.meの歴史、モンテネグロが独立で勝ち取った大きな資産

Montenegro Kotor Bay at Sunset

【編集部注】執筆者のAlan DunnはNameCorpのマネージング・ディレクターでありながら、シニア・デジタル・ネーミング・エキスパート兼ブランドコンサルタントでもある。

10年前、国民投票で賛成派が規定の割合を1%未満の僅差で上回り、モンテネグロはセルビアから分離して独立を果たした。そしてこの独立は、コネチカット州ほどの大きさの同国にとって様々な変化を意味した。数ある重要な変革の中でも、当時あまり注目されていなかったのが、モンテネグロのドメインの変更だった。

ほぼ全ての国がユニークなドメインを持っており、これはccTLD(country code top-level domains=国別コードトップレベルドメイン)と呼ばれている。例えばカナダであれば.ca、イギリスであれば.uk、デンマークであれば.dkというドメインが割り振られている。しかし国民投票以前のモンテネグロは独立国家ではなかったため、(ユーゴスラビアの一部として)cg.yuというドメインを使用していた。2003年のユーゴスラビア解体の結果、新たにモンテネグロには.csというドメインが割り当てられたが、新たなドメインへの移行は活発に行われていなかった。

前述の国民投票の結果を受け、2007年にモンテネグロ政府は公式なRFP(提案依頼書)を発布し、GoDaddy.com、Afilias Limited、ME-net, Ltdのジョイントベンチャーであり、モンテネグロに拠点を置くdoMEn Ltdを指定業者に選んだ。同社は5年間にわたって.meのレジストリとなる契約をモンテネグロ政府と交わし、その後契約は2023年まで10年間延長された。

一見すると、.meドメインとはモンテネグロに関することだと思うかもしれない。しかしこのドメインはその後もっと多くの人々をひきつけ、WordPressやFacebook、PayPalを含むグローバルブランドにも採用されることになった。結果的にこの短いドメインは、ドメイン名そしてモンテネグロの様相を一変させることになる。

100万件の登録

2016年3月に、.meの登録件数が100万を超えた。これは香港とアイルランド、シンガポールのccTLD登録件数を足し合わせた数よりも多い(Domain Toolsの情報)。

.ukや.deといったccTLDの登録件数はもっと多いものの、.meほど世界中に広まったccTLDというのはあまり存在しない。

輸出額の2%

モンテネグロの統計局であるMONSTATによれば、2015年の同国の輸出総額は3億1720万ユーロだった。

それと比較して、doMEn LtdでCEOを務めるPredrag Lesicは「2015年の.meドメインからの売上総計は650万ユーロでした」と話す。さらにLesicは、モンテネグロ政府の会計制度上、ドメイン名からの収益は通信収益としてカウントされているが、「現在.meドメイン登録者の99%以上が国外にいる(=輸出されている)」と付け加える。

つまり.meアカウントはモンテネグロの輸出総額の2%以上に相当するのだ。

誰が.meドメインを購入しているか?

.comや.netのように、.meドメインの所有者の多くはアメリカと中国にいる。doMEn Ltdによる2016年Q3の.meドメイン所有者の内訳は以下の通りだ。

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出典: .me registry

サービス・プロバイダー(登録申請を代行する指定業者)でさえ、ほとんどがモンテネグロ国外に拠点を置く企業だ。2016年Q3時点で、.meドメインを扱う業者の76.45%がアメリカか中国にいるとされている。

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出典: .me registry

モンテネグロは世界中で需要のあるデジタルプロダクトを手に入れただけでなく、ドメインをマネタイズし国内の経済を潤すと共に、産業にも大きな変化をもたらすことに成功した。例えばDomain.meのCSRプログラムの一部として、Spark.meと呼ばれるカンファレンスが2013年にスタートした。

海辺のリゾート都市Budvaで毎年開催されているこのカンファレンスには、テック業界の全ての分野からさまざまな人が参加している。過去にはMatt Mullenweg(WordPress創始者)、Peter Sunde Kolmisoppi(The Pirate Bayの共同ファウンダー)、Christopher Fabian(ユニセフ・イノベーションユニットの共同ファウンダー兼共同リーダーであり、TIME紙が選ぶ2013年版『世界で最も影響力のある100人』のひとり)がスピーカーとして同カンファレンスに参加していた。

一夜にして10年分の成功を掴む

現在世界中には何千という数のドメインが存在するが、10年前に.meが作られたときの状況は今とはかなり違っていた。アメリカ大統領はTwitterアカウントを持っておらず、新しいgTLD(generic top-level domains=ジェネリックトップレベルドメイン)は遠い存在であり、Uberは単なる形容詞でしかなかった。

.meによってccTLDという言葉が一般に広まっただけでなく、.meは.coと共にドメインのマーケティング戦略を大きく変えたと言われている。

モンテネグロが自国で貨幣を発行しておらず、コネチカット州ほどのサイズしかない国だと考えると、全く大したものだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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