコメントを求めたことに対する回答は、誰彼となく質問した者全員に送られるテンプレート・メールで、「消費者との間の壁を取り払おうとしたわれわれのビジョンは正しいと信じている。アナリストもこの点を認めている。今回、必要とする資金の調達ができなかったため、われわれはアメリカ事業において段階的アプローチ(a phased approach)を取ることとした」と書かれていた。
しかし「段階的アプローチ」というのは数百人をレイオフした後で使うべき言葉ではあるまい。そもそもこの会社の「スマート・ビジネス」そのものに問題があったというべきだ。国際的に展開して成功を収めた企業なら、中国とアメリカのように根本的に文化を異にする新市場への参入がいかに難しいか教えてくれるはずだ。われわれが掲載したAppleの中国進出の記事を見れば分かる。
LeEcoは「小さく始める」という戦略と無縁だった。無謀で派手な鳴り物入りが同社の本質だった。これが50エーカーに上るアメリカYahooの広大な跡地を高値で買わせ、金のかかった巨大な看板を立てさせた理由だろう。LeEcoの建設計画を聞けばアメリカ本社はまるでテーマパークのようなものになりそうだった。
アメリカで事業をスタートさせるに当たって、LeEcoは安いスマートフォンやテレビを売るだけが目的でないと宣言した。万人にすべてのもの提供するというのだ。いくぶんApple的、いくぶんNetflix的、いくぶんTesla的、いくぶんAmazon的というわけだ。VRヘッドセットやら自転車やら、加えてセレブのカメオにはトランスフォーマー・シリーズで知られるマイケル・ベイ監督まで動員した。同社はマット・デイモン主演の中国を舞台にしたアクション大作『グレートウォール』の製作にも出資し、ハリウッドの映画スタジオ・システムにも参入しようとした。
しかしこうした派手な車輪の回転は突如ストップした。LeEcoは約束のごくわずかな部分しか実現できなかった。LeEcoがスマートフォンを作る約束だけをしていたのならアメリカ市場を研究するチャンスはもっとあっただろう。失敗の可能性も低かったはずだ。しかし出だしで新市場の本質を見誤った場合、取り返すのは不可能だ。イカロスは太陽の側まで舞い上がって墜落したと言われているが、LeEcoはそれどころではない。世界に向かって「これから新しい太陽を作り、新しい太陽系を作る」と宣言した。
同社の今後の戦略がどうなるかは容易に想像できる。。同社はリストラ後、アメリカの中国語を話す家庭向けに「中国版Netflix」のようなサービスを提供しようとするだろう。同社はすでに中国語のコンテンツを持っているからこれは容易だし、マーケットもそれなりに大きい。アメリカ市場への参入の当初からこの道を選んでいればLeEcoの運命もかなり違ったものになっていたのではないか?
LeEcoの声明は大部分が無内容な企業語の大言壮語に過ぎない。企業も政治家も誤りを認めたがらず、失敗を自分の力の及ばない外部事情のせいにしようとする。そこでそうした外向きの発言ははともかく、社内では戦略の失敗を認めて今後の新戦略を立ててもらいたいものだ。どこからか再び資金が入ってくることを期待して小手先の修正でつないで済ませられる段階ではないだろう。
これはアメリカの消費者にとって安いスマートフォンの選択肢が一つ減ったというだけの話ではない。325人がある日突然職を失うというのは重大な事件だ。
画像: VCG/Getty Images
〔日本版〕LeEcoの沿革についてはWikipediaの楽視グループを参照。ただし記事末尾に「2016年 – 米テレビメーカーVIZIO買収」と書かれているが、これは今年4月に入って中止されている。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)