マイクロソフトは当初、Surface Duoをスマートフォン(電話)と呼ぶことに躊躇していた。そのように定義するよう求めらたとき同社は「Surface Duoは電話をかけられるだけではない」というようなコメントで話をそらす傾向があった。公平を期すために言っておくと、ほとんどのスマートフォンも同様だ。同社には「Microsoft Phone」の苦い経験が頭の片隅にまだ残っているのかもしれない。
Surface Duoは野心的なデバイスで、これは同社がSurfaceシリーズに抱いている野望でもある。同社は単に世界にたくさんあるハードウェアメーカーの1社になりたいわけではない。将来的には、革新的なデバイスを切り拓く存在になりたいと考えている。これはいくつかの点で価値のある追求だ。
結局のところ、過去10年間にモバイルで見てきたイノベーションの中で、このカテゴリーはあまり動きがない。確かに5G技術は注目で、この次世代ワイヤレス技術は業界に一時的な刺激を与えるはずだった。とはいえ、5Gがモバイルハードウェアの変化を意味するものではない。
多くのメーカーが認識しているのは、モバイル機器の次のブレークスルーは、ポケットの中により多くの画面を収めることができるようになるということ。モバイル機器は現在、「我々が手に持てて、ポケットに入れて持ち歩くことができるもの」という点で、ハードウェアのサイズとしては上限に近づいている。近年はベゼルをなくしたり、曲面ディスプレイを採用したりと、本体サイズを維持しつつ画面領域を増やすというブレークスルーもあったが、それも飽和点に近づいてきているように見える。
一方で折り畳み式の画面は今後の展開を考えるうえで魅力的だ。何年も前からある技術だが、スマートフォンのスクリーンサイズ上限に達しつつある現在、その注目度は上がっている。折り畳み式スマートフォンとしては、サムスンのGalaxy Foldは発売前に不具合が見つかり、ファーウェイのMate Xのような同種のデバイスに悪影響を与えた。Mate Xは中国で発売されたが、次第に人々の話題から消えていったようだ。そしてモトローラの最初の折り畳み式端末はまったくの失敗だった。
昨年のSurfaceイベントで発表されたDuoは、折り畳み式の既存端末と比較すると長所と短所があるが、画面の問題にまったく異なるアプローチを採っている。マイクロソフトは、2つの画面をくっつけるのではなく単純に接続することで堅牢性を確保している。もちろんこの場合、フルスクリーンのビデオを見るときなどに画面と画面に間のベゼルの存在が邪魔になるなど別の問題も引き起こす。
もちろん、このようなデュアルスクリーンを採用した最初の企業はマイクロソフトではない。ZTEのAxon Mが思い浮かべる人も多いだろう。Axon Mは2つのスマートフォンを貼り合わせたように感じだった。Axon Mは折り畳みスマーフォンの実験段階の真っ只中で発売された端末で、イチかバチかの製品だった。一方のマイクロソフトは、非常にしっかりしたデザインでデュアルスクリーンのアイデアを際立たせている。ZTEの製品とは異なり、Surface Duoがゼロから開発されたことは明らかだろう。
前回、Surface Duoについて書いたときは、デバイスのハードウェアのみに焦点を当てた「ハンズオン」だった。というのも、前回はソフトウェアの準備が整っていなかったのだ。しかし、同社はハードウェア自体を披露することを興奮していた。そしてそれにはもっともな理由があった。Surface Duoの外観や印象は素晴らしく、TechCrunchの多くのスタッフを魅了した最初のデバイスとなったのも不思議ではなかった。
Surface Duoはスマートフォンではあるが、この分野での大きな可能性を秘めている。そして同様に重要なのは、第一世代の折り畳み式の手法にこだわることなく、デュアルスクリーンを実現できることを示したことだ。Surfaceの責任者であるPanos Panay(パノス・パナイ)氏は、Surface Duoに関する初期のブリーフィングで、同デバイスの設計上の複雑さを分析するために多くの時間を費やした。公正を期すために言っておくとそれが同氏の主な業務であるからなのだが、2つのディスプレイ間の有線接続を維持する滑らかでしっかりとしたヒンジに至るまで、正確に動作するハードウェアを開発するために、同社はいくつかのブレークスルーを実現したことを私は信じている。
もちろんトレードオフはある。前述のスクリーン間のギャップはおそらくその最大のものだ。これは主に、ディスプレイをまたいで単一のアプリを開くときに問題になる。例えば、ウィンドウをドラッグ&ドロップして一方の画面からもう一方の画面になめらかに動かす際に気になるかもしれない。この点が、同社がSurface Duoをエンターテイメントよりも生産性の高いアプリを使う端末として位置づけている1つの理由だろう。ちなみに、マイクロソフトの一部のハードウェアに見られる明確な特徴でもある。
Surface Duoのデザインは、ほかにも実用的な配慮がある。Surface Duoが採用した本のようなデザインは、外観にスクリーンがないことを意味する。ガラスと鏡面仕上げのWindowsロゴは素敵に見えるが、通知をプレビューする手段がないのだ。ここで、Galaxy FoldとMotolola Razrは、それぞれの第2世代のデバイスのフロントスクリーンのUXにかなりの投資していることを覚えておいてほしい。中には、閉じている間はオフラインになるデバイスを好む人もいるだろう。オフラインになるなら、いつでも画面を外向きして閉じられる。
簡単な写真を撮るためにデバイスを必要としている人は、スクリーンを外に向けておきたいだろう。写真撮影はSurface Duoの最大の課題の1つだ。Surface Duoには背面カメラが備わっていないのだ。おそらく同社は、このデバイスでの写真撮影は、テレビ会議などのウェブカメラ機能に付随するものだと考えている。ちなみに私は、デバイスが立ち上がってハンズフリーで目の高さに合わせて話しかけられる体験が好きだ。
しかし、実際に歩きながらカメラを試しに撮ってみると、何度も手探り状態になってしまった。撮影時に3歩も5歩も離れている感じがするのだ。そして実際のところ、写真もうまく撮れていない。搭載されているカメラ自体も1400ドル(約14万8000円)のデバイスの基準には達していない。正直なところ、このレベルのカメラは余計なものに感じる。私はここ数週間Galaxy Note 20のカメラを使っていたので、なおさらそう思ってしまう。しかし、今回の第1世代のSurface Duoが人気になれば、同社も次期モデルではもう少しカメラに力を入れるだろう。私にとってもう1つのハードウェア面の失望は、ベゼルの大きさだ。マイクロソフトはこの点について、ユーザーによるタッチスクリーンの誤操作を防ぐための最小限のサイズだと説明する。たしかにもっともな理由で、デザイン的には悪影響を及ぼさないが、ラップトップモードで両手でタイプするのは不可能に近い。
ラップトップモードは、普通のスマートフォンと同じように親指でタイプするだけだが、正直言って私がSuraface Duoで興奮した機能の1つだ。Duoは私が想像していたよりもかなり小さく使い勝手には良し悪しがある。より充実したタイピング体験を求める人は、Surface Neoの登場を待たなければならないだろう。
マイクロソフトが5Gを搭載しなかった点は疑問が残る。その一因は、本体の薄さとフォームファクターの制限だったようだ。とはいえ、2020年のいまの時点では5Gは必ずしも主流ではないが、この1400ドルのデバイスの将来性をアピールすることは重要だ。Surface Duoは、多くの人が毎年行うようなスマートフォンのアップグレードとは異なる。買い替えのサイクルに入るころには、LTEはかなり時代遅れになってしまうだろう。
2つの独立したバッテリが画面の下に配置されているため、バッテリ持続時間は非常に安定している。私が試用した限りでは、約1日半の連続使用が可能だった。これは5Gを搭載していない利点の1つともいえるだろう。複数のアプリを操作してみたが、パフォーマンスもほぼ安定しているようだ。しかし、Bluetooth接続については不満が残る。「Surface Buds」と「Pixel Buds」の両方を接続したままにしておくと、さまざまな問題が発生し、ポッドキャストを聞こうとすると非常にイライラすることがあった。
第2世代の折り畳みデバイスが解決すべき問題もある。初期の段階ではいくつかのアプリにバグがあったものの、多くのアプリはそれを解決する方向に進んでいる。しかし、シームレスなデュアルスクリーン体験を提供するには追加の作業が必要になる。Spotifyなどの一部のアプリは画面をまたぐようなUIになっており、デュアルスクリーンには最適化していない。アプリによってはユーザー側で少し手を加える必要もある。今後Surface Duoが人気があるフォームファクターであることが証明されれば、サードパーティーの開発者がもっと熱心に微調整するようになるだろう。
ほかにも、オープニング時に画面がブラックアウトすることがあるなどの問題があったが、多くの場合はデバイスを閉じて開き直すことで解決できた。なおマイクロソフトは、タッチスクリーンの誤操作を避けるために、両方の画面を外側にしている時はアクティブにする画面を一方だけにしている。ディスプレイの切り替えは、アクティブでないディスプレイをダブルタップすればいい。そのほかマイクロソフトは、App Groupsなどの便利な機能もいくつか追加している。App Groupsは一度に2つのアプリを起動するためのクイックショートカットだ。
さて、同社がなぜWindows 10ではなくAndroidを選んだのか?その答えは明白で、Androidは多くの異なるフォームファクタに対応できるように設計されているからだ。そしてWindows 10には十分な数のモバイルアプリがない。同社は、デュアルスクリーンという新しいフォームファクタのコンセプトを証明するものとしてSurface Duoを訴求しているが、今後十分に収益化できるかどうかはいまのところ疑問符が付く。
とはいえAndroidを採用している点は、グーグル製の数多くのビジネス・生産性アプリを含めて、エンドユーザーにより多くの選択肢があることを意味している。最近はマイクロソフトのビジネス・生産性アプリだけに縛られている人はほとんどいないことを考えると、これは重要な利点だろう。
ほかの実験的なフォームファクターと同様に、第1世代モデルはかなりの試行錯誤を伴う。マイクロソフトはしばらくの間、社内で製品を開発していたことは間違いないが、多くのユーザーがこの種のデバイスをどのように利用しているのか、正確には何を求めているのかはまだわからない。Surface Duoがリリースされて半年後には、同社ははるかに明確なビジョンを持っているだろうし、それらのアイデアはすべて次世代製品に反映されることになるだろう。
とはいえ、Surface Duoは第1世代のデバイスとしては非常に使い心地がいい。ソフトウェアは来年も改良が続けられることはほぼ間違いないだろう。ただし、私はその理由だけでSurface Duoを少し待ちたい。問題は、最終的な早期導入のコストがどれくらいかということになる。
折り畳み式デバイスというこれまでにない壮大な計画を考えると、1400ドルという価格はそれほど高くない。しかし、ソフトウェアの最適化が進行中という現状では、スマートフォンやタブレットのフラッグシップモデルと比べると割高に感じる。Surface Proがこの価格になったのは真新しいフォームファクターを採用したことが主な要因だと思われるが、今のところSurface Proを購入するのは将来性のあるデバイスへ投資するアーリーアダプターだろう。
画像クレジット:Brian Heater
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(翻訳:TechCrunch Japan)