「家がない」15億人が抱える問題の解決を目指すJupe

「音楽フェスの参加者のためにグランピング用のテントを作っているわけではありません」。Jupe(ジュープ)の共同創業者でCEOであるJeff Wilson(ジェフ・ウィルソン)氏は、同社のビジョンをこのように力説する。「現時点では、食料は流通の問題で、衣類についてはほぼ解決されています。しかし、世界にはまだ適切な家を持てない人々が約15億人存在します。地球上の大きな問題を解決したいのであれば、これは取り組む価値のある問題です」。

Initialized(イニシャライズド)のGarry Tan(ギャリー・タン)氏とY Combinator(ワイコンビネーター)のメンバーはウィルソン氏に同意したらしい。彼らはシードラウンドでJupeに950万ドル(約10億8000万円)を投資した(Jupeに数カ月間のシェルターを提供したといったところか)。この資金は、Jupeのチームを強化し、住むところのない人に住居を提供するというミッションを継続するために使われる。現在までの予約注文は300件以上。多数の地域に同社のJupeシェルターを出荷し始めたところだ。

Initializedの創業者でマネージングパートナーであるギャリー・タン氏は次のようにコメントする。「Jupeの夢であるユニバーサルな自律型住宅があれば、最終的には地球上のどこにいても、衛星を介してインターネットに接続し、快適に暮らせるようになります。世界はこれを待ち望んでいました」「彼らは世界で初めてのハードテックとソフトウェアプラットフォームを構築しています」。

Jupeのミッションは確かに控えめなものではなく、創業者のウィルソン氏は風変わりで個性的だが、それをやり遂げるだけの情熱とマッドサイエンティスト的な雰囲気を持つ。

ウィルソン氏は最近のインタビューで「米国における平均的な家庭の100分の1の体積とエネルギーを使って生活しようと考え、1年間ゴミ箱に住んでいた」と語り、そこから話題を変えてJupeのアイデアを思いついた経緯を話してくれた。「私は環境科学の博士号を取得しています。気候変動で人類の活動は影響を受けています。Jupeのユニットは、基礎工事も電力網への接続も不要で、特定の土地に縛られることがありません。Jupeは年間15億人もの人々に影響を及ぼす住宅危機を解消するためのステップです。Jupeのユニットは、従来の仮設住宅や移動式住宅に比べて、十分の一のコストと期間で生産可能で、15倍効率良く出荷できます。ユニークなデザインですべての人にしっかりとした滞在場所を提供します。インターネット付きのね」。

現在、サンフランシスコのSoMa(サウスオブマーケット)の真ん中で、Jupeのユニットの1つに住んでいるというウィルソン氏は、次のように説明する。「今回の資金調達ラウンドを主導したギャリー・タン氏は「Universal Autonomous Housing(ユニバーサルな自律型住宅)」という言葉を作ってくれました。まさに私たちがやっていることを示す言葉です」「今のところ、自然の中でオフグリッドかつハイデザインの快適な体験を楽しみたい人がJupeを利用しています。長期的には、技術を発展させて、都市に住むことを望まず、広大な土地でコミュニティを作って暮らしたい人たちを対象にします。将来的には、数週間、数カ月、生まれてから死ぬまでJupeのユニットで暮らしてもらえるようにしたいと思っています」。

ウィルソン氏がMVPと称するJupeシェルターの現行バージョンは、シェルターの中核技術を使って製造されたシャーシの上に、アルミニウム製の外骨格を組み上げた頑丈な構造である。強風にも耐えるが、主に5~27℃の温暖な気候で使用されることを想定している。

「次のバージョンではハードトップが導入され、春夏秋冬などの温度変化がある環境で使用できるようになります」とウィルソン氏。「既存の構造では大雪に耐えられません。コロラドに設置したものは、冬は撤去する必要がありました。しかし、これは進化の過程であり、Jupeは創立間もない企業です。私たちは成長を目指しています。2020年4月に最初のJupeを作ってから、すでに700万ドル(約8億円)程度の収益を計上しています」。

価格決定モデルは教えてもらえなかったが、ウィルソン氏は「それは関係ない」と主張する。同社は、Jupeのネットワークを構築して敷地の区画にJupeを設置し、その区画を貸し出して収益を50対50で分配したいと考えている。

「多少のライセンス料を除けば、初期費用はかかりません。私たちの予約プラットフォームに(区画を)掲載して、ホットスワップ(アクティブ状態で機器を交換すること)で運用します。土地のJupeが古くなったら、私たちが交換をしに行きます。車の下取りのようにね。最新の技術を導入したJupeに交換して、古いものは別の用途に使用します」とウィルソン氏は説明する。「Just add land(必要なのは敷地だけ)。これが私たちのスローガンです」。

現状、最大の課題は、技術面を担当できる適切なCTOを招へいすることだ。同社は、技術プラットフォームを発展させていくために「(技術面で)創業者レベルといえるほどのCTO」を求めている。

「とにかくとんでもなく良い人材が必要です。世の中にはスマートではない人がたくさんいますが、私には本当に優秀な人材が必要なのです。15年以上の経験、スタートアップ企業と大きなチームを管理・成長させてきた人材を求めています。ソフトウェアの面で非常に優秀で、インテグレーションの面でも多くの経験を有する人材です。Jupeはガジェットであり、デバイスですから」とウィルソン氏。「見つけるのは大変だと思いますが、大金と自社株を用意して、競争力があり、私が持つビジョンの実現をサポートしてくれる人を獲得する予定です」。

ウィルソン氏の大胆なビジョン……Jupeは何億もの人に家を提供したいと考えている。

「みんなが火星に行きたがっているのは知っていますが、まだ地球を諦めるべきではありません」とウィルソン氏は締めくくる。「会社の評価なんてどうでもいい。私は残りの人生でこれをやりたいのです。優れた人間性を持つ最高の人材が必要です。一緒にミッションを達成しましょう」。

画像クレジット:Jupe

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。