Salesforceは配信メディア「Salesforce+」発表、ビジネスコンテンツのNetflixを狙う

Salesforce(セールスフォース)はSlack(スラック)を280億ドル(約3兆1000億円)の巨大買収を行ったばかりで、その過程で多額の負債を生み出したが、それは多額の資金を支払ったことが理由ではない。

米国時間8月10日、このCRMの巨人は、Salesforce+(セールスフォースプラス)でストリーミングメディアに参入することを発表した。Salesforce+は、ビデオに焦点を当てた今後のデジタルメディアネットワークであり、同社の発表によれば「世界中の視聴者にDreamforce(ドリームフォース、Salesforceの年次コミュニティ会議)の魔法をすばらしいスピーカーとともにお届けします」というものだ(それがすばらしいものであるか否かは、見る人の目で決まるが)。

2020年来Salesforceは、各企業が完全なデジタルエンティティへの迅速な変革を行おうと苦労しているところを目撃してきた。Slackの買収は、進化する市場に対するSalesforceの対応の一部だが、同社は、24時間体制でビジネスコンテンツを提供するオンデマンドビデオサービスでさらに多くのことができると考えている。

Salesforceの社長でCMOのSarah Franklin(サラ・フランクリン)氏は、公式投稿の中で、彼女の会社は「新しいデジタルファーストの世界で成功する方法を再考する必要があった」と述べている。その答は、より大きなSalesforceコミュニティを、新しいライブおよび録画されたビデオの強化でまとめることに関係しているようだ。

Salesforceのグローバルブランドマーケティング担当シニアバイスプレジデントであるColin Fleming(コリン・フレミング)氏によるQ&Aの中では、彼はそれを会社がずっと共有してきたコンテンツを進化させる方法だと述べている。「パンデミックを受けて、私たちは人びとがコンテンツを消費しているメディアの状況を調べ、その結果B2Bの場におけるホワイトペーパーの時代は、もはや人びとにとって興味をひかないものであると判断しました。私たちはクッキー不要の未来を見つめています。そして消費者の世界を見て、Salesforceのためにそれを振り返り『なぜ私たちもこれについて考え直さないのか』と問いかけています」とQ&Aの中で語っている。

会社が注ぐ労力は小さなものではない。Axios(アクシオス)によれば、立ち上げを支援するために、プロジェクトには「50人の編集主幹」がいて「Salesforceの何百人もの人々が現在Salesforce+に取り組んでいる」とのことだ。

特に注目すべきは、Salesforceには短期的にはSalesforce+の収益化計画がないということだ。このサービスは無料で、外部の広告は掲載されない。Salesforce+は、9月のDreamforceとともに公開され4つのチャンネルが提供される、それらはニュースとアナウンス用のPrimetime(プライムタイム)、トレーニングコンテンツ用のTrailblazer(トレイルブレイザー)、サクセスストーリー用のCustomer 360(カスタマー360)、業界固有の情報提供用のIndustry Channels(インダストリー・チャンネルズ)だ。

同社は、この発表をDreamforceと組み合わせることで、Salesforceが作り上げてきたものへの関心を引きつける役に立つことを期待している。Dreamforceでのお披露目後、Salesforce+は興味深い領域へと進む予定だ。それにしても、Salesforceの顧客やその大規模なビジネスコミュニティは、同社が「あらゆる役割、業界、基幹業務に魅力的なライブコンテンツとオンデマンドコンテンツ」と呼び「魅力的なストーリー、思慮深いリーダーシップ、専門家のアドバイス」と表現するものをどれくらい本気で望んでいるのだろうか?

Salesforceは、歴史上最も成功したSaaSファーストの企業と見なされているため、人びとが耳を傾けたいと思っているという意見はあるかもしれない。5月の最新の四半期決算報告では、同社は前年同期比23%増の59億6000万ドル(約6597億円)の収益を発表し、年間収益予想は250億ドル(約2兆7670億円)に近づいた。同社はまた、多額の現金を生み出している。しかし、現金を豊富に持つからといって、この新しいストリーミングの取り組みが、リターンも限られた膨大なコストがかかる金食い虫となるのではないかという疑問を消し去ることはできない。

このサービスは、LinkedIn(リンクトイン)フィードにビデオ形式で命が吹き込まれたもののように聞こえるかもしれない。少なくとも、これはおそらく史上最大のコンテンツマーケティングスキームだが、ビジネスユニットとして、または将来のその他の収益化計画(広告など)を通じて、それ自身で利益を得ることができるのだろうか。

CRM Essentials(CRMエッセンシャルズ)の創業者で主席アナリストであるBrent Leary(ブレント・レアリー)氏は、Salesforceがこの冒険で広告収入に注目し、すべてをSalesforceプラットフォームに結び付けようとしているのだという。「顧客は、個別のショーのスポンサーになったり、ショーを宣伝したり、場合によってはショーでコラボレーションをしたりすることができます。そうしたオプションをROIで追跡しながら、ショーから生成された各種の引き合いに直接結び付けることができます。これをすべて1つのプラットフォームで行うことができるのです。そして、コンテンツは添えられた広告とともに続きます」とレアリー氏はTechCrunchに語る。

それがこの冒険の最終的な目標であるかどうかはまだわからないが、Salesforceは、少なくとも現実の世界ではDreamforceコンテンツに対する市場の欲求があり、最後にライブイベントを開催できた2019年には10万人以上が関わったことを実証している。こうした文脈を考慮すると、パンデミックにより、ほとんどの従来のカンファレンス活動はデジタル運営に移行した中で、Dreamforceおよび関連するタイプのコンテンツをビデオ形式で1年中利用できるようにすることは、ある程度意味があるだろう。

実は、会社がマーケティング予算への大幅な追加を正当化する方法を興味深く見守っている。ビデオ製品からのROIの計測は、直接収益化されない場合には、それほど簡単ではない。そして遅かれ早かれ、それはビジネスに直接的または間接的な影響を与えるか、ベンチャーの目的に関して株主からの質問に直面する必要に迫られることになるだろう。

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画像クレジット:MediaNews Group/The Mercury News/Getty Images

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(文: Alex Wilhelm、Ron Miller、翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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