TV広告などにオンデマンドで映像を入れ込むプロダクトプレイスメント開発のRyff

従来の放送メディアにおける広告料金が下落傾向にある現在では、毎日何百万ドルもの予算を貪るドラマの制作会社は、新しいビジネスモデルを探し出す必要がある。サブスクリプション型のサービスが台頭してきている。大手放送局はみなオンデマンドサービスを開始し、従来のテレビ放送は、広告に支えられた動画ストリーミングサービスに置き換えられている。

しかし、ここにもうひとつ広告業界が渇望してきた至高のシステムがある。技術的に実現困難とされてきたものだが、ついに手が届くものになった。それは商品をオンデマンドで映像に入れ込むプロダクトプレイスメントという広告手法で、2018年の初めからRyffが開発を続けてきたテクノロジーだ。

プロダクトプレイスメントは米国で次第に大きなビジネスとなっており、調査会社Statistaのデータによれば2019年には114億4000万ドル(約1兆2500億円)をかき集めた。この数字は、2012年の47億5000万ドル(約5200億円)から伸びてきたものだ。この報告書には、米国人のおよそ49%が映像で目にしたプロダクトプレイスメントの商品に対してアクションを起こしているという。

プロダクトプレイスメントの効果は、インディアナ大学とエモリー大学の研究者たちも証明している。彼らは「テレビ番組で行われた卓越プロダクトプレイスメントには、インターネット上での会話やそのメーカーのウェブトラフィックに大きな好影響を与えている」ことを発見した。

一方、ストリーミングサービスは視聴者が直接支払う料金で潤っているが、収益の流れを多様化する道も探っている。NetflixとHuluは、どちらもプロダクトマーケティング部門を拡大し、Forrester Researchなどのアナリストたちは、従来型の広告収入が減少している企業にとって、プロダクトプレイスメントは大きな稼ぎ頭になると予測している。

すでに、プロダクトプレイスメントを扱う企業はいくつか存在する。 Branded Entertainment Networkのようなスタートアップは、商品のメーカーや番組制作者と協力して、映画やテレビドラマの内容的に最適なシーンに商品を配置する手配をしている。また、映像に商品の看板を映り込ませるMirriadは、プラットフォームも制作会社も儲かる仕組みを作っている。

Ryffは、このテクノロジーを次のレベルに引き上げている。同社はコンピュータービジョン、機械学習、レンダリング技術を使って、映像内のオブジェクトを認識し、それを顧客が宣伝したい商品データと自由に入れ替えることができるのだ。

「定額制動画配信やストリーミング・プラットフォームが市場に浸透し、契約者数が伸び悩むNetflixなどのプラットフォームと合体すると、それらのプラットフォームは、否応なく新しい収入源を追求し、それを取り入れるようになります」と、MaC Venture Capitalの経営ジェネラル・パートナーで、Ryff取締役会の新役員Marlon Nichols(マーロン・ニコルス)氏は言う。「有料プラットフォームの利用者は、コンテンツを視聴中に広告で中断されるのを嫌います。そのため、プロダクトプレイスメントは成長をもらたす重要なチャンネルであり、Ryffの新たな市場とユニークなテクノロジーにより、同社はマーケットに成長をもたらす疑いようのないマーケットリーダーとなるでしょう」

その技術開発力を維持し、販売力とマーケティング力を向上させるために、Ryffは500万ドル(約5億4700万円)の資金調達を行った。Crunchbaseによれば、Ryffは以前、Mahindra Groupの子会社や非公開の投資家たちから360万ドル(約3億9400万円)の投資を受けている。今回はValor Siren Ventures、MaC Venture Capital、Moneta Ventures、Vulcan Capitalからの投資となる。

「Ryffの技術は、製品のリーチを拡大し、売り上げを伸ばすソリューションに対する急激な需要の高まりを受けて、よいタイミングで提供されました」とTech Mahindraのメディアおよびエンターテインメント担当副社長Uday Ghare(ウーデイ・ゲア)氏は投資の際に行われた声明で述べている。「メーカーはコンテンツ中心のプログラムにへの依存度を高め、その流れが拡大していくため、メーカーからの資金の流れは、コンテンツマーケティングと運用型広告の両方に流れるようになるでしょう」。

Ryffの広告は、視聴者の好みやその番組を配信するプラットフォーム、放送される地域、放送の日時、幅広い視聴者の人物像に合わせて変更できると同社はいう。つまり、Google広告の動画版みたいなものだ。今回、Ryffへの資本コミットメントを決めた根拠について、MaC Venture Capitalのニコルス氏は、以下のような内容をブログに書いている。

知的財産の所有者が、そのコンテンツの価値をRyffのマーケットプレイスで最大限に高められる未来を想像してください。そのコンテンツは、数百とはいかないまでも、数十ものプロダクトプレイスメントの機会に配置され、クリエイティブな必然性に沿ったかたちで映像に重ねられる。そうした機会は、メーカーのマーケティング目標の達成度によってランク付けされ価格が決められる。メーカーは、そのマーケティング戦略や予算に応じて、映像の中に商品が組み込まれる機会を買う。動画が配信される直前に、商品の3Dモデルがアップロードされ、映像に動的に組み込まれるのです。

Ryffが最初に発表した契約相手は、「リアリティー」番組の制作会社Endemol Shineだ。「Ryffは、視聴者がスキップできない唯一の広告形式というプロダクトプレイスメントのコンセプトを的確に生かし、あらゆるコンテンツ、あらゆる時間、あらゆる市場への応用ができて、規模の調整も可能で、受け入れられやすいソリューションを提供しています」とRyffの創設者でCEOのRoy Taylor(ロイ・テイラー)氏は声明の中で話している。「その結果は、すべての人に恩恵をもたらします。イライラする広告からコンテンツを解放し、見る人に合わせた商品のプロダクトプレイスメントと、動画資産を収益化する新しい手段を提供します」。

写真クレジット:Netflix

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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