SaaS企業向けのカスタマーサクセス管理ツール「HiCustomer(ハイカスタマー)」を開発し提供するHiCustomerは12月11日、プレシリーズAラウンドで、既存株主3社からのフォローオンにより総額1.5億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は以下のとおり。
- アーキタイプベンチャーズ
- Coral Capital(500 Startups Japan)
- BEENEXT
HiCustomerは2018年7月にも6000万円の調達を発表している。同社は調達した資金をもとに、開発体制を強化する。
カスタマーサクセス:カスタマーサクセスとは、顧客の潜在的な悩みに対し積極的にアプローチし、解決すること。顧客からの問い合わせを待つ受動的なカスタマーサポートとは異なり、能動的に対応を行うのが特徴だ。顧客によるサービスの継続的利用が不可欠なサブスクリプションモデルにとって、カスタマーサクセスは特に重要だと言える。
カスタマーサクセスを管理するためのHiCustomerは、解約やアップセルの兆候を自動で検知し通知した上で、担当者が「今、何をするべきか」を教えてくれる。顧客の「利用状況」、「コミュニケーション履歴」、「売上」、「契約」などに関する情報を管理することで、対策がどのような結果をもたらしたのか、分析ができる。ゆえに、対策は再現性のあるものとなり、カスタマーサクセスチームの生産性向上に繋がる。
なぜカスタマーサクセスは盛り上がりを見せているのか
HiCustomer代表取締役の鈴木大貴氏は「ここ1、2年でカスタマーサクセスが盛り上がってきた」と断言する。その根拠として、「カスタマーサクセス担当者を採用する企業の増加」、「Wantedlyにおける『カスタマーサクセス』という募集職種の追加」などを挙げた。カスタマーサクセス関連のイベントも数多く開催されており、情報共有や議論も盛んに行われている。
そして鈴木氏は、SaaSビジネスを展開する企業において、Lifetime Value(LTV:顧客生涯価値)を高める上でのカスタマーサクセスの重要性、そしてカスタマーサクセスの精度の高さが競合優位性に繋がることが自明化してきた、と説明。SaaSには「良いと思ったものをすぐに試すことができるメリットがある一方、直ぐ解約できるという側面もある。常に解約の危険にさらされている」(鈴木氏)からだ。
「(SaaSのビジネスモデルでは)顧客に選んでもらってからがLTVの長い道のり。顧客の獲得にかけたコストと同等ないしはそれ以上の労力により、顧客に価値を提供し続けていくということが、自分たちの売り上げ、利益の源泉になっている。LTV換算で考えると、導入後の行程に労力をかけていくということは自明。もちろんプロダクトは良くないといけないが、そのプロダクトを上手く活用できないといけないし、プロダクトから価値を引き出し続けなければならない。カスタマーサクセスがちゃんと出来ているか否かで企業のLTVに差が出てくる。それが自明になってきており、より多くの企業がカスタマーサクセスに取り組むようになってきた」(鈴木氏)
売上継続率を上げるプロダクトとしてのHiCustomer
「カスタマーサクセス担当は多くの顧客を抱えているため、どうしても機会損失が生まれてしまうのが現状だ。退会しそうな顧客も、アップセルできそうな顧客も、どこかに潜んでいる。そのような顧客が全く見えない状況だと、一律に全員にメールを打ったとしても、大きな効果は見込めない。自分にできる最大限で確率の高い顧客にアプローチしたほうが、チャーンも減るし、アップセルも作れる」(鈴木氏)
2018年12月のプロダクトの正式ローンチから早1年。鈴木氏は「カスタマーサクセス管理ツールではあるが、最近、我々が狙うべきだと考えるようになってきたのが、SaaSにおけるNet Revenue Retention(NRR:売上継続率)を上げるプロダクトとしての打ち出し方」と話す。
「NRRは既存の顧客がプロダクトのファンになってくれているか、カスタマーサクセスがちゃんとできているかを示すKPI。アメリカのSaaSの上場企業だと、IRのレポートにおいて、ベンチマークの数値として、NRRが何パーセントというのをアピールしている」(鈴木氏)
例えば、SlackのNRRは約140パーセント。
「(SlackのNRRに関して)新規顧客からの売り上げが増えなかったとしても、既存顧客からの売り上げだけで140パーセント成長している状態を表す。それがあるとSaaSの会社は凄く早く成長するし、利益体質になる。カスタマーサクセスはここ1、2年で『顧客の成功のために頑張る』といった具合に国内でも盛り上がってきているが、本質は、活動を通じてSaaSプロダクトのビジネスの成長にどのように貢献するか、といった部分が非常に大事。我々はHiCustomerをカスタマーサクセス担当者ができることを増やし、業務効率を上げることで、SaaSプロダクトのNRRを上げることに貢献するようなプロダクトとしていきたい」(鈴木氏)
調達した資金でProduct Market Fit到達へ
鈴木氏は、「我々にはまだProduct Market Fit(PMF)に至っているという感覚はない。調達した資金をもとに開発の人員を採用することに投下することによって、早期にPMFを達成したい」と説明。同社は今回調達した資金でHiCustomerに新機能を追加していく予定だ。
今のところ、主な導入企業としては以下の6社が紹介されている。
- Hamee(ネクストエンジン)
- 弁護士ドットコム(CloudSign)
- グッドパッチ(Prott)
- Wovn Technologies(Wovn.io)
- ROXX(agent bank、back check)
- スタディプラス(Studyplus for School)
スタディプラスのケースでは、HiCustomerの導入により、Studyplus for Schoolの月次解約率を2%から0.1%へ削減することに成功したそうだ。
鈴木氏いわく、この1年はHiCustomerにとって「導入企業の幅が当初想定していたより広い」と気付いた1年だった。同社は今後も引き続き、更なる導入企業の獲得を目指す。
「大手企業で、SaaS事業を展開して実は持っていたり、新規で作るというケースが増えているため、『カスタマーサクセスを仕組み化しなければならない』というニーズで導入いただくことが増えている。そして、億単位の資金調達をしているSaaSの成長中のスタートアップからは、一定の認知度を獲得できている」(鈴木氏)