Mac Miniレビュー:Appleはデスクトップをプロ向けにシフトし、エントリーレベルのユーザーを振り落としつつある

先月開催されたAppleのイベントでは、Mac Miniはまるで帰って来たヒーローのような歓迎を受けた。おそらくそれはやりすぎの広告戦略だったのかもしれないし、ブルックリンのオペラハウスの座席を近隣に住む従業員で埋めていたからなのかもしれない。

しかし少なくとも、忘れられていたように思われていたAppleの製品ラインの復活に対する、歓迎の声は大きかったことだろう。MacBook Airと同様に、この勇敢で小さなデスクトップは、表向きには放棄されていた。最後の意味のあるアップデートから4年が過ぎ、MiniはAppleの過去の遺物のように、琥珀に包まれていたのだ。

これに相当する科学用語は「ラザロ分類群」(Lazarus taxon)だ。一見滅びてしまったかのように見えて、のちに復活した生物群を指す用語である。確かに、AppleはMiniの在庫を切らしたことはなかったが、急速に進化するコンピューター機器の世界では、4年前のシステムは遥か昔に忘れられた古代文明の遺物のようなものだ。

とりわけそのギャップは、私たちにAppleのエコシステムとコンピュータの世界におけるMac Miniのポジションを、再考させる機会を与えていた。Appleは明らかに再考を進めていたのだ。実際、同社のデスクトップライン全体は、iMac Proの投入や、予告だけでまだ登場しないMac Proを含めて、この一年の間に明らかに再考されている。

Miniは長い間Appleのエントリーレベルのデスクトップだった。2014年モデルの499ドルという価格は確かにこの事実を強調していた。300ドルの価格上昇でも、最新のバージョンは依然としてデスクトップMacの世界で最もコストの低い入口を指し示しているが、間違いなく「エントリー」の看板は下ろすことになるだろう。

価格の急上昇には、当然注目すべき性能の上昇が伴っている。このことによって、この小さなデスクトップは、Appleが再びクリエイティブのプロたちのコアコンピテンスに応えるために進んでいる、デスクトップエコシステムの系列に投入されることになった。最新のMac Pro(実のところ、こちらもオーバーホールの期限は過ぎている)のパフォーマンスレベルに匹敵する性能を発揮する、組み込みコンポーネントに加えて、Appleはユーザーによるアップグレード性をさらに向上させた。Apple製品には珍しいことだ。

ここで注目すべきは、デバイスの背面にあるポート数の多さだ。ここには2個の完全なUSB 3ポートがあるが、古い機器への下位互換性を考えるとこれは安心材料だ。もちろん私は、両方のポートをすぐにキーボードとトラックパッドに接続した。デスクトップコンピューティングに関する限り、これはとても重要な事柄である。もちろん、ワイヤレスを使ったり、他に外せないアダプターを接続することも可能だ。

HDMI 2.0も備わっているが、同時にヘッドフォンジャックも残されている、これはかつてはどこにでも見られたポートだが、Mac製品ラインにはかろうじて残されている。これがずっと残り続けることを祈りたい。有線のヘッドフォンを接続できることは、Applenデスクトップやラップトップに頼るクリエイティブオーディオのプロフェッショナルには本当に重要なことである。にもかかわらず、他の製品ラインではおかしなことが起こっている。

しかし、I/Oに関する最大の転換は、4つものThunderbolt 3ポートを提供していることだ。それはiMac Proと同じ数であり、2017年版の普通のiMacの2倍である。これはコンピューティングの多様性をさらに向上させる。私の机の上に関して言えば、Appleがテスト目的で送ってきたLGの4Kモニターを、接続できていることを喜んでいる。

あと必要なのは、すでに混み合っている電源タップに接続すること位だ。2台の4Kディスプレイ、もしくは1台の5Kディスプレイをサポートするのに十分なパワーがある。もしイカれた気分に囚われたならHDMIポートに3台目の4Kディスプレイを接続することもできる。しかし今の所、残りのポートは機器の充電用として使っている。

内部グラフィックスはオーバーホールされていて、Intel UHD Graphics 630は、前世代に比べ最大60%の性能向上を謳っている。しかし530cb程度のCinebenchスコアは、最新のiMac(Proではない)とほぼ同じである。

これがThunderboltポートに注目したくなる理由だ。そこには外部GPUを1〜2台接続することができる。実際、それはステージ上では言及されていなかったが、ハードウェアパートナーのBlackmagicは、Apple専用のeGPUをイベント当日に発表している。今回のものは遥かに性能の高い(そして価格もそれに合わせて高い)Radeon RX Vega 56カードを搭載している。

これは、より本格的なゲームプラットフォームになるという、同社のますます大きくなっている野心に沿った素敵な一歩だ。しかし、こうしたシステムでさらに大事な点は、写真や動画編集などの、リソース集約型のグラフィックタスクをより多く行うユーザーたちにとって、重要なアップグレードだったということだ。AppleはVR制作のような、より重いタスクのためのコンテンツ制作プラットフォームへの道も推進している。しかし、たとえ外部GPUが使えるとしても、そうしたユーザーたちはその名前に”Pro”が冠されたApple製品を求めているのだ(前述の外部GPUが取り込まれた形で)。

私たちの入手したユニットには8GBが搭載されている。言うまでもなくこれは2014年モデルで提供されていたものと同じエントリーレベルの構成だ(速度は向上しているが)。しかしそれは購入時に、もしくは後から自分でケースを開けて、8倍に増やすことができる(もちろんそれなりの費用はかかる)。ストレージ(現在は完全にSSDだ)はユーザーによって交換することはできないが、注文時に2TBまで増やすことができる。

サイトに出ているままの構成の私たちのユニットの価格は799ドルで、これはエントリーレベルのバージョンである。それはクアッドコアの3.6GHz Intel Core i3、8GBのRAM、そして128GBのストレージを搭載している。パフォーマンスについて言えば、Geekbenchの値は、シングルコアで4685、マルチコアでは13952となった。もちろん、2014年版と比べれば大幅に改善されているが、たとえばハイエンドの2018年版MacBook Proにはかなわない。それらの数字を上げるために、Core i7にしたくなるだろう。その場合は1099ドルからのスタートだ。そして、言わずもがなの警告ではあるが、もし全てのスペックを最上のものにすると、システムの価格は4199ドルに達する。これはもうiMac Proの領域である。

もちろん、最も低い仕様のバージョンでも、ほとんどのタスクはうまくこなしてくれる筈だ。私はここ2、3日というもの、自分の標準的なテックブロガーの仕事をこのマシン上で行なっているが、その結果には完璧に満足している。しかし一方で、ワークロードがプロセッサやグラフィックスに集中する場合には、この部分を強化したくなるだろう、あるいは”Pro”がその名前につけられたデスクトップの購入を真剣に考えることになる。

予算に縛られている人にとっては、ベースレベルで300ドルの価格引き上げは、気持ちをたじろがせるには十分だ。構成部品がより高価であることは事実だが、Appleが今回、Proエコシステムへの入口となる製品を提供することを選ぶことで、真のエントリーレベルユーザーたちを価格で振り落としたのではないかという疑念を拭うことができない。とはいえ799ドルという価格は、Appleのデスクトップとしてはかなり妥当な価格だとは思えるのだが。

ローエンドのデスクトップユーザーと、高い処理能力を必要とするユーザーの両方に対応することは難しい、何よりそれこそが、異なるMacBookモデルの存在する理由なのだ。一方Miniは、Appleのラップトップよりは確かによりニッチなデバイスだ。

しかし、Miniはそれ自身の興味深いニッチ分野を築き上げている。この最新バージョンは、単にデスクトップとして使われる場合以外の用途も明らかに意識して作られている。AppleはITにおける利用例を紹介した。この製品の小型でフラットなデザインは、サーバー用途への候補として興味深い。データセンター全部をこれで運営するのは少しばかり高価につくだろう、だがそれができるとなれば、間違いなくやる奴らは出てくる

こうした、様々な予想外の使用例の存在が、Appleに今回も同じサイズの機器を作らせた大きな理由だ。多くのサードパーティがすでにそのサイズ用のアクセサリを製造している。そうだとすれば単に新しいユニットと差し替えやすくするのは当然ではないだろうか?またこのフットプリントは、複数のマシンの出力を一度に必要とするワークロードに対して、コンピュータを容易に積み重ねることができることを意味する。

つまり、机の上で邪魔にならずに増やしていける良いサイズなのだ。これを書いている今、Miniはキーボードの先、モニターの下に程よく収まっている。スペースグレーメタルへの変更は、残りのMacたちの美しさとマッチする(新しいiPad Proは言うまでもない)し、私の黒い机にも具合よくフィットする。

Mac Miniは間違いなく、前バージョンに対する強力なアップグレードであり、Macの生態系の未来を垣間見ることができる興味深い製品だ。しかし、この製品のプロへの野望に伴って、799ドルからという、より高価な値札が付けられた。今でもMiniは、デスクトップMacエコシステムに入るためには、最も適切な価格なゲートウェイだが、Appleにとっての「エントリーレベル」の定義は、前回に比べて明らかに変化している。

[原文へ]
(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。