ブロックチェーンの分散型世界に物理的なオブジェクトを接続するというアイデアを模索しているハードウェア開発者なら、Elk(エルク)に注目すべきだろう。これは、ブロックチェーンを利用するあらゆるIoTプロジェクトに対応した、現在はまだ開発段階にある開発ボードだ。
たとえばこれを使えば、自分の家に出入りできる能力が遠く離れた大手企業のサーバーの稼働時間(と認証)に左右されたり、第三者の企業に出入りの記録をとられることなく、ドアの錠前に接続できる。
また、お勧めの別の例としては、起床せずにスヌーズボタンを何度も押すとビットコインで支払いが請求される目覚まし時計とか。これは痛い。
Elkの開発チームは、プロトタイプを製品化するため、Kickstarterキャンペーンでクラウドファンディングを開始したばかりだ。来年の春に開発者向けの出荷を目指している。
彼らの目標は2万ドル(約217万円)と控えめだ。早い時期にプレッジした人は59ドルで手に入るが、スヌーズボタンを押してしまってタイミングを逃した人でも、あと10ドル追加すれば手に入る。
私たちは昨年にもElkを紹介している。当時はまだ開発初期の段階で、Elkremと呼ばれていた。
そのときは、彼らは昨年末までに出荷したいと考えていた。しかし、クラウドファンディングの準備が整うまでの時間が、いくつかの難題に遭遇したことにより予想よりも長くなってしまった。
これが、彼らの最初のハードウェア製品ではないことを言っておくべきだろう。2013年に開催されたTechCrunch Disrupt Europeでは、彼らはスタートアップ展示場からオーディエンス推薦により引き抜かれ、スタートアップバトルフィールドに参加して大きな注目を浴びた。そこで彼らは、スマートフォンのセンサーをArduinoのシールドとして利用できるようにするアイデアの売り込みを行った。
その後、彼らはクラウドファンディングによって「1 Sheeld」を製品化した。これは今でも販売されている。
通常のハードウェアのクラウドファンディングほど、警戒しなくても済みそうだ(もっとも、プロトタイプの出荷時期に関する宣伝文句は、遅れるものと思って聞いておくのが賢明だ)。
その製品の狙いと願望について、ElkのCEOで共同創設者のアムア・サラー氏に聞いてみた。
TC:Elkとは何ですか? 何に使うものですか?
サリー:Elkは、ブロックチェーンと分散型ウェブに対応したハードウェア開発ボードです。Arduinoをシンプルにしたものに、分散型ネットワークのネイティブな対応機能を組み合わせました。ほんの数行のコードを書くだけで、イーサリアム、IPFS、ウィスパーなど数多くのものを利用できるIoTが構築できるようになります!
Elkは、私たちが「Decent IoT」(ディーセントIoT、良識あるIoT)と呼んでいるものの開発を促します。ディーセントIoTとは、分散型で、本当の支配権と本当のプライバシーを私たちに与えるもので、支払い、オラクル、個人情報の販売などといった、まったく新しい使用事例を可能にします。
Elkを使えば、デバイスの使用を監視したり制御したりするクライドプロバイダーに依存することなく、玄関の鍵を遠く離れた場所から操作できるスマートロックが作れます。また、イーサリアムで借りられるチャージングステーションやランニングマシンにお金を入れてロックし、運動を終わらせなければお金を取り戻せないなど装置ものも作れます。可能性は無限代です。
TC:ブロックチェーンIoTデバイスを作るのに、専用のハードウェアがなぜ必要なのですか?このハードウエアの利点は、ライバルの製品、例えばRaspberry Piを使った場合と比較してどこにありますか?
サリー:ブロックチェーンIoTデバイスは、Raspberry Piを使っても、もちろん作れます。Elkを使う利点は、ハードウエアの面から言うと、マイクロコントローラーとマイクロプロセッサーが一体になっているところです。Wi-Fiモジュールと、専用OSをプリインストールした固定記憶領域の両方を備え、ブレッドボードにも対応しています。これにより、Arduinoにプログラムをするときと同じような、プラグ&プレイの開発が行えます。
Raspberry Piを使う場合と違うのは、Elkではウォレットとキーの管理や、ノードの設定で苦労したり、内蔵デバイスをうまく動かすために変数を調整したり、クラッシュに対処したりといったことが不要になることです。私たちは、10倍簡単なArduino感覚のブロックチェーンIoTの開発を提供します。Arduinoが対応しているライブラリもすべて使えます。開発者は、オーバーヘッドを気にせず、アプリケーション開発だけに集中できるのです。
TC:Elkは誰のためのものですか?ブロックチェーン・ハードウェアのコミュニティは、現在どれくらいの規模でしょうか?これから数年で、どれくらい大きくなると考えていますか?
サリー:現在、ブロックチェーンハードウェアの開発はまだ限定的で、ブロックチェーン愛好家のためのハードウェアウォレットの構築程度に留まっています。
私たちは、ブロックチェーンと分散型ネットワークは、もっとずっと大きく広がると信じています。Elkは、ブロックチェーンマニアだけのものではありません。プライバシー意識の高いメイカーのためのものでもあります。分散型ネットワークは、IoTをずっとプライベートで、安全で、便利なものにしてくれます。私たちはそれをディーセントIoTと呼んでいます。それはまさに、私たちがElkによって広めたいと思っているものです。
現在のIoTアーキテクチャは、通信とデータ保存に関しては中央集権的なクラウドプロバイダーに依存しています。ということはつまり、クラウド・プロバイダー(とそれをハックするすべての人間)は、私たちのデバイスをコントロールでき、私たちのアクセスを拒絶し、私たちの私生活を覗くこともできてしまうということです。
新しい分散型ウェブは、IoTのまったく新しいパラダイムを実現します。私たちの通信を取り仕切る中央の権威を介さずに、分散型ネットワークの中でプライベートに通信ができるパラダイムです。第三者が私たちのデバイスの使用状況を記録したり、私たちのデバイスを操ることもありません。加えてこれは、支払い、オラクル、個人データの販売といった新しい可能性も切り拓きます。
Elkは、たった数行のコードを書くだけで簡単にディーセントIoTを構築できるツールとユーザー・インターフェイスを提供します。これがやがては、ハードウェアコミュニティでの分散型ネットワークの拡散につながればよいと期待しています。
TC:Kickstarterのローンチが遅れたのはなぜですか? Elkのプロトタイピングで遭遇した困難について、また出荷日を守る自信のほどを聞かせてください。
サリー:ブロックチェーンと分散型ネットワークは、芽生えたばかりの分野です。Elkの安定したプラグ・アンド・プレイ体験を確実なものにすることが、本当に難関でした。
もうひとつ、私たちが遭遇した大きな難関は、Elkに搭載する機能の適切なバランスをとることでした。たとえば、当初私たちは、Elkを安全なハードウェアの飛び地にすることがもっとも重要だと考え、それに即したプロトタイプの開発に数カ月を費やしました。その後、ハードウェアのセキュリティーを緩和して、安定性と開発のしやすさを重視することに決めました。ディーセントIoTの開発のしやすさは、セキュリティーをさらに強化するよりも、ずっと大切だと私たちは考えています。
現時点で、私たちはこのハードウェアに関して、4回の個別の練り直しを行い、賢明に努力した結果、自信を持って製品をお届けできるまでになりました。特別なこともなく生産に移行できるはずです。私たちは、すでにハードウェアの製造過程を経験しています。前回のKickstarterでは、予定どおりバッカーたちに出荷できましたし、その翌年には、数万ユニットの製品を販売できました。
TC:ビジネスモデルはどのようなものですか? ハードウェアの開発だけでなく、SDKの配布やサポートで儲けるつもりはありますか?
サリー:今、私たちは、ElkをブロックチェーンIoTデバイス開発の標準にすることに集中しています。このキャンペーンが終わったら、より厳格なハードウェアの条件やサポートが要求される使用事例に着手する予定です。
[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)