【編集部注】執筆者のAlex WilhelmはCrunchbase Newsの編集長で、VCに関するTechCrunchのポッドキャストEquityの共同司会者でもある。
Amazonは成長を重視するあまり利益を生み出していない(もしくは赤字でさえある)というのはシリコンバレーでよく聞く話だ。しかし同社は、以下のふたつの理由から常々このコメントを否定している。
- 成長のために巨額の赤字を垂れ流す必要がなくなった。
- 最近(あくまでAmazonの企業としての歴史から言っての”最近”)誕生したビジネスの利益が順調に伸びている。
ここにWhole Foodsが加わることで話はさらに面白くなってくる。一般的に食料品小売業は利幅が薄いことで知られているが、既に指摘されている通り、Amazonの利益率はWhole Foodsを下回る。それでは、Whole Foodsの買収はAmazonの利益にどのような影響を及ぼすのだろうか?
私たちの計算には限りがあるということを予め理解しておいてほしい。Whole Foodsの商品が値下げされた後とは言え、Amazonが買収によって新しく発生するコストをどうするのか正確に予測するとなると、推測がかなりの部分を占めてしまう。つまり、値下げはこれから始まる長い物語の序章でしかないのだ。
Amazonを構成する三要素
Amazonの利益(もしくは損失)について議論する際には、同社のコア事業3つを頭に入れておかなければいけない。ひとつが北米でのEC事業、もうひとつが自称”海外”EC事業、そして最後がクラウドコンピューティングサービスのAWS事業だ。
同社は事業ごとの営業利益を決算書に記載しているため、(GAAPベースの純利益の方が指標としては望ましいとは言え)各ビジネスの成績をここから確認できる。以下が2017年第2四半期(リンク先PDF)のEC事業の業績だ。
- 北米売上:223.7億ドル
- 北米営業利益:4.36億ドル
- 海外売上:114.9億ドル
- 海外営業利益:-7.24億ドル
数字を見ればおわかりの通り、北米EC事業は営業利益を生み出しながら成長を続けている一方、海外EC事業は利益を犠牲に成長しているように見える。しかし、長期的なプランを重視することで知られるAmazonは、国内事業が海外事業の成長を(概ね)支えるような構図に満足している可能性が高い。
3つめとなるAWS事業は北米EC事業よりも好調で、海外EC事業によって生まれた営業利益の穴を埋めるほどだ。
- AWS売上:41億ドル
- AWS営業利益;9.16億ドル
上記全てを勘案すると[4.36億-7.24億+9.16億>0]となり、Whole Foodsを計算に入れる前の段階でAmazonの営業利益は黒字だとわかる。
(もっと丁寧に説明すると、Amazonの国内EC事業はもはや海外EC事業を(2016年第2四半期のようには)支えきれていないため、Amazon全体としての営業利益を確保する上で、AWS事業の重要性が増してきている)
それでは、Whole Foodsの売上と営業利益を計算に加えてみよう。
Whole Foods買収の影響
Whole Foodsの買収が完了したところで、同社がAmazonの利益にどのような影響を及ぼすのか考えてみよう(Whole Foodsの数字は、直近の四半期報告書からとったもの)。
- 売上:37.2億ドル
- 営業利益:1.8億ドル
まず、Whole Foodsの営業利益率は5%弱だ。しかしGadflyの指摘通り、Amazonの利益率はこれを下回っている。つまり、Whole Foodsの買収に伴ってAmazonに4つめの要素が加わることで、全社的な利益率は向上するかもしれないのだ。
ではWhole Foodsが加わることで、Amazonのビジネスモデルは変わるのだろうか? 変わったとしてもそこまで大きな変化はないだろう。というのも、AmazonはWhole Foodsよりもかなり規模が大きいため、1.8億ドルという営業利益がもたらすメリットもそれなりでしかないのだ。
先述の[4.36億-7.24億+9.16億]という式によれば、Whole Foods買収前のAmazon全体の営業利益は6.28億ドルになる。ここにWhole Foodsの数字を加えると[4.36億-7.24億+9.16億+1.8億=8.08億ドル]になる。
営業利益が8.08億ドルに増えることで、何か変化が起きるかどうかはわからない。ただ、営業利益が29%増え、売上が9〜10%増えるというのは確かだが、それを受けてAmazonが各事業への投資のあり方を変えるというのは考えが飛躍し過ぎているように感じられる。
AmazonがWhole Foods商品の値下げを行ったことで、Whole Foodsの営業利益は今後減少することが予想されるため、結果的に同社がAmazonの営業利益に与える影響も少なくなる。そのため、Whole Foods買収によるAmazonの事業戦略への影響も限定的だと言えるだろう。
結論として、Whole Foods買収によるAmazonの営業利益への影響は軽微で、恐らく買収のメリットは他事業へと広がること(プライムメンバーの増加など)になるだろう。また、Amazonの営業利益が既に黒字であることも注目に値する。結局のところ、巨人Amazonの前ではWhole Foodsも小人に過ぎず、その利益も取るに足らないものだということだ。
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(翻訳:Atsushi Yukutake)