リピート率59%アップ!電子カルテ軸の鍼灸プラットフォームで受療者、鍼灸院、見込み客それぞれの課題を解決

日本マイクロソフトが10月11日から14日にかけて開催中の「Microsoft Japan Digital Days 2021」では、生産性や想像力を高め、組織の競争力に貢献するソリューションや、その導入事例について学べるプログラムが提供されている。

Day 1の10月12日13時35分に行われたセッション「世界の人々の健康をサポートする鍼灸メーカーがSaaS事業を提供するに至るまで(真のDXとは何かについて)」をレポートする。

登壇したのは、鍼灸鍼をはじめ医療機器の開発・製造・販売を行ってきたセイリン ICTプロジェクトリーダー 菊地正博氏とAzureを使ったeコマース開発を得意とするシグマコンサルティング プロジェクトリーダー 木下浩之氏だ。

鍼灸業界の発展を阻む課題をプラットフォームで解決

「鍼灸業界の発展を支えるプラットフォーム」というサブタイトルで進められた当セッション。2020年9月に「鍼灸つながるカルテ」「はりのマイカルテ」をリリースした背景がセイリン菊地氏の口から語られた。

鍼灸治療を受ける人(受療率)は年間560万人で、国内人口の約5.6%。受療したことがあるもののリピートにつながらない人は約2000万人いる。

「肩こり 鍼」などで検索するような鍼灸に興味のある見込み客は約670万人、健康やボディケアに関心のある層は2400万人いるものの、実際に鍼灸治療を受けるに至っていなかった。

鍼灸業界の発展には、受療したもののリピーターになっていない人や見込み客をいかに呼び込むかが課題だが、それには、立ちはだかる負のスパイラルを断ち切る必要があるという。

負のスパイラルには、受療者、鍼灸院、見込み客、他業界の抱くイメージや体験などがある。

受療者側には「施術の効果を感じられない」「本音を言いづらい」「保険適用外で治療費が高い」というもの、鍼灸院側は「来てくれなくなった理由がわからない」「それゆえ施術や接客レベルを上げようがない」「サービス改善のモチベーションが上がらない」というもの、見込み客にとっては未経験ゆえ「怖い」「効果が不明」「マッチする鍼灸院を探せない」という負の感情が、医療施設や介護施設など他業界からは「鍼灸による成果のエビデンスがない」「信頼できる鍼灸師が少ない」「連携するメリットが見いだせない」ため紹介・連携できないという課題があった。

そこで、セイリンではそれらの課題を解決する最適解が電子カルテを軸とした鍼灸プラットフォームであると考えた。

単なる電子カルテであれば、すでにさまざまな医療機関で採用されているが、これは、施術側が治療を記録するためだけのものではない。治療内容とともに、日常生活で気をつけるべき点などのフィードバックを患者に提供し、鍼灸師は受療者からの満足度に関するフィードバックや相談を受けられるようになっている。これにより患者の満足度は上がり、鍼灸師もサービスや技術向上のモチベーションを上げられる。

さらに、患者の症状と施術内容を鍼灸データベースに蓄積することで、これから施術しようとしている鍼灸師には最適な施術のレコメンドを、医療施設や介護施設には鍼灸治療を使うことのメリットなどを含むエビデンスを提供可能になる。

患者から受け取った満足度評価や感じられた効果も蓄積され、その情報は4月1日にリリースした鍼灸院検索サイト「健康にはり with はりのマイカルテ」でいずれ検索可能になり、新規ユーザーが自分にマッチする鍼灸院を探すのに役立てられる。

つまり「鍼灸つながるプラットフォーム」のシステムを導入することで、これまで鍼灸業界の発展を阻害してきた負のスパイラルを断ち切れるというわけだ。

とはいえ、タッチポイントであるアプリの使い勝手が悪ければ鍼灸師も受療者も手間と感じてしまう。

鍼灸師が使う電子カルテ「鍼灸つながるカルテ」はPC、タブレット、スマートフォンのマルチデバイス対応なうえ、入力しやすさを確保しているという。

また、治療前後の変化、治療内容など、通常、自分のものであるのにアクセスできないカルテの内容を鍼灸院から患者へ患者側電子カルテ「はりのマイカルテ」を通じて共有することで、受療者が施術の効果を実感でき、通院のモチベーションを上げられるような仕組みを作っている。

さらに、通常であれば鍼灸院に到着後に記入する問診票の内容をアプリを通じて事前に伝える仕組みもあるため、現状を落ち着いて入力できるうえ、到着後の待ち時間が減るというメリットがある。鍼灸師にとっては、患者が来院する前に情報を得られるので、前もって施術準備を行える。

患者に記載してもらった情報も含めた電子カルテの情報は、ビッグデータという形で鍼灸データベースに蓄積するが、それは教科書にも記載されていない内容だ。師匠たちから受け継いできた「暗黙知」が、システムに入れるすべての鍼灸師に共有され「形式知」となることが、業界全体のメリットになる。

また、蓄積された情報はエビデンスとしても機能するため、鍼灸治療を選んでもらえるよう介護施設や医療施設に交渉できるようになるため、また見込み客の認知度が上がるため、新規受療者の増加も見込める。

リピート率アップについては、鍼灸院「ニイハオ鍼灸院」の導入事例が紹介された。「はりのマイカルテ」導入前後3カ月で比較したところ、アプリ利用患者50人の来院平均回数が2.09回から3.32回へ59%アップ。未利用患者43人の平均来院回数が1.66回から1.71回であったことを考えると、カルテ共有の効果が高かったことがうかがえる。

菊地氏は、4月にリリースした受療者向け鍼灸院検索サイト「健康にはり」内の情報を定期的にアップデートしていくことで「針灸初心者でも安心して治療を受けてもらえるようにしたい」という。

最後に「鍼灸つながるプラットフォームにより、鍼灸治療に関する知を次世代に伝えること、針灸業界の発展を支え、受療率5%を15%にアップさせることを行っていきたい」と今後の抱負を語った。

針灸業界の発展を支えるプラットフォームをさらに下から支える

シグマコンサルティングの木下氏は、同社がAzureを使ったeコマースの知見をどのように鍼灸つながるプラットフォームに活かしたかということについて解説した。

これまで、針灸業界には同様のサービスがなかったため、ニーズを聞き取りながらゼロベースで実装。Azureがあったからこそ、1年半という短期間で行えたことを強調した。

とはいえ、カルテ情報の取り扱いには高度な機密性が要求される。

ここで、シグマコンサルティングの知見が活きてくる。eコマースでは、クレジットカード情報など財産に関係する情報のやり取りが必要になる。シグマコンサルティングには、PCIDSS(Payment Card Industry Data Security Standard。クレジットカード業界のセキュリティ基準)といったセキュリティ事項に対応した実績あり。今回のプラットフォームのシステム構成にも、Azure AD B2Cの認証の仕組みを導入することで堅牢なシステムをすばやく構築した。

データベースにはSQLを利用することで拡張性を担保しつつ、SaaSビジネスで重要なランニング費用低減を図ったという。

これまで器具販売を中心に営業してきたセイリンがSaaSビジネスを成功させるための事業支援も行ってきた。その中にはセイリンだけでなく、導入する鍼灸院へのサポートも含まれる。

セイリンには、営業活動の目標値として「鍼灸院が同システムを導入することによって成功体験を得る」というものを設定した。そのうえで、営業活動を可視化し、営業プロセスを見直ししやすくして商談内容に一定の品質が保たれるようにした。

鍼灸院へは、プラットフォームを利用することで成功体験を得られるようカスタマーサクセスチームを立ち上げて対応した。カルテの電子化、受療者とのコミュニケーション促進、予約業務の効率化など、いくつかのポイントを押さえて支援。サクセスが明確化されたことで、KGI・KPIも明確になり、次なるカスタマーサクセスを実現するためにプロジェクトを改善する必要があり、その点でも支援したという。

「これらの支援により、組織は自走型へと変化する。シグマコンサルティングは、開発からビジネスの成功までをサポートしていける」と、木下氏は締めくくった。

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TechCrunch Japan

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