Spotify、Appleを突き放し登録者6000万人を突破――ダイレクト・リスティングでの上場は依然検討中か

Spotifyの登録者数は音楽にひたむきな同社の姿勢もあり、iPhone製造の片手間にストリーミングサービスを提供しているどこかの企業よりも勢いよく伸びている。Spotifyが1年未満で2000万人もの有料会員を獲得した一方、Apple Musicは同じ数の会員を増やすのに1年半以上もかかった。その結果、両サービスの登録者数は、Spotifyが6000万人、Apple Musicが(2017年6月時点で)2700万人となった。

世界でもっとも強力な企業と言われるAppleと競合関係にありながら、Spotifyがここまでの勢いで登録者数を伸ばせたのは、同社がこれまでに築き上げてきたプロダクトとコミュニティのおかげだ。

Apple Musicは3か月の無料トライアルを提供しており、iPhoneには同アプリが出荷時点でインストールされているほか、同社は人気アルバムを早期リリースするためにレコード会社に大金まで支払っている。そのおかげで特定のアーティストのファンや、MP3からストリーミングサービスへようやく移行しようとしている一般消費者の中には、Apple Musicを選ぶ人もいるかもしれない。そうは言っても、音楽通が選ぶストリーミングサービスといえばSpotify、という状況は変わらない。

Spotifyはいわゆる「ダイレクト・リスティング」という道を進み、IPOなしで上場を果たそうとしている。つまり、(同社ではなく)関係者が市場で株式を売却するというやり方だ。

これはかなり珍しい動きで、それゆえSpotifyの上場にはさまざまな憶測が飛び交っている。証券会社が機関投資家をまとめ上げて売値を決めるという一連のプロセスに恐れを感じる企業も多いが、IPOは多額の資金を調達するチャンスでもある。

そんなIPOをスキップするということは、何億ドルという資金をみすみす見逃すことと同じだとも言えるが、上場後に増資もしくは売り出しという手もある。先日のWall Street Journalの報道によれば、Spotifyは今年中に上場を果たそうとしているようだ。

そもそもSpotifyの成長には、以下の重要なステップが大きく関係している。

Discover Weeklyのローンチユーザーの好みに基いて毎週アップデートされるDiscover Weeklyというプレイリストは、新しい曲やアーティストを求める音楽ファンの間で大人気となった。初年度で4000万人もの登録者を獲得したこのプレイリストに続き、Spotifyは新曲にのみフォーカスしたRelease Radarをローンチ。AppleSoundCloudといった競合サービスもDiscover Weeklyの類似機能を導入したが、Spotifyは流行の最先端にいる人たち向けの本格派ストリーミングサービスとしての地位を確立しようとしている。

楽曲を共有しやすくするため、Spotifyは最近QRコード機能をローンチした

ストリーミングに難色を示すアーティストの獲得:当初アーティストに十分なロイヤルティを支払っていないということで悪評が広まったSpotifyだが、登録者数が増えるにつれてこの問題もかなり改善してきた。しっかりお金が支払われるようになったことと、アーティストがヒットを狙うならば必ず抑えなければいけないチャンネルとしての地位が確立されたことにより、Spotifyはテイラー・スウィフトをはじめとする反ストリーミング派との契約をも勝ち取ることに成功した。ここに上場が加われば、音楽業界におけるSpotifyのポジションは盤石なものとなり、ストリーミングサービスに懐疑的なアーティストとファンも説得できるようになるかもしれない。

Google Home + Spotify VS Amazon Alexa:音楽を声でコントロールする魅力にひかれ、AmazonやGoogleのスマートスピーカーを購入する人が増えている。そんな中、Amazon AlexaではAmazon Prime Musicが押されている一方で、Google HomeはSpotifyをプレミアパートナーの1社に選んだ。PandoraやGoogle Musicにも勝る人気を受けて、Google HomeはSpotifyの広告入り無料プランのサポートを決めたのだAppleのHomePodの販売が始まれば、Google Homeとのパートナーシップの重要性はさらに増していくだろう。

IPOなしの上場

Spotifyはダイレクト・リスティングの可能性について公式には語っていないが、同社に近い関係者の情報によれば、上場直後の株価の大きな変動を避けるためにダイレクト・リスティングを選ぶ可能性もあるとのこと。引受人は取引初日の株価急騰を狙って公募価格を低めに設定するよう勧めることが多いが、上昇後の株価を保てない企業もかなり存在するため、ダイレクトリスティングがその対策に成りえると考える人もいる。

フランス・カンヌ―6月22日:SpotifyのファウンダーでCEOのDaniel Ek。2016年6月22日にフランスのカンヌで開催されたカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルにて(写真:Antoine Antoniol/Getty Images)

さらにダイレクトリスティングの道を選ぶことで、上場後に関係者が株式を売却できない「ロックアップ期間」の問題も解消できる。Snapの株価は本日(現地時間7月31日)ロックアップ期間が終了することもあり、最近値を下げていた。

もしもSpotifyのダイレクト・リスティングがうまくいけば、他社もその後を追うことになるかもしれない。

その一方で、ダイレクト・リスティングによってSpotifyの株価のボラティリティがさらに高まる可能性も十分ある。まだ同社は具体的な計画を発表していないが、IPOで機関投資家に株式が売却される理由のひとつは、彼らが長期的にポジションを保有すると考えられているからだ。

それでもダイレクト・リスティングを選ぶとなれば、Spotifyは株価を保ってApple Musicの侵攻を防ぐために、これまで築き上げてきたユーザーベースに頼らざるを得なくなるかもしれない。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

投稿者:

TechCrunch Japan

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