「Black Lives Matter」は米国史上最大の社会運動かもしれない。ニューヨークタイムズ紙が最近引用した4つの異なるアンケートによると、米国で1500万から2600万人の人たちが、5月末のGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏の死以降、同氏のやその他の人たちの死に抗議するデモに参加したという。
Blavity(ブラビティ)は黒人文化にフォーカスしたメディア企業だ。ロサンゼルスを拠点とし、創業6年になる。激怒した米国民がこれまでの出来事を正しく理解できるよう助けるのに、ブラビティほど適任の企業はないだろう。ブラビティの創業者Morgan DeBaun (モーガン・デボーン)氏によると、同社には黒人に対する残虐な行為を撮影した動画が毎週少なくとも4~5本は届くが、この状況は2014年以来変わっていないという。2014年当時Intuit(イントゥイット)に勤めていたデボーン氏は、故郷ミズーリ州で18才の丸腰の少年Michael Brown(マイケル・ブラウン)君が警官に撃たれた事件の後、ブラビティを創業した。
ブラビティは主要メディアがほとんど見逃してしまう事件を取り上げるが、それだけではない。ますます多くの黒人ミレニアル世代が、文化や政治に関する斬新な見方、ブラック・ハリウッドや旅行に関する情報(ブラビティが運営する他の2つのブランドで取り扱っている)、大規模なネットワーキングイベント(昨年1万人を集めたイベントもあった)などに関心を持つようになっているが、ブラビティはそんな彼らの中で人気サイトとなっている。
TechCrunchは先週、デボーン氏に、ブラビティがどのようにこの機会を捉えようと考えているのか、投資家は同社への出資をチャンスだと考えているのか、といった点について詳しく話を聞いた(ちなみに同社は現在までに、GV、Comcast Ventures(コムキャスト・ベンチャーズ)、Plexo Capital(プレクソ・キャピタル)といったVCから比較的控え目の1100万ドル(約11億8000万円)を調達している)。以下がインタビューの内容だ。限られた字数で分かりやすく伝えるために編集してあるが、インタビュー全体はここから視聴できる。
TC:ブラビティを創業した目的の1つは、マイケル・ブラウン君の死後、他の黒人たちとつながりたいというニーズがあるのを感じ、それに応えるためだったと聞いています。当時はどんなメディアを読んでいたのですか。
MD(デボーン氏):期待外れの答えになってしまいますが、実は何も読んでいなかったのです。地元や地域の問題、黒人の問題を常に把握しておく必要があると心底感じたのは、自分のコミュニティから離れてカリフォルニアに引っ越してからです。その時に初めて「一体何がどうなっているの」と自問している自分に気づきました。
黒人コミュニティはこれまでも、独自のネットワーク、プラットフォーム、ブランドを創り上げてきました。Essence(エッセンス)、Jet(ジェット)、Ebony(エボニー)、最近ではThe Root(ザ・ルート)など、アフリカ系アメリカ人向けの新聞がさまざまな都市で発行されています。ですが、大半のメディアは相変わらずエンターテイメントやハリウッド関連の話題ばかりを取り上げており、必ずしもニュースを重視しているわけではありません。ですから、私が知りたいと思っていた情報とのギャップがとても大きいと感じていました。
これはツイッターが本格的な情報源になる前のことで、多くの人たちにとってそれが現実でした。セントルイスの街で自分が目撃したことや現場にいた友人とテキストメッセージやメーリングリストでやり取りする情報と、大手メディアに掲載される情報との間には大きなギャップがありました。私は何か大切なことを見落としているように感じました。変化を起こすには、常に正しい情報とつながっていることが大切だとかつてないほど強く感じていたからです。
TC:ブラビティは多くの社会的不公正を取り上げています。現在、サイトで最もよく読まれている記事は、サクラメントの警官が12才の子どもの頭にビニール袋をかぶせたこと関する記事と、警官が妊娠中の女性の腹をテーザー銃で撃ち、逮捕、起訴されたことに関する記事です。こうした記事は、ブラビティが読者の情報源となるのに重要な役割を果たしているのですか。
MD:我々は黒人が体験していること、実際の心情をありのままに伝えたいと思っています。他のメディアでは取り上げられない事件やニュースも掲載します。最近よく「今回の件はこれまでとは違うと感じていますか」とか「これまでとは異なる事件なのですか」という質問を受けるのですが、「こうした事件はマイケル・ブラウン事件以来、毎週のように取り上げてきました」とお答えしています。黒人コミュニティで起こった事件を伝え、現実に起こっている不公正に光を当てることは、我々が発行するメディアとその精神にとって必要不可欠な部分です。
もちろん、喜ばしく幸福な出来事、お祝いごと、偉業達成の瞬間、地元のヒーローなどの記事もあります。しかし今は、懸命に取材に励んで今この瞬間に最も重要な事件を取り上げることが大事だと思っています。
TC:最近、Forbes(フォーブス)誌の取材で、「広告主やマーケティング担当者は、黒人の死や暴力を伝える記事の隣の広告スペースにお金を払いたくないと思っている」と答えていましたね。こうした記事を掲載するのは、それがブラビティの使命だからだと思いますが、その一方で両刃の剣のようなところがあるような気がします。
MD:組織としてのブラビティには5つの異なるブランドがあります。ですから収入源も多岐にわたり、ニュース記事の隣に広告を表示することだけに依存しているわけではありません。他のメディア企業が広告収入に依存し過ぎて苦しむところを我々は見てきました。同じ失敗を繰り返したくはありません。当社のフェイスブックのページは、投稿内容があまりに暴力的過ぎるとしてブロックされたことさえあります。しかし、黒人に対する暴力は現実です。脚色なしの本当の出来事なのです。
ブラビティにとって真実を伝えることは絶対条件ですが、それと同時に、クライアントや広告主、あるいはフェイスブックに抵抗してでも確実にコンテンツを配信し続けることができることを示すことも必要です。奇妙ですが、ブラビティはこの両者のバランスを取りながら運営しています。ただ、全体的に見て、最も収益を上げているのはニュース部門ではありません。コンファレンス事業と5つのブランド(ライフスタイルブランドを含む)全体の広告表示事業が最も利益を上げています。
あまり大々的に宣伝してはいませんが、当社は自前のアドネットワーク(複数の広告媒体にまとめて広告を配信できる仕組み)も所有しています。ただし、当社は基本的に、営業チーム、広告技術やエンジニアといった類の人材を自社で抱えられる規模にまだなっていない有色人種経営の中小メディア企業のために、広告営業・販売業務を行っています。同じく自社アドネットワークを持つVice(ヴァイス)やRefinery 29(リファイナリ29)と競合しているため、そのような競合相手にも勝てることを示すためにも当社は巨大な需要を確保しておく必要がありました。そして、この広告事業からの収益によって、他の部門へ再投資する余裕が生まれました。
TC:有料会員制のプロフェッショナル向けネットワークも開始するそうですね。
MD:特に若い黒人のプロフェッショナルたちが集まって学んだり仕事を探したりできる新しいプラットフォームを数週間後に開始する予定で、当社一同とても楽しみにしています。このようなプラットフォームは当社がコンファレンスビジネスで培ったコア・コンピテンシーの1つであるという背景もありますが、最大の目的は、今トレンドを形成している重要な問題やトピックについて議論する場を作ることです。ブラビティはすでに、Facebook Live(Facebookライブ)、YouTube(ユーチューブ)、およびInstagram Live(Instagramライブ)を使って会話する場を毎日提供していますが、そうした既存のプラットフォームにはない、安心して会話できるプライベートな空間と、さらに深いレベルでつながることができる場を提供していきたいと考えています。
TC:最近の数か月間、シリコンバレーや投資家たちについて明らかに変わったと感じた点はありますか。以前はまったく問い合わせもなかったような会社が興味を示しているといったことはありますか。
MD:注目しているVCはかなりいると思いますが、偏見があまりに強いため、彼ら自身それを打破する方法が分からないのではないかと思います。
確かに当社への問い合わせは増えました。ただ、それによって投資額やファンドへの出資額が増えたかというと、そうでもありません。私は見せかけだけの「注目」は信用できないと思っています。VCにとって最も重要な成功の尺度は、投資を回収できるかどうかです。ベンチャーの出資は寄付でも義援金でもありません。VCは彼らの成功尺度を満たす企業を探しているのです。そしてそれはおそらく私の尺度とは異なります。これだけ成功しているにもかかわらず慢性的に資金不足の状態ですから。
TC:もう少し詳しく説明していただけますか。
レイターステージの投資家たちは、シリーズAやシリーズBで投資対象になる企業はそんなに多くないと考えていると思います。でも、投資対象となり得る企業、つまり当社のような収益基準と目標基準を持ちイグジットの可能性がある企業は数多くあるのです。しかし、そのような企業は自社がスタートアップだとは考えていないし、スタートアップには見えない。ですから資金を調達するためにもっと結果を出す必要があるのです。
現在、資金を調達する人たちが本当に増えています。初回ラウンドのファンドで資金調達に成功し、今はこうしてダイバーシティへの意識が高まる中でセカンドラウンドに臨んでいる。これはとても勇気づけられることですし、シードステージやアーリーステージの創業者には本当に有利だと思います。
私も今、シードラウンドで資金調達している創業者だったら、と思います。1000万ドル(約10億7000万円)くらい調達できる可能性がありますから。資金はあふれているのです。
TC:複数のブランド資産があり、将来性もある会社を実際に経営されているあなたが資金面で不利な立場にいるとは驚きです。先ほどおっしゃったように、この国はあと10年でマイノリティー(少数派)人種が白人の人口を上回ってマジョリティー(多数派)になると予想されています。アフリカ系ラテンアメリカ人など、黒人以外のコミュニティ向けのサービスを提供する予定はありますか。
MD:膨大なオーディエンスを抱えて急成長するサブコミュニティがつながるスペースまたは場を持っていないことについては、いろいろと考えてきました。ブラビティは設立当初から、まずは自社のテックプラットフォームを確立し、その後UIを変更してさまざまなアイデアに対応できるようにし、ニッチレベルでさまざまな人種やコミュニティにサービスを提供するブランドを集めた場所を作ることを目指していました。具体的には、Z世代、黒人、LGBT、アフリカ系ラテンアメリカ人、米国にいる多くのカリブ人、ナイジェリア系アメリカ人といった人たちが対象です。移民たちの世界には本当に多くのサブコミュニティが存在します。
そのうち、このやり方を繰り返すことで間接費や管理業務が発生するのはあまり効率的ではないことに気づきました。そこで、運営サイドの仕組みを作る必要がありました。自社の広告ネットワークに資金を投入したのはそのためです。そうすれば、例えば、ブリックリンに素晴らしいクリエーターがいる場合に、「あなたの実績は素晴らしいですね。サイトへのユニーク・ビジター数(重複しない訪問者数)が毎月100万人もいる。ブルックリンにあるメディア企業の発行部数の半分以上に相当する数字です。でも広告販売チームをお持ちでないようですね。当社と提携しませんか」と声をかけることができます。それが最初のソリューションでした。
次のソリューションとしてソーシャルネットワーキングプラットフォームを構築しました。ブラビティを創業した当時にフラストレーションや緊張を感じたのは、私のような人間は他にいないと感じていたからです。大企業を作ってテクノロジーで世界を変えたいと考えていた黒人女性は皆無でした。マウンテンビューを歩いていても自分と同じような人は誰もいなくて、どこへ行けばいいのかさえ分からなかった。まさにそうした状況をテクノロジーで、つまり、人々が知り合いたい相手を互いに簡単に見つけることができるプラットフォームによって変えていきたいのです。そうして人々がつながるようになれば、起業して独自の組織を創り上げる人も出てくるはずです。そうなることを願っています。
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