ショート動画アプリTikTok(ティックトック)を開くと、ユーザーの好みに合わせて選ばれた一連の人気動画を次々に再生できるフィードが画面に現れる。そのため、例えばあなたの友人が自分の端末でTik Tokを起動すると、あなたとは違う動画フィードが表示される。起動時に再生されるこのメインコンテンツは個々のユーザーに合わせてパーソナライズされているため、TikTokはこれを「For You(レコメンド)」フィードと呼んでいる。これまで謎に包まれていたこのレコメンデーションシステムの仕組みがついに明らかにされた。TikTokがレコメンドフィードの選定に使われている要素は何か、ユーザーごとにそれぞれの要素の重み付けをどのように変えるのか、詳細を公表したのだ。
TikTokはまた、いつも同じような動画ばかり表示されるようになる「フィルターバブル」の形成を回避するために講じている対策についても説明している。
多くのレコメンデーションシステムと同じく、TikTokのレコメンドフィードもユーザーからのインプットに基づいている。
ユーザーが「いいね」したり共有したりした動画、フォロー中のアカウント、投稿したコメント、作成したコンテンツなどに基づいてユーザーの好みを自動で判別しているのだ。さらに、キャプション、サウンド、気に入ったコンテンツに関連付けられたハッシュタグなどの動画情報も判別に使われている。
また、それほど重視はされないものの、端末とアカウント設定に関する情報(言語、国、デバイスの種類など)も判別要素になる。ただし、TikTokのレコメンデーションシステムでは、この種の情報は他社ほど重視していないという。同システムのパフォーマンス最適化に、より力を入れているためだ。
TikTokがユーザーの好みを判別するために参考にしているシグナル、いわば手がかりは他にもある。例えば、長い動画を最初から最後まで見ると、ユーザーはその内容に強い関心を持っているとみなされる。このようなシグナルは、「動画の視聴者と投稿者の出身国が同じ」というようなシグナルよりも重視される。
TikTokはまた、フォロワーの多いアカウントによって投稿された動画は再生回数も多くなる可能性が高いことを確認している。単純に視聴者層が厚いためだ。その上で、フォロワーの数が多いことや、そのアカウントが過去に再生回数の多い動画を投稿したかどうかという点は、TikTokのレコメンデーションシステムでは直接的な決め手にはならない、と同社は説明している。
つまり、再生回数の多いTikTokのトップユーザー、すなわちcharli d’amelio、addison rae、Zach King、Loren Gray、Riyaz、Spencer X、BabyArielといった人気アカウントが、フォロー中のユーザーを含むすべてのユーザーのレコメンドに表示される保証はないということのようだ。
TikTokをしばらく使っていると、レコメンデーションシステムはユーザーの好みや関心事の変化に合わせるようになる。新しいアカウントをフォローし始めたことや「Discover(トレンド)」タブでハッシュタグ、楽曲、エフェクト、トレンドトピックを検索したことなどもシステムで認識される。これらすべてによって、TikTokのエクスペリエンスがパーソナライズされていく。
また、動画を長押しして「Add to Favorites(セーブする)」あるいは「Not interested(興味ありません)」をタップし、TikTokに対して明示的に好き嫌いを示すこともできる。
ユーザーによるインプットとシグナルに基づいてレコメンデーションを行うアプリはどれもそうだが、TikTokもコールドスタート問題を克服する方法を見つける必要がある。アプリが初めて起動された時点では、ユーザーの趣味や嗜好に合うコンテンツについての情報が何もない。この問題に対処するため、TikTokでは、新規ユーザーに興味があるカテゴリ(ペットや旅行など)を選択してもらい、初期のレコメンデーションに使用する。このカテゴリ選択をスキップしたユーザーについては、ある程度のユーザー入力が蓄積されるまで一般的な人気動画を表示する。「いいね」、コメント、再生などについて、ユーザーが初回の操作を一通り完了すると、いよいよTikTokが最初の「レコメンド」フィードを開始する。
ユーザーの個人的な好みに合わせすぎると、いわゆるフィルターバブルの状態となり、エクスペリエンスが制限されてしまう可能性があるが、TikTokは、この点も理解しているという。フィルターバブルの状態になると、「毎回同じような動画ばかり表示されるようになる」が、この問題については真剣に取り組んでいる、とTikTokは説明している。
数年前にVICE(ヴァイス)に掲載された記事で、TikTokはこの問題をまだ克服していないと指摘された。この記事によると、ある記者が白人至上主義者のコンテンツを表示するようTikTokをトレーニングしたという。具体的には、特定のクリエイターをフォローし、関連するハッシュタグを検索し、白人至上主義者という「関心事」に一致する動画のみに「いいね」するといった操作を行った。その結果、実験に使われたTikTokアプリの画面は白人至上主義者の動画一色に染まってしまったのだが、これは単なるモデレーション機能の問題ではなかった。熱心なユーザーがその気になれば、TikTokに細工をしてヘイトコンテンツであふれさせてしまうことも可能であることを示唆していたのだ。
TikTokは現在、ユーザーのレコメンドページを多様性のある新鮮な状態に保つ方法の実現に取り組んでいるという。つまり、反復コンテンツ、重複コンテンツ、以前視聴したコンテンツやスパムはレコメンドに表示されないということだ。これは同時に、同じクリエイターの動画や同じ楽曲を使った動画を連続して視聴しないよう気をつける必要があるということを意味している。TikTokでは安全上の理由から、人によってはショッキングな内容だと感じる動画をレコメンド表示しないようになっている。手術の動画や規制対象品を消費する(合法であっても)動画などだ。
さらに、ユーザーが興味を示しているカテゴリから外れるような動画や膨大な数の「いいね」を集めている動画がレコメンドフィードにときどき追加されることもあるという。これは多様性を向上させるためにTikTokが行っている試みの1つで、新しいコンテンツカテゴリやクリエイターに出会うチャンスを提供して、ユーザーに「新たな視点やアイデアを体験してもらう」ことがねらいだという。
これは、Facebook(フェイスブック)、 Instagram(インスタグラム)、YouTube(ユーチューブ)もうまく対応できていない問題だ。これら大手プラットフォームのアルゴリズムは多くの場合、以前に「いいね」したのと同じ類いの動画を目立たせるようになっており、時には徐々により過激的な見方に触れるように促すことさえある。まるで自分の声の反響音しか聞こえない部屋に閉じ込められているような状態だ。
この点がパーソナライズ機能の弱点だということは、TikTokも認識しているという。
TikTokはあるブログ投稿の中で、「趣向の異なる動画をときどきレコメンド表示することは、より広範な視聴者の間で人気のある動画がどれなのかをシステムがより正確に把握し、他のユーザーに素晴らしいエクスペリエンスを提供するのに役立つ。当社の目的は、ユーザーが興味を持つコンテンツを提供するのと同時に、(TikTokでレコメンドされなければ)味わえなかったであろう体験をさせてくれるコンテンツやクリエイターと出会えるようにすることだ」と語っている。
ちょうど今、米国とEUの規制当局が米国の大手テック企業に対し独占禁止法違反の疑いで捜査を進めており、特にTikTokは中国との関係について米国議会で審査されているという、まさにこの時期に、TikTokはレコメンデーションアルゴリズムを公開した。インドでもここ数週間、国境問題のせいでTikTokとその他の中国製アプリが攻撃の的になっており、一部のインド政府当局者がTikTokのブロックを要求するという事態がおきたばかりだ。
TikTokはこれまで、米国が持つ同社へのマイナスイメージを変えようと着実な取り組みを進めてきた。具体的には、Content Advisory Council(コンテンツ諮問委員会)を設立し、ロサンゼルスにTikTok Transparency Center(TikTok・トランスペアレンシー・センター)というラボを開設した。このラボでは、社外の専門家がTikTokのソースコードの閲覧や、TikTokのモデレーション機能が実際に動いているところを見学することが可能だ。
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(翻訳:Dragonfly)