2020年は世界中がパンデミックに見舞われるという特別な年となり、家で仕事をする人の数が激増したが、その生活様式の移行により、私たちのブロードバンドネットワークの質がいまひとつであることが露呈した。米国時間2月22日、ブロードバンド接続を最適化するメッシュWi-Fiプラットフォームを構築し、世界の2200万世帯に幅広いスマートホームサービスを提供するスタートアップPlume Design(プルーム)が、2億7000万ドル(約285億円)という大型ラウンドによる資金調達を発表した。Wi-Fi環境のさらなる改善が期待される。
「私たちは家庭内のWi-Fi接続の最適化に長けていますが、それが目標ではありません」とPlumeの共同創設者でありCEOのFahri Diner(ファリ・ダイナー)氏はTechCrunchのインタビューで話した。「私たちはこれを基礎と考えています。そこで経験を積んできたわけですが、さらに大きく進歩して、高度なペアレンタルコントロールや、どのデバイスがネット接続ができて、どのパスワードを使うかを管理する安全なアクセスコントロールといったサービスも提供するようになりました。私たちは、消費者が関心を高めつつあり、次の大きな市場分野になると目される洗練されたセキュリティに重点を置いています」。
「Plumeの究極の製品は、顧客がキュレーション、管理、サービスの提供を行える、総合的なクラウド駆動型プラットフォームです。それがこの会社の目的なのです」。
今回のシリーズE投資は、投資会社Insight Partners(インサイト・パートナーズ)の単独の出資によるもので、現在のPlumeの評価額は13億5000万ドル(約1420億円)とされた。これは大変な成長だ。ちょうど1年前、同社はエクイティとデットの組み合わせで8500万ドル(約90億円)を調達したが、そのときの評価額は5億1000万ドル(約538億ドル)だった。
家庭用ブロードバンドネットワーク業界の人間でない限り、Plumeという社名に馴染みはないだろう。だが、それを利用したことがない人でも、同社の技術を使ったサービスの宣伝を聞いたことならあるかも知れない。または、間もなく耳にするようになるだろう。
パロアルトを拠点とする同社は、家庭向けブロードバンドサービスの提供と、家庭でのWi-Fi接続の性能を高めるPlumeのメッシュ技術を販売する世界170社あまりのキャリアと契約している。この技術は、古くて大きな家や、大勢の人が住んでいてブロードバンドネットワークの負担が大きい家では特に重要だ。ネットワークセキュリティ、ペアレンタル接続コントロール、モーション認識といったPlume独自のサービスもこれに加わる。
Plumeは、これらの付加サービスをHomePass(ホームパス)というブランド名で提供しているが、さらにキャリア向けにクラウドベースの運用ツールHaystack(ヘイスタック)とHarvest(ハーベスト)も用意されている。これらは、キャリアのカスタマーサポートとネットワーク管理の支援、より良いパフォーマンス分析データの収集、利用者の使用と乗り換えに関する状況報告などを行う。
Plumeはまた、大手ながらあまり知られていないハードウェアメーカーとも提携し、同社の事業を支えるルーターやプロセッサー、関連ソフトウェアの開発も行っている。
顧客の一部であるComcast(コムキャスト)、Charter(チャーター)、Qualcomm(クアルコム)、Belkin(ベルキン)、Cablevision(ケーブルビジョン)、Liberty Global(リバティー・グローバル)、Shaw Communications(ショウ・コミュニケーションズ)は、長年の戦略的投資者にもなっているが、これが市場のビッグプレイヤーを引き寄せている証拠だ。同社はこれまでに、総額で3億9700万ドル(約420億円)を調達した。
家庭のWi-Fi環境改善には、高速ネットワークから高性能なルーターやWi-Fi中継器など、何年間にもわたる数々の努力があった。
Plumeの技術は、その中の1つのテクノロジーであるメッシュアーキテクチャに基づいている。これはGoogle(グーグル)のNest(ネスト)Wi-Fiシステムにも使われているものだ。1台のルーターと複数のノードで構成され、それらがネットワーク上の単一のデバイスであるかのように振る舞う(これに対して中継器はそれぞれ独自のSSIDとパスワードを持つ)。
このメッシュアーキテクチャの上に、Plumeはソフトウェア定義のネットワークを構築し、トラフィックを正確に測定できる。そのためオートメーション機能が、例えばネットワークに新しいデバイスが追加され、正常に機能させるためにはもっとパワーが必要だと判断すると、自動的に対処する。
Plumeには、取得したものと申請中のものを合わせて170ほどの特許技術があり、それらが製品を支えてる。
注目すべきは、Plumeが一時期、メッシュベースのWi-FiルーターのスタートアップEero(エーロ)と比較されていたことだ。Eeroは後にAmazon(アマゾン)に買収され、Amazonは現在、同社独自のメッシュWi-Fiソリューションの一部としてそのルーターを販売している。
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だがこの2つの企業には、決定的な違いがある。それは主に双方の基礎となっている事業の前提だ。ダイナー氏が指摘するように、Plumeのサービススタックは、ルーターを中心としたものではない(Eeroはルーター中心だった)。むしろ、ハードウェアとクラウドを結ぶオープンソースのフレームワークプラットフォームを利用したメッシュ技術を主体として、OpenSync(オープンシンク)と呼ばれるメッシュネットワーク上で利用できるサービスを構築することが主軸になっている。これにより、サービスプロバイダーは、Plumeのメッシュアーキテクチャの上に独自のサービスを構築できる。
ちなみに、ダイナー氏は、キャリアーが何を求めているか、実際に何を使い、何を考えているかを、長期的な視点で深く理解している。彼自身は工学の教育を受け、いくつものベンダーに勤め出世の道を歩んできた。ちょうど、キャリアが従来の銅線から光通信のファイバーへと移行していった時期だ。電気通信事業社の資本支出が最高潮だったころ、彼は自分で立ち上げた長距離光通信ネットワークのパイオニア企業Qtera(キューテラ)を、今はすでに廃業したNortel(ノーテル)に32億ドル(約3380億円)で売却している。彼自身もまた長期的な視野を持つ投資家であり、数々の大手次世代型通信ベンダーの役員にも就いている。
電気通信の世界は共食いされないか、いわゆる「ダムパイプ」の役割に追いやられないかと、長い間心配し続けていたのだが、そんなキャリアに、PlumeはWi-Fi接続で使えるサービス、つまりアプリの開発という道を提示した。
だが、音声、ブロードバンド、映像の3つのサービスを提供するというキャリアの「トリプルプレー」の約束が、特に固定電話回線の利用と維持に関心を持つ利用者が減ったことで果たせなくなり、キャリアの存在の危機はさらに高まった。コンテンツでは、テック企業やメディア企業が大量に送り込んでくる、より魅力的で新鮮な独自制作作品に完全に負けてしまった。
あとはブロードバンドに目を向けるしかなかったのだが、それは一定の価格で商品化されたため、どのキャリアも同じような速度と信頼性を提供することになった。
「どう差別化するか」が全員の疑問となったと、ダイナー氏はいう。Plumeの答えは「新しいサービス一式によって家の中で差別化を図る」ことだった。
ところが現実には、最大手級のキャリア(それもすべてではない)にしか、そのためのリソースも意欲もないかも知れなとダイナー氏は話す。現在170社を数える顧客の中でも、そのプラットフォーム上に独自のサービスを構築している企業は5社だけだという。
だからこそPlumeは、サービスを開発してそれをキャリアにホワイトラベルとして提供し、利用者に販売できるようにしている。このサービスがサービスプロバイダーの間で大きな関心を集めているのも、そのためだ。OpenSyncは、現在2600万カ所のアクセスポイントをカバーしているが、家庭に導入されるデバイスが増え、1日中使用されるようになるにつれ、その数は急増している。
そうした家庭向けサービスも、いずれは各社とも似通ったものになっていくのではないかと思われるかも知れない。しかし、オープンプラットフォームは、やがて多くの企業やサービスに革新を引き起こすようになると、単純に期待できる。
当面は、PlumeにとってWin-Winの状態が続く。
「スマートホーム分野は爆発的に成長していますが、消費者のエクスペリエンスの質は低下しています」とInsight Partnersの業務執行取締役Ryan Hinkle(ライアン・ヒンクル)氏は声明の中で述べている。「私たちは、Plumeが、そのスケーラブルなクラウドデータプラットフォームのアプローチ、高効率な市場開拓戦略、大きな勢い、全SaaS KPI中でトップ4に入る業績(収益、成長率、粗利益、効率性、顧客維持率など)、世界クラスのチームによって、この分野に変革をもたらすと確信しています。このエキサイティングな旅に参加し、支援できることを心からうれしく思っています」。今回のラウンドから、ヒンクル氏はPlumeの取締役会に参加する。
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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Plume、Wi-Fi、メッシュネットワーク、ブロードバンド
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(文:Ingrid Lunden、翻訳:金井哲夫)