音楽配信サービスが一般に広がり、SpotifyやYouTube、Apple Musicなど、楽曲の流通チャンネルも増えてきたが、アーティストへの支払いプロセスにはまだ問題が残っている。
同じ曲に複数人のアーティストが関わっていると状況はさらに複雑化し、それぞれのプラットフォームでの収益から、誰にいくら支払うべきなのかというのがわかりづらくなってしまう。さらにアーティストは収入が予測しづらいという問題を抱えており、Milana RabkinをはじめとするStemの共同ファウンダーはそこに商機を見出した。そして同社は、アーティスト向け収益管理プラットフォームの更なる改善を目指し、この度Evolution MediaとAspect Venturesが中心となったラウンドで800万ドルを調達した。今回のラウンドには、他にも複数の戦略的投資家と既存株主のUpfront Venturesが参加していた。
Stemでは、各音楽配信サービスからの収益がエスクロー口座のようなものに一旦集められるようになっている。その後、事前に決められた割合に応じて、それぞれのアーティストに収益が分配される。Rabkinによれば、ある楽曲の制作に関わった全てのアーティストや共同制作者は、予めそれぞれが受け取る収益の割合に合意しなければならない。その後楽曲がアップロードされ、代表となるアーティストがそれぞれの分け前をプラットフォーム上で設定すると、従来のプロセスよりもかなり速く支払いが行われる。作品の公開後、だいたい30〜60日程度で収益データを確認できるようになるとRabkinは話す。
「これまでに誕生したフィンテック関連のツールは、小規模事業者のビジネスを支えるようなものばかりでした」とRabkinは語る。「アーティストやクリエイターも彼らと何ら変わりないはずなのですが、クリエイティブな人たちのニーズに合ったツールはこれまで存在しませんでした。IntuitはMintで小規模事業者の手助けをしていますが、収入が不安定で収益源の追跡が難しいアーティストの状況は彼らとは違うのです。Mintのアカウントに銀行口座を紐付けるだけであれば簡単なことですが、iTunesやYouTube、Spotifyといったサービスとの連携となると話は別です」
Stemが取り組もうとしている別の問題が、発表したコンテンツから収益をあげられない可能性のある共同制作者への支払いの徹底だ。業界経験の少ない人たちをはじめに、アーティストの中には純粋に販促やマーケティングの目的でコンテンツを公開する人たちもいるのだ。彼らがツアー資金を貯めるので手一杯にならなくてもいいように、Stemは新人アーティストも最初から収益を得られるような仕組みを構築しようとしているのだとRabkinは言う。
それぞれのプラットフォームからStemが収集するデータ自体に価値を見出す人もいるかもしれない。アーティストであれば、当該データからファンの情報を調べ、ターゲットの好みにあった楽曲制作に取り組むことができる。ツアーの計画や他のマーケティング施策に役立つ情報が得られる可能性もある。しかし、ここに収益関連の情報が加わることで、これまでよりもハッキリとファンのエンゲージメント度合いを掴めるようになるだろう。
「サプライチェーンと深く関係しているロイヤルティーの問題は、音楽業界の中でもなかなか解決の目処が立っていませんでした」とRabkinは話す。「しかし、新たなフレームワークや関係データベース内のデータを正規化するための素晴らしいツールが最近誕生しました。そのおかげで、昔は不可能だった方法で支払いに関する情報を簡単に追跡できるようになったのです」
また、Stemはアーティストへの支払いを管理するためにデータやお金を一か所に集めているだけなので、音楽配信サービスとは競合しないと彼女は言う。今のところは同社がこの収集プロセスを担当しているが、今回調達した資金を使って、Stemは既存のツールを音楽配信サービスの運営企業が使えるような形に変えていこうとしている。
そうは言っても、この業界でも今後競争の激化が予想されている。Kobaltも先月、7億7500万ドルの評価額で7500万ドルを調達したばかりだ。さらに、iTunesやSpotifyといったサービスが将来的にアーティスト向けのツールを簡略化することで、Stemのようなサービスがなくても各アーティストにきちんと支払いが行われるようになるかもしれない。しかし、シームレスなツールを構築することで、Frank OceanやChildish Gambino、DJ Jazzy Jeff、Anna Wise、Chromatics、Poolsideなど、さまざまなアーティストを顧客に迎えられることをRabkinは祈っている。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)