2019年11月にロサンゼルスで開業した和菓子のD2Cを行うMISAKY.TOKYO(ミサキ・トウキョウ)。代表の三木アリッサ氏は、先日、Clubhouseのクリエイター向けアクセラレータープログラムに出場している。
日本の伝統技術を世界へ
三木氏の母親は、アーティストとして活動している。そのため三木氏は、アーティストがマーケティングや財政管理といった創作活動以外のこともしなければ成功が難しい現状に対して懸念を抱いていた。どうやったらクリエイターの広報活動を支援できるのだろうかと考え、三木氏は新卒でネスレへ入社し、同社初の新卒マーケターとしてCM制作などを学んだ。日本酒の会社やフローリストのマーケティング支援も経て、自らも日本発のラグジュアリーブランドを手がけるクリエイターになろうと思ったという。注目したのは日本の伝統技術。当時、グローバルで活躍している日本の伝統技術はほぼ見当たらなかった。起業の前に三木氏はイスラエルでグローバルローカライゼーションを学び、2019年の8月にロスへやってきたという。
三木氏は「事業を維持するには高額商品か高所得者層の顧客が必要。高額商品から手がけるのはハードルが高いため、まずは単価の低い食品を介して富裕層にリーチし、クロスセルしていく事業計画を立てました」という。宝石のような見た目の和菓子は、1粒8ドル(約880円)、送料込みだと約10ドル(約1100円)。ヴィーガン向けの和菓子は、病気が原因でグルテンを摂取できないという友人の悩みから着想を得て、グルテンフリーでもある。
彼女は、見た目にも華やかで健康にも良い和菓子に、グローバル市場での競争優位性を感じているという。Kim Kardashian(キム・カーダシアン)氏などセレブとのコラボレーションも実現。TikToの公式キャンペーンにも選ばれ、30社のみ参加可能なClubhouseアクセラレータに日本代表としてオーディションを勝ち抜き支援されることとなった。
「スター誕生」を目指すClubhouse
日本ではブームがひと段落したと見る人もいるClubhouseだが、英語圏ではTikTokをはじめ、個人による情報発信、マネタイズ可能なプラットフォームのユーザ数は伸びているという。
クリエイターファーストを掲げているClubhouse。「スター誕生」やNizi Projectのように、Clubhouseからスターを輩出するためのオーディションが2021年3月に実施された。全世界から応募があり、53組から20組に絞られる中で、彼女は日本人唯一の公式クリエイターに選ばれた。
MISAKY.TOKYOでの活動と平行して三木氏は、日英でスタートアップニュースを解説するというトークルームを運営している。このスペシャル版である「最新版デジタルアートの未来」では、日本から落合陽一氏、海外からは5分で3億円デジタルスニーカーを売り上げたRTFKTを招いた。5月16日に1時間の番組を実施し、海外のClubhouse評論家からも高い評価も得ている。
Clubhouseはオワコンなのだろうか。彼女は音声コミュニティの可能性を感じている。「今、Clubhouseのアクティブユーザー数が低下している理由は、クリエイター側がマネタイズできないからと考えています。多くのSNSの黎明期はこのような状態にあるものです」と三木氏はいう。今回のオーディションもクリエイター誕生の場としてClubhouseが育つ一助と考える。
「事業を開始する頃からも感じていましたが、Clubhouseのオーディションを通して、日本人であること、女性であることが、いかに世界でプレゼンスが弱いかを痛感しています。オスカーの前夜祭で選ばれるのも、その多くが白人男性。日本の伝統文化は質としてすばらしいものが多いので、世界でのプレゼンスを上げるために活動を続けたい。その一歩として、ファンを作るには、Clubhouseは有益なプラットフォームであると感じている」という。
P2Cの世界がやってくる
英語圏においては、D2Cはすでに過去のものとして認識されている。「今、期待されているP2C(Person to Customer)という概念です。米国ではTikTokなどを介して、個人が自身のプロデュースしたプロダクトを売っていくのが主流。D2Cも流行し、2020年には寝具のCasperがIPOしましたが、この先は続かないと考えられています」という。企業広告に疲れた消費者たちは、どうせなら好きなものにお金を落としたいという気持ちが強まっており、ファン心理をついたマーケティングが効果的になっていくという。
MISAKY.TOKYOのようなスタートアップにとっても、ファンをつないでくれるClubhouseのようなサービスは、これまで以上にとても重要なものになる。
「新型コロナウイルスの影響もあり、商品とのファーストコンタクトがデジタルシフトしつつある。現物の品質を確認できないため、中長期的ファン獲得に繋がるかはさておき、購入フックはオンライン上での訴求力となってきている」と語る。一個人への共感でものが広まる時代がやってきている。
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