「TikTok」の親会社ByteDanceはゲーム業界にどう切り込むか

ショート動画アプリ「TikTok」の親会社であるByteDance(バイトダンス)は、ここ数年、広告以外にも収益源を多様化し、数億人のユーザーを収益化する方法を模索している。その中で、ByteDanceはゲームもターゲットとしているが、ゲームといえば中国のインターネット経済において歴史的に「儲かる」ビジネスである。

市場調査会社Newzoo(ニューズー)の調査によれば、中国は世界最大のゲーム市場であり、2020年には408億5000万ドル(約4兆5000億円)の収益を生み出している。米国は369億2000万ドル(約4兆円)で、中国には及ばなかった。

利益が大きい分競争も激しく、ゲーム業界はTencent(テンセント)とNetEase(ネットイース)という2強が長期間市場を支配し、Mihoyo(ミホヨ)やLilith(リリス)のような小さなプレイヤーが躍進しつつある。市場調査会社のAnalysys(アナリシス)の2019年の調査では、Tencentが中国のゲーム市場の半分以上を独占し、NetEaseが約16%、37 Interactive(37インタラクティブ)が約10%を占めており、小規模なライバルたちに残された余地はほぼない。

この中で、ByteDanceは2021年2月、同社のゲーム事業に初めて「Nuversegame」というブランド名を付け、ウェブサイトを開設して邁進している。同社の戦略は、ジャンルを限定しないポートフォリオ、人材の大量採用、実証済みの収益化スキーム、そして国内および海外市場への同時展開である。Kevin Meyer(ケビン・メイヤー)氏は、ByteDanceでの在籍期間は短かったものの、ゲームを含む複数の海外事業を担当した。

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ゲームに関しては「ダビデ」という立場のByteDanceではあるが、「ゴリアテ」に屈する気はないようだ。同社ゲーム部門の幹部の1人であるYan Shou(ヤン・シオウ)氏は、1年前にSNSに投稿した記事の中で次のように書いている。「ゲームはコンテンツビジネスだ。辛抱強く投資を続ければ、独占を打ち破ることができる」。

人材争奪戦

近年、ByteDanceは、BATの元従業員を大量に採用している。BATとは中国でもっとも名の知られた3大ハイテク企業Baidu(バイドゥ)、Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)の頭文字である。ヤン氏自身も、2015年のByteDance移籍以前は、Tencentで2年以上にわたり戦略を担当していた。変化の激しい中国のハイテク業界において、引き抜きや移籍はよくあることだが、ByteDanceの手厚い待遇は有名だ。将来ByteDanceが上場する際に受け取れるであろう従業員オプションに魅了される技術者も多い。

さらに、AlibabaやTencentは設立から20年以上が経過しており、キャリアアップの余地が限られていることに閉塞感を持つ野心的なスタッフもいるだろう。それに比べて、ByteDanceは設立から9年しか経っていない。北京を拠点とするテクノロジー企業のヘッドハンティング担当者は、ByteDanceはまだ急成長の段階にある、とTechCrunchに話す。

「設立から10年も経過していないというByteDanceの若さと、同社が産み出す新しいビジネスは、こういった技術者が夢を実現するための打ってつけのプラットフォームになる」とヘッドハンターはいう。

ByteDanceはゲーム分野でも積極的に採用活動を行っている。ある関係者によると、2020年のわずか1000人であった同社のゲーム部門の従業員数は、3000人近くまで増加しているという。これらの従業員は北京、上海、杭州、深圳など、中国の主要なハイテク拠点に散らばっており、ByteDance傘下のさまざまなゲームスタジオで仕事をしている。

3000人規模のチームとはどのぐらいの規模だろうか。中国第3位のゲーム会社である37 Interactiveは、2021年1月時点で約4000人のゲームスタッフを擁している(同社幹部談)が、この規模になるまでには10年の歳月を要した。ByteDanceがゲーム事業を模索し始めたのはわずか5年ほど前のことだ。

ByteDanceはこの記事についてコメントを控えている。

ゲームの工場

遅れて参入したメリットもある。Tencentをはじめとする先行企業のゲーム市場への取り組みは、ByteDanceの学習の機会となった。ByteDanceは、手軽なモバイルゲームから、変則的なデザインやテーマを持つインディーズタイトルまで、多様なジャンルを同時に手がけている。市場調査会社Niko Partners(ニコパートナーズ)のゲームアナリストであるDaniel Ahmad(ダニエル・アーマド)氏によれば、この取り組み方こそがByteDanceとTencentの違いである。Tencentは、2000年代にボードゲームやカードゲームに参入した後、徐々に他のジャンルにも進出し、世界最大のゲーム会社となった。

もちろん、最初から多様なポートフォリオを目指すことができるのは、ByteDanceのような資金力のある企業だけだろう。ショート動画アプリ「Douyin」(「TikTok」の中国版)やニュース収集配信サービス「Toutiao」を中心とした広告ビジネスをうまく活用し、70億ドル(約7600億円)以上を自己資本調達してきたByteDanceは、ゲームだけでなく、教育SaaSなどの水平展開にも資金を投入することが可能であった。

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ByteDanceは、他のハイテク企業からの人材の引き抜きに加えて、中小企業を飲み込んで労働力を増強している。公開されている情報によると、2018年以降、同社は少なくとも11社のゲーム会社に投資しているが、そのうち6社は完全買収で、買収した資産や人材は、その後、同社のゲームスタジオに組み込まれている。ByteDanceでは買収による雇用も実績のある手法だ。「Douyin」の立ち上げに貢献したプロダクトマネージャーであるKelly Zhang(ケリー・チャン)氏も、自身の写真共有スタートアップがByteDanceに買収された後に同社に移籍している。

多くのゲーム会社と同様、ByteDanceの収益化スキームは、サードパーティタイトルの配信とオリジナル作品の制作という2つの柱で構成されている。高品質なゲームの開発には時間がかかるが、この収益化スキームにより、ゲーム部門は、自社の作品が金のなる木になることに賭ける一方で、ある程度の収益を得ることができる。カジュアルゲームはレベルアップのタイミングで配信される広告に最適である。複雑なゲームはユーザーのロイヤリティにつながるため、(広告よりも)アプリ内課金で収益を上げる方が自然である。

ByteDanceがライセンスをもつカジュアルゲームの中には、カーレースゲームの「Drift Race」、音楽ゲームの「Yinyue Qiuqiu」、パズルゲームの「Brain Out」など、これまでに中国のiOS無料ゲームのトップ10にランクインしたものがある。これらのコラボレーションはまだ大きな利益を生んでいるわけではないが、ユーザーを引きつけるという点で、同社のトラフィック戦略の実行可能性を証明している。

2019年、ByteDanceは同社のアプリ全体で15億人の月間ユーザーがいると発表した(アプリ間でユーザーが重複することもある)。ByteDanceがゲームをマーケティングする方法の1つは、ユーザーのコンテンツフィードにネイティブ広告を挿入することだ。「動画はインタラクティブで使いやすく、クリックしやすいため、従来の広告よりもはるかに高いコンバージョンを得ることができます」とNiko Partnersのアーマド氏はいう。

広告がユーザーに、スタンドアロンのゲームアプリのダウンロードを促す場合もあるが、DouyinとToutiaoは、WeChatや中国の多くの人気アプリと同様に、プラットフォーム内でサードパーティの「ミニアプリ」をサポートしている。ユーザーはWeChatと同じように、Douyinでもミニゲームをプレイすることができるというわけだ。

月間数億人のユーザーを抱えるByteDanceは、すでにユーザーの嗜好や行動を十分に把握し、どのようなゲームを推奨すればよいかを理解している。理論的には、視聴したり反応したりするユーザーが増えるほど、推奨はより正確になる。

同社のゲーム開発者ハンドブックによると「ByteDanceのアルゴリズムはターゲットを絞った推奨により、ミニゲームをさまざまな形で自動的にユーザーに提示する」「すべてのゲームには、公平かつ平等に、ユーザーに見てもらえるチャンスがある」とのことだ。

カテゴリー:ゲーム / eSports
タグ:ByteDance中国

画像クレジット:Games published by ByteDance

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(文:Rita Liao、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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