誰もが同じポッドキャストを聴いているような気がするとしたら、それはおそらく偶然ではない。音声ベースのエンターテインメントやソーシャルメディアは現在、かつてないほどの人気を博しているが、この媒体はいまだに、どうやってリスナーに見付けてもらうかという問題に悩まされている。ヒットしたポッドキャストが人気を博し、そのメディア帝国を拡大して、有名ブランドとの契約を獲得する一方で、新進気鋭の番組が聴取者を見つけることは難しい。
Racket(ラケット)は、そんな問題を解決したいと考えている。App StoreでiOS版が公開されているこのアプリは、すべて99秒以内の音声作品を、TikTok(ティックトック)のような縦方向のフィードでエンドレスに提供する。誰でも簡単に録音した音声をアプリ内で編集し、関連するタグを組み合わせ、カバー画像を追加して公開することができ、そのプロセスには1分もかからない。
同社はこの度、Greycroft(グレイクロフト)、Foundation Capital(ファウンデーション・キャピタル)、LightShed Ventures(ライトシェド・ベンチャーズ)などの投資家から、300万ドル(約3億5000万円)のプレシード資金を調達したことを発表した。YouTube(ユーチューブ)チャンネル「LaurDIY」のLauren Riihimaki(ローレン・リヒマキ)氏、Jason Calacanis(ジェイソン・カラカニス)氏、Steve Schlafman(スティーブ・シュラフマン)氏などのエンジェル投資家も出資している。Racketはこの資金を、エンジニアの増員、デザインの微調整、信頼性と安全性に関するリソースの拡大に充てる予定だ。
Racketのチームは以前、ソフトウェアレビュー会社のCapiche(カピチェ)で2019年から一緒に働いていた。Capicheが2021年4月にSaaS購入プラットフォームのVendr(ベンダー)に売却された後、チームはそのまま残って音声を使った実験を始め、Racketを作り上げた。
RacketのAustin Petersmith(オースティン・ピータースミス)CEOは、ユーザーが作成する音声コンテンツの未開発の可能性を信じている。TechCrunchとの対談で、ピータースミス氏はポッドキャストを他のジャンルのコンテンツ制作と比較し、「1億人がTikTokで動画を作成しているのに、現時点では100万人しかポッドキャスティングしていないことを考えれば、音声コンテンツの分野はまだまだ成熟していない」と主張した。
Racketのチームは、音声コンテンツには参入障壁があり、それがこのメディアの発展を妨げていると考えている。「音声コンテンツを制作する人がごくごく限られているというこの状況は、不思議な感じがします」とピータースミス氏は語る。「新しいポッドキャストが躍進することは不可能に近いのです」。
Racketでは、フォーマットを短く設定し、編集プロセスを非常にシンプルにして、最初からコンテンツの発見を中心に構築することで、この摩擦を減らすことを目指している。音声作品の長さを99秒以下に制限することによって、より多くの人が、長くてきちんと構成されたオーディオショーを作らなければならないのではないかという心配から解き放たれ、単にジョークを言ったり、最近あったことの話などを共有できるようになることを、このアプリは期待している。
「私たちは、人々が不完全でも豪華な機材を持たなくても大丈夫なんだと、もっと感じられるように、敷居を下げようとしました」と、ピータースミス氏は語り、Racketのフォーマットをポッドキャストのツイート版に例えた。
Racketでは、ユーザーは知り合いを見つけてフォローすることもできるが、ほとんどの場合、自分が探しているとは思わなかったものを偶然見つけるところに楽しさがある。ユーザーは関連タグが付いた「Rackets」を検索したり、あるいは単にサイコロを振って出たコンテンツを聴いてみたりすることができる。「私たちは、他の方法では共有されなかったような、本当に面白い洞察力に富んだことを言っている人たちへの流入を増やすことができると信じています」と、ピータースミス氏は述べている。
他のすべてのソーシャルプラットフォームと同様、Racketの成功は、人々がそこで作るコンテンツに懸かっている。このアプリはまだ公開されたばかりだが、テスト期間中には、このフォーマットに興味を持ったコメディアンたちが、お互いに招待し合うという小さなサブコミュニティの発生が見られたという。ピータースミス氏は、このユニークなフォーマットに興味を持った他のコミュニティが、有機的に広めてくれると期待している。ポッドキャストは、洗濯中や通勤中など、何かをしながら聴くことが多い。しかし、どんなふうに使いたくなるかという点において、Racketにはもう少し能動的な感じがある。そのあたりはやはり、音声のみではあるがTikTokに似た楽しみ方ができる。積極的にスワイプして気になるコンテンツを探したり、コメント欄を眺めたりもできるが、携帯電話をポケットの中に入れたままにして、何が出てくるかわからないフィードを聴き続けることもできる。今のところ、コンテンツはかなりランダムに感じられるだろうが、しかしポッドキャストが長すぎると感じている人には、新たな楽しみとなるかもしれない。
「私たちは、画面をずっと見ていたいと思わない人たち向けのプラットフォームを提供したいと考えています」と、ピータースミス氏は語っている。
画像クレジット:Racket
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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)