テスラのオートパイロットはトランプの関税で窮地に

ホワイトハウスは、Tesla(テスラ)のAutopilot(オートパイロット)テクノロジーの脳を、報復輸入関税の対象外とすることを却下した。この決定はTeslaの自動運転という野望を遅らせたり、中断させたりすることになるかもしれない。

先週開かれた「オートノミー・デイ」の特別イベントで、TeslaのCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏は、全新車両での完全自動運転を可能にする新しいカスタムチップを含む、高度なAutopilot 3.0ハードウェアを発表した。このハードウェアはいま、新しいTesla Model 3、S、Xの車両に標準装備されている。FSDと呼ばれるソフトウェアにアップグレードするのに客は追加で6000ドル払う。

自動運転のハードウェアは、Teslaが車両の脳と表現するモジュールのAutopilot ECU(Engine Control Unit)内に搭載されている。このモジュールは中国・上海でQuanta Computer(クアンタ・コンピュータ)という企業によって組み立てられている。

Teslaの計画は、関税25%の免除はしないというホワイトハウスの先月の未公表の決定により影響を受ける可能性がある。トランプ大統領は昨年、対中国の貿易赤字を減らそうと、エレクトロニクスを含む中国からの幅広い輸入品にこうした関税を課した。

Teslaは、この関税により中国での自動運転コンピューター製造中止を余儀なくされることになるかもしれず、ひいては自動運転の導入の遅れや車両の安全低下につながるかもしれないと示唆していた。

「関税により、我々は新たなサプライヤーを探すか、コスト増を客に負担してもらうか、内部の運営コストを減らすかを模索せざるを得なくなり、これは関税の意図するところとはまったく逆の影響を及ぼすことになる」と、11月16日付の通商代表部(USTR)への関税対象外を求める請願書に書いている。

しかし3月15日、USTRの法務部長はTeslaに対し、「プロダクト戦略の重要性、または『中国製造2025』への関連、他の中国産業プログラムを懸念しているため」同社の要望を却下することを伝えた。USTRはまた、同じ理由でAutopilot2.5ハードウェアについてのさかのぼっての関税除外の請願も却下した。

メードインチャイナ

「中国製造2025」は、単なる製造からAIや電気自動車、ロボティクスなど付加価値の高いものの生産へ移行するための中国の戦略プランだ。ホワイトハウスはこうした計画は米国内のテクノロジーや自動車メーカーにとって直接脅威となるとみている。

しかしながら、米国の企業は中国の製造ノウハウの恩恵を長い間多く受けてきた。Teslaの上海におけるAutopilot製造パートナーのQuantaはAppleやAmazon、Verizonの仕事も請け負ってきた。

「Teslaは、設計書を要するAutopilot ECU 3.0を希望通りのボリュームで、そしてTeslaの継続的な成長のために必要なタイムラインで製造するノウハウを持ったメーカーを見つけることはできなかった」と同社は書いている。

Quantaの使用は、中国国内のEVの80%が2025年までに中国企業によって生産されるようになるという目標を達成するのを手伝うことにはならない、とTeslaは主張している。「逆に、もし関税除外が認められればTeslaはEV製造でテクノロジー上そして競争上のアドバンテージを維持することができる」とも書いている。

Teslaはまた、新しいコンピューターのプリントされたサーキットボードの75%以上は実際には中国外からのものだ、とも指摘した。たとえば、Autopilot 3.0に不可欠なTeslaの最先端ニュートラルネットワークチップはテキサス州オースティンでサムスンが製造したものだ。

関税効果

しかしホワイトハウスはそうした主張を認めなかった。そしてUSTRの却下はTeslaにとってかなり打撃となる。Teslaはすでに投資家に対し、最も低価格のModel 3バリエーションを含む同社製造の車の粗利益目標達成を保証できない、と伝えている。

「関税は、非常に難しい業界における我々の継続的な成長や持続可能性にマイナスに働く」とTeslaは書いている。

先週、Teslaは2019年第1四半期決算で、納車台数が予想を下回ったために7億200万ドルの赤字を計上した。そして、借り入れと株式により27億ドルを調達する考えを発表した。当局に提出した書類によると、Teslaはもともとは転換社債と株式で23億ドルを調達すると言っていて、そのわずか1日後にトータル額を上方修正した。

Teslaはゴールドマン・サックスとシティグループが引受先となって310万株を1株あたり243ドルで販売していて、書類によると、転換社債の発行を16億ドル拡大した。マスク氏はまた自身の出資額を2倍にし、2500万ドル相当の最大10万2880株を購入する意向だ。

価格の上昇やコストの抑制には限界があることから、Teslaの他の選択肢は製造拠点を米国にもってくる、ということになるかもしれない。しかしTeslaによると、それは困難を伴う。

「新しいAutopilotコンピューターの生産を開始するというTeslaの決定は、開発から生産まで6カ月しか要しなかった」と請願に書いている。「このようにタイムラインは密であり、それなりの経験を持たないサプライヤーを試す余地はない。他のサプライヤーを選ぶということは、クリーンルームの設定や生産ラインの確認、スタッフのトレーニングなどで18カ月もこのプログラムを遅らせることになる」。

安全上の懸念

さらに深刻なことに、Teslaはそうしたサプライヤーの変更は安全面にもかかわってくるとしている。「新たなサプライヤーに生産を任せることは、車両や最終プロダクトの安全性に影響を与えるかもしれない質の問題につながるリスクを増大させる。我々はサプライヤーの変更で顧客の命を危険にさらすことはできない」。

Teslaが進めている人工知能や機械学習、コンピュータービジョンの研究を関税がダメにしてしまうこともTeslaは恐れている。

「Teslaの業界をリードする立場は、こうした先進的なものや部品をそれなりの規模で展開する能力が条件となり、現在の関税下ではリードすることができない」と請願書で述べている。マスク氏は昨日、オートノミーによりTeslaはゆくゆくは現在の評価額の10倍超の5兆ドル企業になるだろうと投資家に対し述べた。

USTRに対しては強い口調であるにもかかわらず、Teslaは決算への影響にフォーカスした投資家向けの書類で、関税について以下のように述べている。中国で入手している我々のプロダクトで使われている特定の部品への最近引き上げられた輸入関税はコストの増大につながり、営業成績にマイナスの影響を及ぼすかもしれない」。

この件についてTeslaはコメントを拒否している。

Greg Linden(グレッグ・リンデン)氏は、エレクトロニクス向けのグローバルサプライチェーンを専門とするカリフォルニア大学バークレー校のエコノミストだ。「スピードとボリュームからすれば、中国しかない」とTechCrunchとの最近のインタビューで語った。「米国企業は約25年前に基盤組み立てのために中国に向かった。部品サプライヤーがそれに続き、今や中国は他の国が取って代わることができないほどにエレクトロニクスを大量に生産する地位にある」と述べている。

同氏は、iPhoneが米国で組み立てられると1台あたりのコストは40ドル増えるかもしれないと算出し、Autopilot 3.0ハードウェアの米国での生産は同程度のコスト増となると見込む。

免除申請へのためらい

Teslaはそのほかにも、まだ対応が示されていないいくつかの米政府への関税免除の請願を抱えている。メディアコントロールユニット、接続ボード、高度なドライバーアシスタンスシステムを含むModel 3の車コンピューター免除の請願は12月末に提出された。直近ではTeslaは先週、ネバダ州スパークスにある同社のギガファクトリーでのリチウムイオンバッテリーの製造に必要な日本から輸入する特殊アルミ板についても関税の免除を求めている。

しかし、貿易に関するニュースがマスク氏にとってすべて悪いものというわけではない。ボーイング社は中国で製造されたトンネル掘削機に関する関税の免除を求めた。同社は、中国からのトンネル掘削機パーツを調達できなければ、同社が提案しているボルチモアとワシントンD.C.を結ぶ地下Loop交通システム構築に最大2年の遅れが生じると主張した。

3月19日、USTRはトンネル掘削機の輸入について遡求しての関税免除を認めた。

皮肉にも、ボルチモアとワシントンD.C.間のLoopで使用される見込みの自動運転電気車両はTesla車両がベースになっていて、このTesla車両は少なくとも当面は中国で製造される新しいAutopilotシステムに頼ることが見込まれている。

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。