NFT・DeFi革命を支えるイーサリアム、大型アップグレード「イーサリアム2.0」について簡単解説

NFT・DeFi革命を支えるイーサリアム、大型アップグレード「イーサリアム2.0」について簡単解説

編集部注:この原稿は千野剛司氏による寄稿である。千野氏は、暗号資産交換業者(取引所)Kraken(クラーケン)の日本法人クラーケン・ジャパン(関東財務局長第00022号)の代表を務めている。Krakenは、米国において2011年に設立された老舗にあたり、Bitcoin(ビットコイン)を対象とした信用取引(レバレッジ取引)を提供した最初の取引所のひとつとしても知られる。

2021年の暗号資産業界は、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)やDeFi(分散型金融)などに代表にされるように、ビットコイン以外の領域で大きな革命が起こった年です(日本銀行「暗号資産における分散型金融」も参照)。2021年のビットコイン(BTC)価格の上昇幅は、株など伝統的な資産と比較すればかなり高いリターンですが、実は主要仮想通貨20銘柄でみると、下から3番目の低記録です。理由は、イーサリアム(Ethereum)や「第3世代」といわれるその他ブロックチェーンの台頭です。本稿では、NFTやDeFi革命をさらに加速させる原動力となるイーサリアムの大型アップグレードと、その成功のカギについて、解説します。

NFT・DeFi革命を支えるイーサリアム、大型アップグレード「イーサリアム2.0」について簡単解説

(出典:Kraken Intelligence「2021年のリターン 主要20種(SHIB除く)」)

ブロックチェーン第3世代

DeFiやNFTのプロジェクトは、ほとんどがイーサリアムを基盤としています。イーサリアムの最大の功績といって良いのが、スマートコントラクトの発明。スマートコントラクトは、ブロックチェーン上であらかじめ決められた契約を自動的に実行する仕組みです。スマートコントラクトのおかげで、イーサリアムのブロックチェーン上で、仲介業者なしで成り立つ分散型アプリ(dApps)開発が進みました。イーサリアムがNFTやDeFiの受け入れ基盤として大きなシェアを獲得している理由は、スマートコントラクトの先駆けである点が大きいでしょう。

しかし、最近はソラナ(Solana。GitHub)やアヴァランチ(Avalanche。GitHub)、カルダノ(Cardano。GitHub)など「イーサリアムキラー」と呼ばれるブロックチェーンが台頭し、DeFiやNFT領域におけるイーサリアムの市場シェアを奪う動きが出ています。例えば、DeFi関連データの集計サイトDeFi Llamaによりますと、約1年前、DeFiプロジェクト全体の預かり資産(Total Value Locked)は、イーサリアムがほぼ100%のシェアを占めていましたが、63.13%(2021年12月13日時点)まで低下しました。

NFT・DeFi革命を支えるイーサリアム、大型アップグレード「イーサリアム2.0」について簡単解説

(出典:Kraken Intelligence「DeFi預かり資産に占めるイーサリアムの割合」)

なぜでしょうか?

そこには、「ブロックチェーンのトリレンマ」問題が深く関わってきます。これは、イーサリアム創設者ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏が指摘した問題で、「スケーラビリティ」(規模の拡張性。Scalability)と「セキュリティ」、そして「分散性」(Decentralization)の3つすべてを同時に成立させることは難しいことを意味します。

イーサリアムは、分散性とセキュリティでは成功していますが、問題となっているのがスケーラビリティです。スケーラビリティとは、いわば、増え続けるユーザーやデバイスをサポートするブロックチェーンの「容量」を指します。

NFTやDeFi市場の急拡大によって、多くのユーザーがイーサリアムに殺到した結果この「容量」が課題となり、イーサリアムのネットワークの「渋滞」とそれに伴うガス代(手数料)の高騰が発生。それを嫌気した多くの開発者やユーザーが他のブロックチェーンに移るという現象が発生しています。

イーサリアムの代替となるブロックチェーンは、第3世代ブロックチェーンと呼ばれています。ビットコインを第1世代のブロックチェーン、イーサリアムを第2世代のブロックチェーンとすると、先に触れたソラナやアヴァランチ、カルダノは第3世代のブロックチェーンと位置付けられ、主にスケーラビリティ問題の解決に注力しています。

また、第3世代のブロックチェーンは、「インターオペラビリティ」(ブロックチェーン間の接続性。Interoperability)や「持続可能性」(サステナビリティ。Sustainability)も重視しています。とりわけ環境面の持続可能性問題に関して、ほとんどの第3世代は、環境に優しいといわれるPoS(プルーフオブステーク)というコンセンサスアルゴリズムを採用しています。

第3世代のブロックチェーンに関する詳細な解説は、次の機会に譲ります。今回は、イーサリアムも、やられっぱなしではなく、「イーサリアム2.0」(Eth2)と呼ばれる大型アップグレードによってスケーラビリティの問題に対応しようとしていることを紹介します。

「イーサリアム2.0」の目玉その1、「ステーキング」

イーサリアム2.0の目玉となるのが、「ステーキング」と「シャーディング」です。まずは、「ステーキング」を理解する上で必要な知識であるPoWとPoSという2つのコンセンサスアルゴリズムの違いについて解説します。

イーサリアム2.0と現在のイーサリアムの大きな違いの1つに、コンセンサスアルゴリズムと呼ばれる取引承認に関する合意形成の方法が変わります。現在のイーサリアムではPoW(プルーフ・オブ・ワーク)と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムを採用しています。イーサリアム2.0では、これがPoS(プルーフ・オブ・ステーク)と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムに変更されます。

PoWは、時価総額1位のビットコイン(BTC)も採用しています。ビットコインなどPoWのネットワークに参加するコンピューター(ノードと呼ばれる)は世界中に分散していますが、それらのコンピューター同士が取引記録の検証作業で競争をする仕組みになっています。

具体的には、条件を満たすハッシュ値を探すという演算競争で、最も早く解を得たコンピューターが報酬をもらえる仕組みになっています。この報酬をめぐって、世界中の企業がマイニング施設の建設や機器購入に巨額マネーを投じています。

演算の解をめぐるマイニング競争には大量の電力が必要となります。このためマイニング、ひいてはPoWというコンセンサスアルゴリズムは環境に悪いと見方があります。

対照的にPoSは、環境フレンドリーなコンセンサスアルゴリズムといわれています。イーサリアム財団は、PoWに移行したらPoWで使う電力消費量の99.95%を削減できるという試算を発表しました。

PoSにはマイナーが存在しておらず、代わりにバリデーターと呼ばれる存在が取引記録の検証を行います。一定の仮想通貨をPoSのネットワークで長期保有(ロック)することで、バリデーターがブロックを検証・承認する権限を獲得する仕組みです。これにより、PoWで見られたようなマイナー同士の競争がなくなり、電力の消費量が大幅に削減されることになります。

PoWとPoSは一長一短ですが、現在はESGs重視という世間的な後押しがあります。そうした状況では、何かとPoSに注目が集まるでしょう。イーサリアム2.0は、世間的に強い追い風を受ける中で立ち上げを迎えられるかもしれません。

「イーサリアム2.0」の目玉その2、「シャーディング」

次は、もう1つの目玉であるシャーディングについてです。先述のスケーラビリティ問題への対策として位置付けられます。

シャーディングとは、データベースを分割することで負荷を分散させる技術を指します。イーサリアムの場合、シャーディングによりイーサリアムのネットワークをさらに64の新しいチェーンに分割することで、取引処理能力向上を目指します。分割されたチェーンを「シャード」と呼びます。

シャードのおかげで、イーサリアムのこれまでの取引記録を分散して保管することができます。バリデーターは、全体ではなく、各シャードの取引記録を検証すればよくなります。

イーサリアム財団によると、2022年に、2020年12月に立ち上がったイーサリアム2.0の基盤となるブロックチェーン(ビーコンチェーン)と、現在のイーサリアムのブロックチェーンによるマージ(統合。Merge)、またそれによるPoSへの移行が予定されています。イーサリアム共同創設者ジョセフ・ルービン(Joseph Lubin)氏が設立したコンセンシス(ConsenSys)によると、マージは2022年の第1四半期か第2四半期に実施されます。

シャードチェーンの導入は、イーサリアム財団によりますと、2023年と推定されています。

現在イーサリアムは、開発者のリソースとユーザーベースで他を圧倒しており、DeFiやNFTなど業界最先端技術の受け皿となっています。今後の焦点は、「イーサリアムは『イーサリアムキラー』からどこまでシェアを守れるのか?」でしょう。イーサリアム2.0の進捗が予定通り進んでいることで開発者やユーザーを安心させ、ガス代高騰が長続きしないことを示すことが、イーサリアム成功のカギとなるでしょう。

画像クレジット:Kanchanara on Unsplash

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。