クラウド受付システムのRECEPTIONISTがオプト、Salesforceから数億円規模の資金調達

写真左からオプトベンチャーズ パートナー 日野太樹氏、RECEPTIONIST代表取締役CEO 橋本真里子氏、セールスフォース・ベンチャーズ日本代表 浅田慎二氏、セールスフォース・ベンチャーズ パートナー 浅田賢氏

クラウド受付システム「RECEPTIONIST(レセプショニスト)」を提供するRECEPTIONIST(旧社名:ディライテッド)は3月13日、オプトベンチャーズとセールスフォース・ドットコムの投資部門Salesforce Venturesを引受先とした資金調達実施を発表した。金額は非公開だが、関係者の話によれば、総額で数億円規模と見られる。

2500社以上へ導入、大企業向け機能も追加されたRECEPTIONIST

RECEPTIONISTは、従来の内線電話による来客対応を自動化する、オフィス受付のためのクラウドサービスだ。受付に置いたiPadから来訪者があらかじめ発行されたコードを入力、または担当者の名前で受付を行うと、担当者にはSlackやChatworkといったビジネスチャットや、アプリなどで直接通知が送られる。

電話の取次や、担当者が離席していた場合の「○○さん今どこにいる?」といった捜索なども不要になるほか、来客情報がデータ化されて残るため、管理や分析のための転記や、来訪者の手を煩わせて来客票を書かせる手間もなくなる。

また2018年12月に搭載した新機能「調整アポ」を利用することで、来客受付だけでなく、日程調整の工程も約8割減らすことが可能となった。Google カレンダー、Outlook カレンダーと連携した調整アポにより、関係者・会議室の空き日時を仮押さえすると、来訪者にはURLが通知される。来訪者が、リンク先の候補から都合の良い日時を選択すると予定が確定し、それ以外の仮予定は自動でキャンセル。予定確定後、来訪者には受付コードが自動で送られ、受付時の名前や社名の入力も不要だ。

このため、「ご都合の良い日時候補をいくつかいただけますか?」から始まる来訪者・関係者のスケジュール調整、会議室仮押さえや、日程が決まってから仮押さえした会議室を開放する、といった細かい作業のほとんどを省くことができる。

RECEPTIONIST誕生のきっかけは、TechCrunch Tokyo 2015で開催されたハッカソン。このとき開発された「キタヨン」というオフィス受付のiPadアプリをベースに、譲渡を受けたRECEPTIONIST(当時の社名はディライテッド)が追加開発を行い、2017年1月にサービス提供を開始した。同年秋に開催されたTechCrunch Tokyo 2017スタートアップバトルでは、東急電鉄賞を獲得している。

2020年1月にサービス開始3周年を迎えたRECEPTIONISTは現在、2500社以上に導入されるようになっている。RECEPTIONIST代表取締役CEOの橋本真里子氏は「顧客に大手企業が増えており、そこはプロダクトの機能強化の際にも意識している」と話している。

例えば、大手企業向けに提供されているプレミアムプランでは、AD(Active Directory)連携により社員の一括登録・更新・削除が可能。グループ会社で共通の受付を可能とするホールディングス機能も搭載されている。

また拠点を複数持つような、中規模以上の企業を対象にしたエンタープライズプランでも、拠点をまたいだアポイント、会議室予約が行えるような機能や、逆に別の拠点の社員を間違えて呼ばないように、参加者を管理できる機能などを搭載。

以前はアポイントごとに発行していた受付コードも、来客ごとに発行できるようにアップデートされた。これはプロジェクトなどに外部から参加する人がいる場合、1つのミーティングでも先に帰る人や途中から参加する人がいることも多いことを受けての改良だ。

「昨年からスタートアップやIT系企業だけでなく、枠を飛び越えた利用の広がりを感じている」と橋本氏。中には、当初は「やはり内線の受付にする」と導入を見送られた企業から、1〜2年経ってからもう一度、利用を検討するとコンタクトがあったケースもあるという。

橋本氏は、スマートフォンの普及がさらに進むなどして「プライベートでもビジネスでも、(ツールやアプリ利用において)取り巻く環境が変化したのではないか」と分析する。企業の経営陣や決裁権を持つ人から「そろそろうちも受付をiPadにした方がいいのでは」との声が、導入担当者にかかることも増えているらしい。

当初のRECEPTIONISTには、オフィスを構えたばかりのスタートアップに取材で訪問すると、必ずと言っていいほど導入されているような印象があった。小規模で受付に割く人手がもったいないと考える、先進的な企業が積極的に取り入れているというイメージだ。しかし今では、有人の受付と併用するような大手企業も現れているそうだ。

「RECEPTIONISTは受付の人をリプレースするものではなく、人がやらなくてもよい取次や、来客情報のデータを残すといった部分を担当するもの。それ以外の人にしかできない案内などは、今まで通り人がやることで、ホスピタリティーを発揮できる。だから管理画面でも、受付の人が気づいたトピックを共有するために入力できるような項目を用意するなど、工夫している」(橋本氏)

2月にオフィスを移転、3月1日に社名をプロダクト名に合わせる形で変更したRECEPTIONIST。橋本氏は「ほかの領域でプロダクトを開発する可能性もあったので、社名はディライテッドとしていたが、RECEPTIONISTの認知が広がり、現プロダクトと大きくかけ離れたプロダクトは出さないことも確実になってきた。それに何より、インサイドセールスのメンバーが、電話口でプロダクト名と社名を両方名乗っているのが大変そうで、『これは早く変えなければ』と思って」と社名変更について語る。

オフィス移転に伴い、元受付嬢である橋本氏の起業の原点でもある受付カウンターをシンボルとして設置したという。

iPad受付システムの市場を広げ、シェア獲得目指す

RECEPTIONISTは、2017年5月に大和企業投資やツネイシキャピタルパートナーズ、個人投資家から数千万円規模、2018年3月に大和企業投資、ツネイシキャピタルパートナーズなどから約1.2億円、2019年2月にSalesforce Venturesから1億円超の資金調達を発表しており、今回の調達はこれらに続くものとなる。調達資金は、マーケティングおよびプロダクトの開発強化、人材採用に投資していくと橋本氏は説明している。

本ラウンドのリード投資家であるオプトベンチャーズのパートナー・日野太樹氏は「労働人口が減少し、生産性向上が必須とされる中で、RECEPTIONISTはこれらの大きな社会課題を解決するプロダクトとしてシンプルで、取り組みやすい領域にある」と語る。

「IT系以外の大手企業にも浸透するだろうと分析していて、これからの時代に必ず広がるサービスだと感じた。また大手だけではなく、中小規模の古い企業にとっても、業務改善のためにIT化を進めようという文脈に乗っているサービスではないだろうか」と言う日野氏。「自分も受付からの電話を受けるのは面倒に感じるし、ペインが分かりやすい。橋本氏の経営者としての力、メンバーへのリスペクトの強さも見ており、大きくなる企業だと感じている」と述べている。

Salesforce Venturesにとっては、本ラウンドは前回に続く追加投資となる。セールスフォース・ドットコム常務執行役員でセールスフォース・ベンチャーズ日本代表の浅田慎二氏は「(事業計画を)実行してきて、数字も上がっていることを見ての追加投資。(Salesforceとのサービス連携など)いろいろな構想はあるが、まずは受付システムのマーケットシェアを取ることに集中しようと橋本氏とも話している」と話す。

北米では、エンタープライズ向け来客管理システムを提供するカナダのTraction Guestにも投資実績があるSalesforce Ventures。浅田氏は「大手企業の引き合いも増えると思うが、そうなると、いずれセキュリティなどの既存システムとの接続を求められるようになるはず。今のところは、事業が伸びていて、人材をプロダクトに集中しなければならないスタートアップで(単体で)展開し、市場シェアを拡大するのは重要」と話している。

橋本氏は「iPad受付システムが世の中に受け入れられる世界を作らなければならないので、競合も含めて一緒に市場を広げる必要があるとは思っている」としながら、「とはいえ、その中できっちりシェアは取っていかなければならない。そこは当社のメンバーが自信を持って進めてくれている」と語っていた。

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TechCrunch Japan

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