一度は決着を見たはずのアップルとサムスンの特許侵害訴訟がカリフォルニア州サンノゼの地方裁判所に差し戻され、再審理が始まりました。2011年に訴訟が提起されて以来、実に8年目の争いとなります。
すでに「サムスンがアップルの特許を侵害している」という事実そのものは決着済みではあるものの、その後サムスンが支払う賠償額をめぐって訴訟は続いており、今回の審理も「いくら払うのが妥当か」に焦点が絞られています。
両社の訴訟合戦は、2011年にアップルがサムスンのGalaxyシリーズにつき提訴したことが始まり。2012年8月にはサムスンに約10億5千万ドルの支払いを命じる判決が下されたのち、2015年12月にサムスンは5億4800万ドルを支払うことで合意に達しました。
しかし、サムスンはそのうち3億9900万ドルについては不当の訴えを提起。2016年12月に米最高裁判所は以前の判決が不公平であったと判断して地裁に差し戻しを命じ、さらに2017年10月に地裁はアップルとサムスンに対して、再審の日程を提案するよう求めていました。
議論の焦点となっているのは3件のデザイン特許と、2件の実用特許。前者はiPhoneの丸みを帯びた角など外見に関わるもので、後者はページの最下部までスクロールしたときの跳ね返る演出(ラバーバンド効果)や「タッチしてズーム」する機能を指しています。
冒頭陳述では、同社デザインチームのシニアディレクターであり「ジョナサン・アイブの次に偉い人」であるリチャード・ハワース氏が初代iPhoneを設計するまでに、何百ものプロトタイプをボツにしたことを振り返り。八角形のベゼルや左右の端だけに丸みがあるものや、正面から大きな正方形に見えるものもあったとか。
ハワース氏は、アップルの設計がスケッチや模型から始まり、3Dモデルのプロトタイプに移行する……といった過程とともに「我々は顧客に届くまでに製品を導くから、自分達の考えをそのまま伝えられるのです」と述べています。
アップルの調達担当バイスプレジデントのトニー・ブレビンズ氏も、アップルの設計哲学について陳述。他社が最高の部品を見つけて製品に組み立てる「ビルディングブロック哲学」を用いているのに対して、同社は設計が先にありきで正反対であると語り、自身がiPhoneの振動モーターを縮小するために工場で2週間半を過ごした経験を振り返っています。
さらにブレビンズ氏は、サムスン製品に対するいらだちを感情的な言葉で説明。
「私達の小グループは、何年もこの製品に飽き飽きしていました。家族の時間を犠牲にし、誕生日に間に合わなかったこともある。特許を申請し、正しい手順を踏んで、労働の成果を楽しむことができたんです」
ところがサムスンの携帯電話が届けられると「あらゆる否定的な感情が湧き上がりました」としています。
総じてアップル側が「デザイン特許は製品全体に及ぶ」(だからアップルの損害額=サムスン製品の売上額)に対してサムスン側が「デザインは製品の構成要素の一つにすぎない」(よって賠償額も限定的)とする、これまでの主張が繰り返されたかたち。
アップル側が感情的でエモい表現を持ち出してきたのが興味深いところですが、それもアメリカでの法廷闘争戦術の一つかもしれません。両社の泥仕合はしばらく続く見込みですが、訴訟の中で両社のスマホ哲学が今後も語られるといった見どころはありそうです。
Engadget 日本版からの転載。