アジア版BuzzFeedを目指すウェブメディアMedialoadーー500 Startupsのファンドから20万ドル調達

カンボジアには現地版BuzzFeedのようなウェブサイトがあることをご存知だろうか?

これまで知らなかったとしても、もうそんなものが存在するということが分かりましたね!(ご承知の通り、私は読者の皆さんがカンボジアがどこにあるかなど、基本的な情報を知っている前提で話を進めていきます)

共産党や世界最大規模の大量虐殺も去ることながら、世界的に有名な寺院新鮮でスパイシーな食べ物知られているカンボジアで、過去6年間にわたってメディア業を営んでいるMedialodは、アジア版のBuzzFeedのような存在になろうとしている。現在母国のカンボジアと隣国のミャンマーでニュースサイトを運営している同社は、今後他のアジア諸国へも進出を考えている。

東南アジアに位置するカンボジアは、スタートアップハブとしてはそこまで名が通っていないが、Medialoadは驚くことに700万人以上のユニークユーザーと5600万回もの月間PVを記録している。ちなみにこれは現地語でさまざまなトピックのニュースを提供している2つのサイト、Khmerload(カンボジア語)とMyanmarload(ビルマ語)の数字を足したものだ。

新興市場での成長

数字的にも素晴らしい成績を残している両サイトの人気は、過去数年間の東南アジアを中心とした新興市場におけるインターネット人口の増加を物語っている。Googleが共著したレポートによれば、東南アジアのネット人口は現在の2億6000万人から2020年までに4億8000万人に増加するとされており、毎月380万人もの人々が新たにインターネットを利用し始める計算になる。さらに同レポートでは、東南アジアのオンラインメディア市場も年18%のスピードで成長し、2020年までに200億ドル規模になるとされている。

東南アジア全体の広告費に占めるデジタル広告の割合は現在5%にも満たず(地域によっては1%以下)、ビジネスの観点から同地域にはかなりの可能性があると言える。

一方で、先述のレポートは東南アジアの主要6カ国に関するもので、ここにカンボジアとミャンマーは含まれていない。つまり、かなりインターネットが普及しているにも関わらず、テック企業や投資家の視界にはまだこの2国がほとんど入っていないのだ。Facebook独自の調査によれば、カンボジアの人口5000万人に対してFacebookユーザーの数は500万人、そしてミャンンマーについては人口5000万人強に対して、1500万人もの人がFacebookを利用しているという。

Khmerload利用者の大半はモバイルデバイスから同サイトにアクセスしている

Medialoadが運営するウェブサイトは、広告収入を売上の柱としている。内容としてはエンターテイメントやセレブリティ、ライフスタイルと同社が目標にしているBuzzFeedが扱う内容に近いものの、東南アジアではどのメディアも繊細になっている政治的なトピックについては、彼らも創業当時から触れていない。

コンテンツの中心はテキストだが、現在同社は動画などのマルチメディアコンテンツの制作に力を入れている。同社の狙いは売上の増加だけでなく、コンテンツをバイラルヒットさせ利用者数を増やすことなのだとMedialoadの共同ファウンダーでCEOのVichet InはTechCrunchに語った。さらに彼らは今後インタビュー記事のほか、女性の人権問題やトーク番組で扱われるような題材を中心とした記事も増やしていく予定だという。

カンボジアのスタートアップ界を活性化

Medialoadは将来有望なメディアビジネスを立ち上げただけでなく、アメリカ資本のVCから初めて投資を受けたカンボジア企業でもある。500 Startupsは今年の3月に、東南アジア企業向けの5000万ドル規模のファンド「500 Durians」を通して、Medialoadに対して20万ドルを投資したと発表した。これは500 Startupsにとっても初めてのカンボジア企業に対する投資だった。この資金調達によりMedialoadの評価額は数百万ドルに達したといわれているが、同社も500 Startupsも具体的な金額は明言しなかった。

この動きでさえもComcast NBCUやSoftbank、Andreessen Horowitzらから4億4000万ドルを調達しているBuzzFeedを彷彿とさせるが、その一方で彼らの資金調達によって東南アジアの投資家もカンボジアに目を向けるようになったかもしれない。

「ミャンマーやカンボジアには、それほど投資対象としての興味を抱いていませんでしたが、両国のエコシステムは急激に成長しています」と500 Duriansでパートナーを務めるKhailee Ngは語った。

「Vichetは起業を目指す人たちのモデルになるでしょう」とNgは付け加える。「ミャンマーやカンボジアをはじめとする国々に拠点を置くスタートアップは、VCが体勢を整えるよりもずっと早く、投資を受け入れる準備を行っています」

アメリカの博士課程学生からカンボジアのメディア企業のファウンダーになるまで

500 Duriansによる投資は、誕生間もないカンボジアのスタートアップシーンにとって重要な出来事であると共に、経済学の博士号取得を諦め、アメリカを離れてMedialoadを立ち上げたInの選択が正しかったことを証明するような出来事でもあった。学生としてアメリカに計5年間住んでいた彼は、Mediaload設立以前も空いた時間にECや教科書の売買サービスといったオンラインビジネスに手を出していた。

そして兄弟のVichea、Visal(現在は2人はそれぞれMedialoadのCTOとCOOを務めている)と共に、VichetはMedialoadをミシガン大学に在学中の2011年にスタートさせた。その後Medialoadに可能性を感じた彼は、自分の情熱は勉学ではなくスタートアップに向いているということに気づき、母国に帰ってフルタイムでMedialoadを運営することを決意した。

左からVichea In(COO)、Vichet In(CEO)、Visal In(CTO)

Vichetは「当時周りの知り合いは私の決断にショックを受けていました」と言いながら、彼が博士課程に在籍していたことを両親が誇りにしていた様子について語った。Medialoadがカンボジア国内で有名になってからは「両親も理解し始めた」ようだ。

「カンボジアではどこでも私たちのコンテンツを見かけますからね」と彼は付け加える。

Inの話を聞いていると、Medialoadの裏側はサンフランシスコやロンドン、ニューヨークなど西欧の主要都市に拠点を置くメディアスタートアップと何ら変わりないことに驚く人もいるかもしれない。

現在は30人の社員が同社に在籍しており、うち11名がミャンマーでのビジネスに特化している。現在Medialoadは登記上シンガポールに拠点を移しており、ストックオプション制度の整備に取り掛かっていると彼は話していたが、既に従業員には基本給に加えて成果に応じたボーナスが与えられている。

この話を聞くと、社員はトラフィック重視のプレッシャーに晒されているのではないかと勘ぐってしまうが、 InによればMedialoadのライターはCEOである彼の長期的なビジョンに共感しているため、離職率は極めて低いという。その証拠に企業としての規模は大きくなりつつも、ライターの3分の1がMedialoadに4年以上勤めている。

Facebookへの依存

他のウェブメディア同様、MedialoadにとってFacebookは大切な流通チャンネルのひとつだが、彼らのFacebookへの依存度は他のメディアと比べても桁違いだ。特にミャンマー向けのサイトに関しては、トラフィックの約90%がFacebookのInstant Articles上で発生しているという。つまり読者のほとんどが、Facebookから離れて彼らのウェブサイトを訪れることなくMedialoadのコンテンツを消費しているのだ。

「(ミャンマーの人にとっては)Facebookがインターネットそのもので、コンテンツの消費場所としてもFacebookが主要なポジションを占めています。モバイル通信の費用がかかることから、彼らはリンクをクリックすることもないので、私たちはFacebook Instant Articlesを使っているんです」とInは話す。

さらに彼はInstant Artciles経由でもMedialoadは「それなりに売上をあげられる」と話しているが、やはり同社のウェブサイトへの訪問者の方がお金になると認めている。同社は今後動画コンテンツを増やし、バイラル化を狙ったソーシャルメディア専用のコンテンツも制作し始める予定だが、InもFacebookのようなひとつのプラットフォームに依存している状態は好ましくないと語った(これも西欧のウェブメディアと比較したときにMedialoadが感じるフラストレーションのひとつである)。

「この状況に不安を感じ、ユーザーがMedialoadを直接訪れるよう、自分たちのウェブサイトに先にコンテンツをアップするようにしていますが、これもバランスの問題です。重要なトラフィック源であるFacebookを完全に断ち切ることはできませんからね」とInは説明する。

Facebookは特にミャンマーのメディア事業にとって重要なチャンネルだ

とは言いつつも、Facebook上でのMedialoadのプレゼンスは継続的に向上している。カンボジア向けのKhmerloadは310万人のファン(カンボジアのFacebookユーザーの半分以上)を抱え、Myanmarloadに関してはその数が510万人(ミャンマーのFacebookユーザー数の約3分の1)に登る。

「私たちの目標は、Facebookのフォロワー数でBuzzFeedを上回ることです」とInは冗談めかして語った。

BuzzFeedのフォロワー数が1000万人であることを考えると、Medialoadが新たにもう数カ国へ進出すれば、この目標も非現実的ではない。しかしFacebook上のファン数とトラフィックはまた別の話だ。

拡大計画

他のメディアと同じように、Medialoadもコンテンツをさまざまな経路で読者に届けるため、新しいチャンネルや媒体の開拓に注力している。既に彼らはLineのオフィシャルアカウントやFacebookのチャットボットを活用しているが、Inはトラフィック増加に向けてユーザーが特定の有名人に関する情報を追えるようなアプリの開発も検討していると言う。

さらに彼は、現在サイトを運営している2国以外の東南アジアの国々への進出も視野に入れているが、進出先の検討はかなり慎重に行っているようだ。

「英語コンテンツを提供するメディアの数はかなりありますが、現地語コンテンツは過小評価されていると考えています」とInは説明する。「私たちは東南・南アジアでも特にFacebookが盛んに利用されている国をターゲットとして想定しています。というのも、現在のビジネスモデルは他国でも応用できると考えているからです」

既にインドネシアではパイロット版のサイトを立ち上げ、Facebookのフォロワー数は40万人を超えているが、Inは現地メディアのトップ5に入るためには、かなりの投資が必要になるだろうと考えている。ベトナムも次なる進出先候補に挙がっており、彼はソーシャルメディアに注力するというMedialoadのプランがベトナムでうまく行くと信じている。

Inによれば、Medialoadの今年の広告収益目標は100万ドルとのことだが、細かな内訳については明らかにされなかった。一方でMedialoadは設立当初からほぼ一貫して黒字だと言う。

しかし自己資金での運営からベンチャー投資を受ける段階に移行する他のスタートアップのように、Medialoadは短期的な利益率よりも企業としての成長に重きを置いている。現時点のプランとしては、特に動画周りの新たなコンテンツの制作や、新市場への進出のために次のラウンドで200万ドル前後の資金を調達しようとしているとInは語る。

さらに彼は意図的に500 DruiansのKhailee Ngからの投資を狙っていたと話す。というのも、Ngはベンチャーキャピタリストになる前に、マレーシア語のコミュニティメディアSays.comを設立・エグジットさせており、Inは現在計画している次のラウンドにはNgのような投資家に参加してもらいたいと考えているのだ。しかし言うは易く行うは難しだ。また、ドイツのBurda(シリーズBなどのレータースタージ投資にフォーカスしている)以外にもメディアに特化したファンドは東南アジアにいくつか存在するが、500 Startupsを株主に迎えたことは、コネクション作りや将来の可能性を広げる上で間違いなくMedialoadにとってプラスになるだろう。

Ng自身も今回の投資によって、あまり名前のあがることのない東南アジアの国々に眠っている可能性に気づいたと話す。

「Medialoadは、さまざまな意味で東南アジアがまだ”夜明け”の段階にあることを象徴していて、この地域では常にさまざまな分野で何かが起きようとしています」とNgは語る。「東南アジアは今後も成長を続け、色んなチャンスが生まれてくると思っていますし、私たちも一端を担えればと考えています」

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。