大日本印刷(DNP)は9月8日、マンガに特化したAI翻訳サービスを展開するMantraと共同で、マンガのためのAI翻訳エンジンを開発したと発表した。これは、DNPが独自に開発したマンガを多言語化するシステム「DNPマンガオンラインエディトリアルシステム MOES」(モエス)に搭載されるもの。2021年度中の実用化を目指している。
海外での日本のマンガの需要が増加し、マンガを多言語化してグローバル展開するための体制整備が進められているが、マンガの翻訳については、話し言葉が多いことや、吹き出で文章が細切れになることなどから自動翻訳が難しく、翻訳タイトル増加のネックになっているという。コストや負担の面から翻訳タイトルの数を抑える出版社も多いとのこと。そこで、DNPとMantraは、マンガに特化して精度を高めたAI翻訳エンジンを開発した。
MOESは、マンガの翻訳・レンダリング・校正・進捗管理などを行うクラウドシステム。2016年から印刷物や電子書籍の翻訳版マンガ制作に利用されている。DTPソフトを使わずに、マンガのレイアウト上に直接翻訳文章を書き込めるため、文章の入れ違いなどのミスが防止できるほか、時差のある海外との作業では、データの授受や進捗管理を容易にして作業負担の軽減や時間短縮を可能にするという。これにAI翻訳機能が搭載されることで、ある翻訳会社の評価テストでは、翻訳作業時間が従来に比べて30%短縮されたという。
今後は、海外での需要が高い着色や縦スクロール化などの機能を開発し、MOESを軸とした海外版マンガ制作、製造体制を強化するとのこと。また、雑誌から単行本、海外版制作から電子コミックの配信という一連の流れを支援し「海外のマンガファンが多くの作品に触れる機会を創出」するという。さらに、サプライチェーンの最適化、コンテンツ価値の最大化などに取り組み、生み出した利益をコンテンツホルダーなどに還元することで、出版界の継続的な発展に貢献するとDNPは話している。
このシステムと国内外のマンガ制作関連事業で、DNPは5年後までに120億円の売上げを目指す。
2020年1月設立のMantraは、「世界の言葉で、マンガを届ける。」ことを目指し、マンガに特化したAI技術の研究開発およびサービスを提供するスタートアップ。2020年に公開したマンガの多言語翻訳システム「Mantra Engine」は、国内外のマンガ配信事業者・翻訳事業者・出版社に導入され、マンガ多言語展開の高速化に寄与しているという。2021年には、独自のマンガ機械翻訳技術が、人工知能分野のトップ国際会議AAAIに採択された。