Spotifyの初オリジナルビデオは期待はずれな音楽史アニメ

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パッとしないオリジナルビデオ制作では、SpotifyがApple MusicやYouTubeに対抗することはできないだろう。ニューメディア企業ATTNとのコラボレーションで制作された3分間のビデオは、ウェブ上に溢れている無料動画となんら変わりないものだった。

「Deconstrucing」と名付けられたSpotify初となるこのビデオシリーズは、古臭い国歌や、LGBTラッパー、魔女のような振る舞いのアーティストなどについての短編アニメで構成されている。ハウスミュージックの誕生に関する最初のエピソードが、本日(米国時間8月11日)SpotifyアプリのVideos & Podcastsタブでプレミア上映され、今後さらにコンテンツが増えていく予定だ。以下がこの度発表されたビデオ。

5月にSpotifyはアプリ内のビデオコンテンツを充実させるため、12種類のオリジナルシリーズを制作予定だと発表した。以下が各シリーズの概要だ。

  • Rush Hour – バンに乗った2人のヒップホップアーティスト(伝説的なアーティストと新人)の話
  • Landmark – 音楽史を変えた出来事についてのドキュメンタリー
  • Drawn & Recorded – 音楽史のマイルストーンに関するアニメ(恐らくこれがDeconstructingになった)
  • Life in Short – 謎に包まれたアーティストの略歴紹介
  • Trading Playlists – 二人のセレブがお互いのSpotifyプレイリストを交換して音楽について教え合う
  • Singles – 様々なアーティストの代表曲をローファイなスタジオ録音音声で紹介
  • Rhymes & Misdemeanors – 音楽史に残る凶悪犯罪の検証
  • Ultimate/Ultimate – EDMアーティスト志望者のモキュメンタリー
  • Generations – 異なる世代のアーティストを組み合わせたパフォーマンス
  • Public Spaces – 歴史的建造物でのパフォーマンス
  • Flash Frame – Spotify版の音楽ビデオ
  • Focus On… – Spotifyのデータをもとに割り出された次世代の大型アーティストを追う

問題点として、オリジナルコンテンツはユニークで視聴者に見なければいけないと感じさせ、さらには話のネタにならない限りウケない。Game Of ThronesやHouse Of Cardsを思い浮かべてみてほしい。視聴者はこのような素晴らしい番組を制作者のプラットフォーム上でしか見ることが出来ないため、HBOやNetflixに利用料を払っているのだ。

しかし、Deconstructingの最初のエピソードは、どちらかというとアニメ化されたインフォグラフィックのようだった。ただの歴史を超越したドラマやストーリーがそこには感じられないのだ。ナレーションもわざとらしく媚をうっているように聞こえ、まるで法外な値段で制作されたスタートアップのローンチビデオと、バイラル化を狙いつつも内容の浅いBuzzFeedビデオの混ぜあわせのようにさえ感じる。

Spotify Deconstructed

実際のところ、元々Spotifyは3つのエピソードを公開する計画で、古い国歌がいかに差別・暴力的かという何ともつまらないエピソードからスタートしようとしていた。しかし昨夜急に計画が変更され、当初公開が予定されていた3つのエピソードには触れず、「How EDM Changed The World(電子音楽がどのように世界を変えたか)」という安っぽいビデオだけが公開されることとなった。どうやらSpotifyもビデオのクオリティに完全には満足していないようだ。

少なくとも来週中にはMetallicaに関するシリーズが公開される予定で、Napsterを廃業に追い込んだバンドという意味ではもっと面白いものを見ることができるかもしれない。さらにはApple Musicのビデオサービスとも対抗できるものになるだろう。なお、Apple Musicは最近権利を購入したCarpool Karaoke(米人気番組The Late Late Show with James Cordenの1コーナー)もビデオサービスの中に組み込む予定だ。

しかし、インターネット上の他のビデオを差し置いて、Spotifyの新しいビデオを見なければならない理由はどこにも見当たらない。つまり、この新たなサービスには、1億人のアクティブユーザーと3000万人の有料登録ユーザーを抱えるSpotifyのコミュニティに新たなユーザーを呼びこむ力がないのだ。Spotifyはビデオに手を出すのではなく、音楽という自らの強みを強化するような製品開発に集中すべきだ。新機能のRelease Raderプレイリストがその好例と言える。

Spotify Original Series

ビデオサービスへのリブランドは、未だビジネスモデルの安定化に取り組んでいるSpotifyにとってはとてつもなく大きな課題だ。ビデオ業界は既にYouTubeやNetflixなどの大手企業に支配されている上、既に忘れた人もいるかもしれないが、成功を左右する時期にVdioというサービスを立ち上げたことで軸がぶれてしまい廃業に追い込まれたRdioの例もある。

もしもSpotifyが音楽を聞いている人に視覚的なサービスを提供したいなら、再生されているアーティストの写真で構成されたスライドショーをループ再生すればいい。さらに、有名なバンドであれば個別にビジュアライザーを作ることもできるだろう。また、Geniusとのコラボで生まれたポップアップビデオ風の歌詞や曲の意味を表示する機能を強化してもいい。少なくともDeconstructingのような家でもつくれるようなアニメではなく、アーティストとのコネクションを利用して、Spotifyが今後他社とは違う映像を生み出していくことに期待したい。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

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TechCrunch Japan

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