元ソニー、オリンパス、トヨタのエンジニアらによって創立され、TechCrunch Tokyo 2012の最優秀賞を受賞したハードウェアのスタートアップ、Whillはスマートで洗練されたまったく新しい車イスをデザインした。同社の最初の市販モデル、Whill Type-Aがいよいよアメリカで予約受付を開始した。
Whillは現在500 Startupのアクセラレータ・プログラムに参加しており、170万ドルの資金を調達ずみだ。500 Startups以外の投資家にはItochu Technology Ventures、Facebook Japan、エンジニアのEric Kwan、SunBridge Global Ventures、Wingle Co.などが含まれる。現在シード資金の調達を完了中だ。
同社は昨年TechCrunch Tokyoに既存の車イスに取り付けて自走できるようにする電動アドオンのプロトタイプで参加した。東京モーターショーで展示し、アメリカ、日本、イギリスで市場調査を行った結果が、Whillは4輪電動駆動の完全に新しい車イスを開発することを決断した。またアメリカでの需要がもっとも高かったのでまずアメリカ市場を対象とすることにした。
まず開発チームはアメリカで150人の車イス利用者にインタビューし、ユーザーは機敏であると同時に安定性の高い装置を求めていることを知った。そしてもっとも重要な点は、車イスに伴うネガティブなイメージを払拭できるようなスマートな印象の乗り物が求められていることがわかった。
事業開発責任者の水島淳は、自動車、自転車、オートバイ、スケートボード、なんであれ乗り物というのは所有者をハッピーにするが車イスはダサイというイメージがつきまとう唯一の乗り物だと説明する。一般の認識がネガティブなのだ。
Whillの車イスはまず外観が未来的にデザインされている(CEOの杉江理は日産自動車のデザイナーだった)。Type-Aモデルがこれまでの電動車イスと根本的に異なるのは、左右のコントロール・ハンドルを押し下げることによって前進するという操作体系だ。これは自転車やオートバーのライディング姿勢に似ている。
「外観だけでなく、機能的にも操作体験を自動車、オートバイ、スケートボードなどに近づけようとした」と水島は説明する。単にイスの背にもたられた姿勢ではなく、走行中は前傾姿勢を取ることでユーザーはアクティブに見える。また乗り物を操縦しているという喜びを感じることができる。
Whillのコントローラーはジョイスティックのように片手で操作できる。Type-A以外の2モデルは備え付けのテーブルを利用したり走行していないときは楽な姿勢で背もたれによりかかれるという。
回転半径が小ささと走破性の高さを両立させたこともWhillの大きな特長だ。通常の車イスでは回転半径を小さくするためには前輪を小さくする必要がある。すると前輪が床の小さな突起や窪みに引っかりやすくなり、また砂利道などでは容易に埋まってしまう。
Whillチームは前後に回転するだけでなく左右にも動く特別な前輪の開発に成功した。これによってType-Aは回転半径をわずか71センチに収めながら7.5cmの障害物を乗り越えられる。
Type-Aの価格はまだ発表されていないが、水島は「最初の出荷分についてはアーリー・アダプター向け特典機能をつける予定だ」と述べた。Whillはアメリカで食品医薬品局から医療機器としての認定を受ける計画だ。そうなれば保険が適用になるし、他国への輸出も容易になる。製造に関しては台湾とメキシコの企業とOEMの交渉を進めている。将来のモデルには各種データの分析や通路の障害物、電池容量低下などををユーザーに警告するモバイル・アプリを組み込む予定だ。
水島は「われわれはモビリティ・デバイスのiPhoneを目指している。Type-Aはユーザーの移動に関して広汎な機能を備えている点で車イスのスマートフォンだ。将来、単なる車イスを超えて、他の乗り物が利用できない場面で一般のユーザーにも利用される省エネ移動手段としてWhillを普及させたい」と語った。
Whillの開発のきっかけは創業メンバーの障害者の友人が「車イスに乗るのが嫌で2ブロック先の食料品店にさえめったに出かけない」ということを知ったことだったという。「2ブロックばかり、健常者にはなんでもない距離だが、われわれの友人は大変な困難を克服しなければならなかった。このショックがチームにWhillの開発を決意させた」のだという。
Whillを試用したい場合はサイトを訪問すること。Type-Aは今月サンノゼで開催されるAbilities Expo San Joseでデモされる。また来年のCESとAbilities Expo LAにも出展される。
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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+)