トランジスタ以来の大発明?Menlo Microsystemsのスイッチはあなたが触れる全デバイスの電力供給を変える

従来の電気技術者は、信頼性が低くて遅い大電力スイッチか、大電力は扱えないが高速・高精度なスイッチのどちらかを選択しなければならなかった。Menlo Microsystems(メンロー・マイクロシステムズ)のIdeal Switch(アイデアル・スイッチ)は、そのような従来の電子設計のパラダイムを完全に覆す新しいタイプのスイッチだ。同社は、自らが「トランジスタ以来の大発明」と呼ぶものを開発し、さらなる変革を遂げるべく準備を進めている。ずいぶん大胆な主張だが、1億5千万ドル(約174億2000万円)の新規投資を集めたということは、少なくとも投資家の一部は同社が何かを掴んでいると考えているのだろう。

電気技術者でなければ、この会社の技術革新がどれほど大きなものかを理解するのは難しいだろうし、この技術がどれほど重要なものになるかを誇張して話すことも難しいだろう。このスイッチは、ある種の回路を100倍小さく100倍効率的にするという、非常に大きなインパクトを持っている。スマートライトのスイッチを自宅に設置したことがある人は、使われている電子機器が巨大で、力技とワセリンを使い悪態をつきながらでないと壁にスイッチを埋め込めないことにお気づきだと思う。これは、電源のON / OFFをリレーに頼っているためだ。同社の技術があれば、こうしたライトのスイッチを、大きさもコストもはるかに小さなものにすることができる。実際、同社の技術があと少し値下がりすれば、あなたが足を踏み入れるすべての設備、建物、車両に、同社のスイッチあるいはそれに相当するものが使われるようになる可能性がある。

フットプリントがはるかに小さいことに加え、Ideal Switchは作動に要する電力が大幅に少なく(1ミリワット未満)、通電時の消費電力も少なく、スイッチング速度がとても速く(10マイクロ秒未満)、数百万回の作動で故障することが多い通常のスイッチと比較して、数十億回の作動に耐えられるといわれている。つまり、これまでのコンポーネントとは大きく異なるタイプのコンポーネントなのだ。さらに同社は、それが数千ワット相当の電力を扱える部品であるとしている。

同社は米国時間3月9日、1億5000万ドル(約174億2000万円)のシリーズCを発表し、Menlo Microの累計資金調達額は2億2500万ドル(約261億3000万円)超に達した。Vertical Venture PartnersFuture Shapeが、このラウンドを主導し、既存投資家に加えて新規投資家としてFidelity Management & Research CompanyDBL PartnersAdage Capital Managementが参加した。今回の投資は、国内の製造とサプライチェーンの拡大に充てられる。

Menlo MicroのRuss Garcia(ラス・ガルシア)CEOは「今回の資金調達は、あらゆるものの電化を促進し、1000億ドルを超える21世紀のRF通信、電力スイッチング、保護デバイス市場を近代化する、Menlo Microの変革的技術に対する投資家のみなさまからの信頼を裏付けるものです」という。「今回の調達で、米国での生産を拡大し、世界の喫緊の課題を解決するためのパワーロードマップの開発を加速させることができるようになります。私たちは、世界の老朽化した電力網のアップグレード、スマートビルや工場の近代化、従来の電力インフラの非効率性を解消できる立場にいるのです」。

毎年200億台以上の配電盤が出荷されており、同社はこの広大な市場での変革を促進するための地位を得ようと躍起になっている。

「Ideal Switchは、電力を分配するすべてのスイッチに取って代わるものです」と、Future Shapeの立場でラウンド主導したTony Fadell(トニー・ファデル)氏は語る。彼はスイッチについては良く知っている。彼はしばしば「iPodの父」と呼ばれ、Nestの創業者および前CEOでもあった人物だ。「単純な話です。Ideal Switchは、都市、ビル、家庭、電気自動車から照明器具に至るまでの電力供給に関する基本的な計算を変えてしまうのです。また、エネルギー効率に優れているため、コスト削減、長寿命、スマートな動作、気候変動の原因となる排出物の削減が期待できます。Menlo Microは、現代最大の既存技術破壊者の1つなのです」。

世界が電化に向かう中、大幅な効率向上を約束する技術は、大きなインパクトを与えることができる。同社は、そのインパクトをある例で説明している:天井ファンは全世界に10億台以上ある。既存のファンコントローラーをIdeal Switchに置き換えることで、約17基の発電所が不要になるほどの省エネが実現できるのだ。

「ご想像の通り、これは最も普遍的なデバイスです。速度、コスト、性能の面で桁違いの向上が可能なデバイスを手にしたときには、スケーリングが最大の課題となります。今後2〜3年で非常に大きな成長を見込んでいます」とガルシア氏は予測する。「最初の成長は、ワイヤレスが中心に行われました。これはもっとも手を出しやすい分野でしたが、スマートな電力管理や制御の分野では、はるかに多くの普及が見込まれます」。

Menlo Micro CEOのラス・ガルシア氏。画像クレジット:Menlo Microsystems

このデバイスは、他のコンポーネントを単純に置き換えるものではないので、回路基盤は再考され再設計されなければならないが、同社の創業者たちは、そもそもサイズが違うために、既存の技術のピン配置に合わせて置き換えることには意味がないと主張している。

「Ideal Switchは、ほとんどの場合、大幅に小型化されたデバイスとなります。20アンペア、240ボルトの電気機械式デバイス、あるいは半導体デバイスと比較しても、かなり大きな違いがあることがわかります。同じ機能を10×20mmのプラスチックパッケージに組み込むことができるのです」とガルシア氏は説明する。「当社の製品を古いパッケージに入れて、エンドユーザーが信頼性と性能を活用できるようにしているお客様もいらっしゃいます」。

Menlo Microsystemsが生産を拡大し、競合他社が参入してくる中で、同社のボトルネックが何になるのかは興味深いところだが、1つだけ確かなことがある。それは消費者(ひいては環境)が最大の勝者になる可能性が高いということだ。

画像クレジット:Menlo Microsystems

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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