今月初めにRed Hat(レッドハット)のCEOであるJim Whitehurst(ジム・ホワイトハースト)氏が親会社IBMの社長に就任したとき、同氏に代わる人物は、論理的な帰結として長年経営幹部を務めたPaul Cormier(ポール・コーミア)氏だった。混乱を極めるこの時期に経営を引き継ぐコーミア氏は、企業がワークロードを次々にクラウドへ移行し開発アプローチをする中で、Red Hatは顧客を支援できる最適な立ち位置にいると考えている。
TechCrunchは4月29日にテレビ会議でコーミア氏と話した。新しい立場に違和感はないように見えた。テレビ会議では、新しい役割が同氏個人にもたらした変化、現在の状況でどのように会社を導いていくのか、IBMとの関係はどうなるのかについて話した。
同氏が強調したことの1つは、Red HatはIBMファミリーの一員ではあるが完全な独立経営であり、IBMを特別扱いしないということだ。IBMは一顧客にすぎないと同氏が主張するアプローチは極めて重要だ。
コミュニケーション
長年にわたりエンジニアリング、ビジネスユニット、CTOとさまざまな仕事を経験し、この役割に十分に備えてきたと同氏は言う。CEOになった今、これまでと大きく異なる点は、今までのポジションでは技術者であって、同僚とエンジニアリングの言葉で話していたことだ。CEOになってこれは大きく変わった。コミュニケーションが重要視されるこの状況ではなおさらだ。
パンデミックの状況下でこれは大きな挑戦だ。オフィスに出向き、打ち合わせをしたり、カジュアルにコーヒーを飲みながら談笑したり、誰かにばったり会ったりする代わりに、オフィスに出なくても従業員がつながりを感じられるようコミュニケーションをより慎重に行う必要がある。
「私は隔週で全社会議を行っている。普通に仕事をしていると自然とコミュニケーションが減ってしまうため、コミュニケーションしすぎるということはない。意識的に増やさねばならない。それがおそらく一番重要なことだ」とコーミア氏は語った。
市場開拓面の課題
コーミア氏は、エンジニアリングの面ではほとんど変化がないと見ている。多くの人々がしばらくリモートで働いている。一方、市場開拓チームは、顧客との関係構築で深刻なハードルに直面する可能性がある。
「市場開拓や営業面の課題は、顧客がこの状況からどう抜け出すかがわからないことだ。どの会社も今の状況からどう抜け出すかについてさまざまな戦略を立てるだろう。それがいろんなことを動かす大きな原動力になるはずだ」と同氏は述べた。
今週、コーミア氏がCEOに就任して最初のRed Hat Summitがあった。世の中の多くの会議と同様、ライブイベントからバーチャルイベントに迅速に変更する必要があった。シャットダウン以来、顧客と再会する本当に最初の機会となった。顧客はナーバスになっていた。「うまくいったのは嬉しい驚きだった」と同氏は語った。交通費を払わなければならないライブイベントよりも多くの人々が参加できた。
カンファレンスは、営業チームが将来の営業の基礎を築き、しっかりと磨き上げる場所だ。直接会えないことは大きな変化だったはずだが、コーミア氏は「今週は思っていたよりも良かった」と述べた。営業チームにとっても将来のバーチャルイベント実行に向けて学ぶ点が多かった。
「我々は皆、フェイストゥフェイスのコミュニケーションがなくなって残念に思っているが、新しいことを学んでいると思う。当社のチームは学びながら素晴らしい仕事をしたと思う」と同氏は語った。
IBMを特別扱いしない
IBMファミリーの中でコーミア氏がRed Hatのリーダーの役割を果たす一方で、同社は非公開となったため、IBMの新しいCEOとなったArvind Krishna(アービンド・クリシュナ)氏が実質的にRed Hatの取締役会に入っているとコーミア氏は説明した。IBMが2018年に340億ドル(約3兆6000億円)を払ってRed Hatを買収したとき、Red Hatは会社を時代に合ったものにし、ハイブリッドクラウド市場で真の意味でのプレーヤーになる方法を探っていた。
「ハイブリッド」というのは、オンプレミスとクラウドの両方に存在するインフラを管理する際に、2組のツールを使用しなくても良い方法を見つけることだ。IBMはRed Hatに全面的に関与しているが、コーミア氏は顧客との関係構築のために絶対に不可欠なこととして、IBMを特別扱いしないこと、IBMが絡む取引に特別価格を設定しないことを挙げた。
それにとどまらず、Red Hatには適切だと思う方法で会社を経営する自由があると同氏は言う。「IBMが当社のプロダクト戦略を策定するわけではないし、優先順位を決めるわけでもない。IBMは、当社のオープンソースプロダクトが徐々にIBMのプロダクトと競合していくと見込んでいるが、彼らはそれでもいいと思っている。 そのことは理解していると思う」とコーミア氏は語った。
同氏は「こうした方向性を認めないなら、そもそもIBMが大金を払った理由がないがしろにされてしまう」と言う。Red Hatが行ってきたことを継続し、それによって顧客満足を実現できるかどうかはコーミア氏の手腕にかかっている。これまでのところ、同社は上場企業だったときと同じように上昇軌道を保っているようだ。
IBMの1月の最新決算発表によると、Red Hatの四半期売上高は10億7000万ドル(約1100億円)だった。やはり非公開企業だった前期の8億6300万ドル(約920億円)から増加した。これは年換算で40億ドル(約4300億円)を超える数字で、数年前にホワイトハースト氏が設定した50億ドル(約5400億円)の目標をも射程に収める。
目標を達成し、さらにその先へ進むのは今やコーミア氏の仕事だ。確かにパンデミックがそれを難しくする。だがコーミア氏は、IBMファミリー傘下の会社のCEOとしてバランスを取りながら会社を次の段階へと導く準備ができている。
画像クレジット:Ron Miller
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(翻訳:Mizoguchi)