Snapが自分のボーカルを重ねた音楽トラックを作成できるアプリVoiseyを買収

Snapchat(スナップチャット)は、写真や動画の中の顔に加工して、平凡な写真メッセージを幻想的なクリエイションに変えるアプリのパイオニアだ。この機能を使えば、人間が例えば猫のようになったり、あるいは猫でさえ(Meowbox記事)祭りの花冠を身にまとったりすることができる。さて、そのSnap(スナップ)が、今度はサウンドにその注意を向けたようだ。

どうやらSnapは、英国のスタートアップであるVoisey(ボイジー)を買収したようだ。この会社は、インストルメント曲に自分の声を重ねて、短い音楽トラック(および動画)を作成できる機能を提供している。またミュージシャンがそうしたトラックの基礎となるインストルメント曲をアップロードできるようにしている。ユーザーは自分の声にオーディオフィルター(オートチューン、自動ハーモニー、ビリー・アイリッシュ風などのおもしろい効果)をかけることもでき、他の人たちが作ったVoiseyトラックを探して聴くこともできる。

その結果がこれや、あるいはこうしたものだ。

この取引は、まずBusiness Insiderによってレポートされた。記事はVoiseyがロンドンにある本社の住所をSnapのアドレスに変更したことを指摘していた。それに加えてCompanies House(カンパニーズハウス、英国の登記所)の記録によれば、スタートアップの共同創業者であるDag Langfoss-Håland(ダグ・ラングフォス=ホーランド)氏、Pal Wagtskjold-Myran(パル・ワグツキョルド=マイラン)氏、Erlend Drevdal Hausken(エルレンド・ドレヴダル・ハウスケン)氏、とOliver Barnes(オリバー・バーンズ)氏の4人と、スタートアップの最初の投資家の2人であるTerry Steven Fisher(テリー・スティーブン・フィッシャー)氏とJason Lee Brook(ジェイソン・リー・ブルック)氏が10月21日付で取締役を退任したことがわかった。また同時に、Snapの従業員である法務チームのAtul Manilal Porwal (アトゥル・マニラル・ポーワル)氏とインターナショナル担当者のAmanda Louise Reid(アマンダ・ルイーズ・リード)氏の2人が新しい取締役として任命された。

Snapのロンドン広報担当者であるTanya Ridd(ターニャ・リッド)は、Snapがこの件についてのコメントを拒否したことを伝えている。Voiseyは私たちからのメールに返信しなかった。

Voiseyはこれまでにわずか188万ドル(約1億9500万円)を調達したにすぎない(PitchBookのデータによると)。そしてAppAnnie(アップアニー)のデータによれば、iOSアプリの音楽部門で143位にランクインしている。SnapがVoiseyに支払った金額は明らかではないが、このニュースが流れたのはいまだに損失を続けるSnapの英国本社が、2020年11月始めに5億ドル(約511億円)の借入を行おうとしているニュース(The Telegraph記事)が流れた直後だった。おそらくは買収のためのキャッシュがそこに含まれているのだろう。

Voiseyはこれまで「音楽創造のためのTikToK」と説明されてきた (musically記事)。そしてそれは実際、Voisey同様にユーザー生成コンテンツに注力してきた、人気のビデオアプリに少し似ている。Voiseyは明らかに強いクリエイター感を提供しており、そのプラットフォーム上で少なくとも1人の歌手が見いだされた。「poutyface」というユーザー名だったビリー・アイリッシュ風歌手のOlivia Knight(オリビア・ナイト)が、2020年初めにアイランドレコード / ワーナー・チャペルと契約した(Music Business Worldwide記事)のだ。

一方、TikTokは、少なくともいまのところは、音楽制作そのものではなく、他の種類のコンテンツ(ダンス、メッセージ、雑談)を作る人たちに音楽を提供している。「いまのところは」と書いた理由は、TikTokの親会社であるByteDanceも、音楽制作のための資産を静かに買収しているからだ。この領域からは目が離せない。

SnapがVoiseyの機能の一部またはすべてを、そのフラッグシップアプリのSnapchatに統合して、新しい音楽サービスを作成するのか、あるいはVoiseyを別の(Snapchatに簡単に組み合わせることのできる)アプリとして運用するのか、もしくはその2つを組み合わせたものにするのかははっきりしていない。これまでの例で考えれば、どの可能性もある。

これまでSnapは音楽への流れをゆっくりと作り上げてきていたが、いまではTikToKのクローンを作っているように感じられる。先月にはSounds on Snapchat(サウンズ・オン・スナップチャット、未訳記事)を立ち上げた。この機能はユーザーがストーリーに音楽を追加できるようにするもので、よりTikTokのビデオに近いものになっている。そのために、大手パブリッシャーとのライセンス取引がますます増えている。

その機能を組み込む以前でも、Snapはサウンドの力を完全に無視していたわけではない。すでに何年もの間(未訳記事)、ビデオによりおもしろい効果を与えるために、音声フィルターを提供していた。しかし、音楽はソーシャルメディア上のフォーマットとして最も魅力的なものの1つである。Voiseyはオリジナルコンテンツを作成するためのプラットフォーム機能レースの中で、SnapならびにSnapchatに対して優位性をもたらすだろう。

興味深いのは、この取引が行われたタイミングだ。

私たちがSnapによるイスラエルのスタートアップ Voca.aiの買収について記事にしたのは(未訳記事)つい先週のことだ。買収額は7000万ドル(約72億7000万円)だった(ただし、より近い情報源はそれに異議を唱えていて、正確には1億2000万ドル(約124億6000万円)だと語っている……)。

Voiseyと同様に、Voca.aiの技術がどこで使われるかについては明らかになっていないが、Voca.aiは企業のカスタマーサービスのための、インタラクティブな音声ベースのチャットボットを可能にするAI ベースのスタートアップだ。これは、Snapが企業に提供するサービスの種類を拡大したり、ユーザーが既存のサービス(特にSpectacles)に声を使って対話することを可能にするのかもしれない(もちろんまったく違うものである可能性もある)。

Voiseyの買収と合わせて考えると、これはただスナップ写真を共有すること以上の、多くのことを提供している企業の振る舞いをしている。

【Japan編集部】日本時間11月21日18時時点ではVoiseyはApp Storeから消されている

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:SnapchatSnap買収

画像クレジット:Voisey

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(翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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