KDDIが2014年3月にスタートしたインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo(KDDI無限ラボ)」の第6期プログラムが終了した。7月14日には第6期参加チームが東京・ヒカリエでプレゼンを実施し、最優秀チームにはブラウザー間でコンテンツ交換を行うP2P型コンテンツ配信プラットフォーム「MistCDN」を運営するMist Technogiesが選ばれた。第6期プログラムは一般に公表されていないサービスアイデアを持つ5チームが参加し、KDDIが「独自性」「市場性」「完成度」の観点で最優秀チームを選定した。
アクセスが集中するほどパフォーマンスが向上
MistCDNはユーザーのPCにコンテンツをキャッシュし、同じコンテンツを視聴するユーザーのPC間でコンテンツを交換するコンテンツデリバリネットワーク(CDN)。アクセスが集中するほど配信元となるPCが増え、転送速度が向上する仕組み。PC間の通信は、Web標準技術の「WebRTC」を採用している。MistCDNを導入するウェブサービス運営者は、コードを数行挿入するだけで利用できる。
アカマイに代表される従来のCDNは、アクセスが集中するほどサービス品質が低下する傾向にあるが、「MistCDNはアクセス集中を味方にするのが強み」とMist Technologiesの田中晋太郎氏は話す。逆に言えば、アクセスが集中していない状況は従来のCDNに分があるとも言える。田中氏によれば、従来のCDNをディスラプト(破壊)するのではなく、お互いの強みをウェブサービス運営者が使い分けられる環境を提供したいのだという。
現在はHTML5コンテンツ配信やライブストリーミング配信を行っていて、14日には無料トライアルキャンペーンを開始した。正式サービスの時期や料金は未定だが、コスト面では従来のCDNと比べて平均60〜80%削減できるとしている。
子どもの日常のベストシーンを集めた成長シネマを自動作成できる「filme」
14日に行われたプレゼンでは、来場者の投票により決定する 「オーディエンス賞」も発表され、スマホで撮影した動画を選んでコメントを添えるだけで動画日記が作れるアプリ「filme(フィルミー)」を開発するコトコトが選ばれた。日々の動画が20日分たまると、その期間の成長を振り返れる「成長シネマ」を自動的に作成できるのが特徴。成長シネマは独自の動画編集エンジンにより、子どもの表情や動き、声を自動検出し、日々の動画の中からベストシーンを集める。
動画の保存容量に制限がある無料プランに加え、容量無制限で成長シネマを毎月1枚無料でDVD化できる有料プランを用意する。コトコトの門松信吾氏は「動画版のフォトブックのポジションを目指す」と言い、将来的にはDVDの送付先となる祖父母をターゲットとしたシニア市場や、動画編集技術を転用することで旅行を含めた「思い出市場」も視野に入れているという。8月に正式サービス開始予定で、14日には事前登録を開始した。
第6期プログラムのチームはこのほか、ユーザー投票や審査に通過したクリエイターのみが出店できるハンドメイドジュエリーのECサイト「QuaQua(クアクア)」を運営するダックリングス、独自のクローラーと女子大生キュレーターによって厳選した女性向け媒体の記事を配信する「macaron(マカロン)」を手がけるSPWTECH、ネイティブアプリのユーザー行動を動画として記録して解析するツール「Repro(レプロ)」を開発するReproが参加した。
第7期はセブン&アイやテレビ朝日などのパートナー企業が支援
第7期プログラムは、7月14日より参加チームの募集を開始した。第7期の特徴は「パートナー連合プログラム」として、セブン&アイ・ホールディングスやテレビ朝日など13社が参加すること。これによってスタートアップは、セブン&アイに流通チャネルとの連携をサポートしてもらうことなどが可能となる。
KDDI ∞ Laboのラボ長を務める江幡智広氏は、「各社のアセットをスタートアップに提供して新規事業創出のきっかけが作れれば」と話す。KDDI ∞ LaboのようなCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は一般的に自社の事業との相乗効果を求めて運営されるが、江端氏は「すぐにシナジーは求めず、スタートアップの成長をひたすら願う」としている。
パートナー連合プログラムに参加する各社は、スタートアップとの協業を通じて新事業シーズの発掘、経営資源の活用やスピード感の不足を補うのが狙いだ。13社のうちセブン&アイ、テレビ朝日、三井物産、コクヨ、プラスの5社はメンタリング企業としてスタートアップをバックアップする。このほか、近畿日本ツーリスト、ソフトフロント、大日本印刷、東京急行電鉄、凸版印刷、パルコ、バンダイナムコゲームスがサポート企業として名を連ねている。
KDDIは14日、新たに約50億円規模の「KDDI新規事業育成2号ファンド」を設立することも発表している。