VCのSuperChargerがEdTechのバーチャルアクセラレーター開始

パンデミック以前は総合ベンチャーキャピタルはEdTechに興味を示さなかった。教育分野をターゲットとするスタートアップはベンチャー資金をあまり調達できない状態が数十年続いた。新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が始まってから1年以上経った今、この分野には才能ある人材が殺到し、スタートアップは損益分岐点達成からユニコーンへ、さらに株式上場の可能性まで視野に入るようになっている。

こうした勢いを背景に、アジアを中心に国際的ネットワークを持つベンチャーキャピタルであるSuperCharger Venturesは、アーリーステージのEdTech向けアクセラレーターを立ち上げた。米国時間1月11日にオンラインでスタートする12週間のプログラムには6つのスタートアップチームが参加している。

SuperChargerがアクセラレーターを開催するのは、これが初めてではない。同社は過去にフィンテックのアクセラレーターを3回実施している。SuperCharger Venturesの共同ファウンダーJanos Barberis(ヤノス・バルベリス)氏はこのピボットの理由は非常に単純だと語った。つまり銀行だという。

バルベリス氏によれば、新型コロナにより多くの銀行が支店の営業を続けることが困難になっており、フィンテックサービスの需要が激減したという。同氏は「現在、銀行にはイノベーションに取り組むための余裕がありません。こういうときに真っ先に削減されるのはイノベーションです」と語った。

こうした状況で同社はEdTechにピボット(未訳記事)したが、フィンテックのアクセラレーターを運営した経験から重要な教訓を得ている。つまり継続的な収入源を得るためのB2B(企業向け事業)の重要性だ。

バルベリス氏は「B2B事業は収益を得る上での安定性、健全性があるので重視しています。つまり健全な収入源です。現在、投資家が投資を決める要因は健全な収入の有無だと思います」と語った。

たしかにバルベリス氏の主張に異議を唱えるのは難しい。しかしQuizletCourse HeroApplyBoardといった現在のEdTechユニコーンの多くはコンシューマ向け、つまりB2Cだ。教育機関は多数ありしかも非常に細分化されているため、エンドユーザーをターゲットとするほうがマーケティング上有利になるためだ。少なくとも米国ではそうだ。

しかし理論的にはB2BビジネスはB2Cより容易に多数のユーザーを獲得する可能性を秘めており、新型コロナの蔓延はB2B移行というトレンドを加速している。バルベリス氏は「国際的に知名度を高めることも重要です。また(国際市場では)教育機関の細分化が米国より少ない場合があります」と述べた。

アクセラレーターに参加しているスタートアップは、B2B市場の開拓だけでなく、アジアとヨーロッパ市場への拡大にも焦点を当てることが求められている。

バルベリス氏は、ヨーロッパと(中国を除く)アジア市場はどちらもEdTech分野に需要と供給のギャップがあり、十分にビジネスチャンスがあると考えている。ヨーロッパでは企業は大学によるデジタル学習を求めている。アジアでは、中国外の市場が有力であることを投資家に実証する必要があると考えている。ヨーロッパにはすでに需要があり、アジアには需要を生み出すチャンスがあるわけだ。

同氏は当面、米国と中国をターゲットから外している。両国にはすでに多数のスタートアップが存在し市場が飽和状態にあると考えているためだ。

SuperChargerのEdTechのクラスは、通常のアクセラレーターモデルに準じている。ただし教育機関との提携や短期間で実効を上げる(B2BのEdTech事業の需要は夏季に集中的に発生する)方法など、教育事業の特性に合わせた内容が含まれている。

SuperChargerは資金を提供しない。サービスの対価はスタートアップの株式の1〜2%だ。これは会社評価額として7万5000ドル(約780万円)から10万ドル(約1040万円)程度と見積もられている。アクセラレーターはデモデーでクライマックスを迎える。この際、総額1500万ドル(約15億6000万円)から2000万ドル(約20億8000万円)程度のベンチャー資金を調達できると考えている。

TechCrunchでも報じたNextView Venturesをはじめ、アクセラレータープログラムを開催してビジネスの成長支援し、パンデミック下でもシード分野の活気を維持しようとするベンチャーキャピタルは多い。

上記しているようにSuperCharger Venturesはフィンテックに焦点を当てたアクセラレーターを3回実行し、49社が卒業している。フィンテックは過去に十分活況を呈しているセクターだったが「この分野は飽和したため(EdTechに)ピボットした」とバルベリス氏は述べた。

最初のクラスには208チームの応募から以下の6チームが選ばれている

  • Axon Park:ファウンダーはTaylor Freeman(テイラー・フリーマン)氏ら。仮想現実を利用して医療専門家にパンデミック下の個人防護具使用手順等の職業訓練を行う。ターゲットは企業、政府、大学。
  • BSD Education:共同創業者はChristopher Geary(クリストファー・ギアリー)氏、Nickey Khemchandani(ニッキー・ケムチャンダニ)氏。8歳から18歳までの生徒向けのテクノロジー学習カリキュラム。このスタートアップはカリキュラムの提供以外に、教師向けの専門的トレーニングとオンライン学習のプラットフォームを提供する。
  • Dijital KolejZeynep Dereli(ゼイネップ・デレリ)氏とFerruh Gürtaş(フェルー・ギュルタシュ)氏が創立。自由な時間に再生できる非同期学習と特定時間に実施される同期学習のハイブリッドによるオンライン教育モデルの構築。
  • NewcampusWill Fan(ウィルファン)氏、Fei Yao(フェイ・ヤオ)氏の創立。ジム(会員性運動クラブ)の学習版と位置づけている。企業におけるリーダーシップ育成に焦点を当てた生涯学習のプラットフォーム。
  • Ringbeller:ファウンダーはCJ Casciotta(CJ・カシオッタ)氏。インタラクティブなビデオレッスンを利用して子供たちにソフトスキル(創造性、親切心など)を教える。
  • RoybiElnaz Sarraf(エルナズ・サラフ)氏、Ron Cheng(ロン・チェン)氏が創立。STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)分野で子供向けテーマを教えるAIロボットの構築。

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カテゴリー:EdTech
タグ:VCアクセラレータープログラム

画像クレジット:Bryce Durbin

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

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TechCrunch Japan

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