著者紹介:Zoe Jervier Hewitt(ゾーイ・ジャービエ・ヒューイット)氏は、マルチステージVCファンドのEQT Ventures(EQTベンチャーズ)のリーダーシップコーチおよび人材パートナー。企業成長の各段階で候補者を確保するために必要とされる適切なテクノロジーおよび人脈の活用を促すことにより、体系的かつ迅速な方法で人材を集められるよう投資先企業を支援している。
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新興企業の多くがテクノロジー思考の創業者によって起業されている。また、ベンチャーキャピタルは、製品開発や事業拡大のためにデータを駆使するアプローチを取る企業に投資している。しかし皮肉なことに、人材の採用となると、データ志向ではない従来型の企業よりもデータを活用せず、型にはまった手法を使う新興企業が多い。実のところ、テック業界では人材採用がこれまでに劇的に変わったことはなく、「人材採用」という、会社の命運を分ける決定が、今でも履歴書や面接に基づいて下されている。
その結果、チームの構築だけでなく、スタートアップ界全体の多様性にも弊害が及んでいる。
データを駆使した採用とは、候補者を絞り込むための適切な基準を定めてプロセスの効率を判断するだけのことではない。ここで言うデータとは、募集職種に適した人物かどうかを判断するために収集して評価する情報(または収集しない情報)の選択も含まれる。チームを構築するため、つまり、チームに加える人材を選考するための科学的な方法があるのに、なぜ創業初期のスタートアップの人材採用ではいまだにデータが活用されていないのだろうか。
人材の選考にはそもそも人が関わるのだから、完全に科学的なものにすることはできない、と言う人もいる。人間は、各々が独特かつ複雑であり、感情的で予測不能だ。加えて、「自分には他人の特質や才能を見きわめる能力がない」と思っている人は少ない。ほとんどの人は、自分には優れた直感と、才能をかぎ分ける「鼻」があると、自信過剰なまでに信じている。優れた結果を出すのに正式な訓練や何十年もの経験が不要な数少ない業務、それが人材採用である。
直感に基づく評価をやめる
この時代遅れの考え方の影響はいたる所で感じられる。最初に、また最たるものとして、チームダイナミクスに関係する場合が挙げられる。まず、ある人物に資格があるかどうかを知るには、何を評価するかを理解していなければならない。職責を全うするのに必要なことに関する浅い理解のまま業務を続ける企業には、優れた選考システムの構築に不可欠な情報が欠けている。その結果として出来上がるのは、体系化されていない面接が重視され、何らかの予兆を示すシグナルが軽視され、直感が評価を左右する、貧弱な採用プロセスだ。
業務を遂行する能力に応じた役割を候補者が獲得できるかどうかは、相性や自信、カリスマ性によって決まる可能性が高い。その結果、新規採用者のほぼ半分が役に立たなくなって脱落する可能性があり、貧弱なチームが構築されることになる。信頼できるデータが欠如しているということは、多くの企業において、採用とチームの業績の間のフィードバックループが壊れているということである。そのため、学習と改善が脇に押しやられることになる。全体像を把握できなければ、最高水準の業績を導き出すスキル、特質、行動パターンが採用プロセスで効果的に評価されているかどうかを判断することは不可能だ。
主観的な手法の危うさ
さらに危険なことに、証拠に基づいて収集と評価を行うように設計されていない採用プロセスは、ほとんどの場合、多様性の乏しさにつながる。周知のとおり、多様性に乏しいと、イノベーションや企業の成功が阻害される。
人材の選考と育成を主観的に行うと、無意識の偏見と排除が繰り返される環境が生まれ、テック業界のエコシステムの均質性を増幅させる。創業初期の企業は採用候補者を探す手段として自然と人脈に頼り過ぎる傾向があるが、それは解決策にはならない。
最後の点として、主観的な手法は人材採用の担当者や専門家に対する信頼度を落とすことにつながる。今の状態では、人材の募集と選考は単純で重要度が低い事務仕事、または水晶玉をのぞき込むのと同じ程度のデータしか得られない「闇の魔術」というらく印を押され続けることになるだろう。
証拠に基づく手法を採用する
採用プロセスの客観性を高める際、創業者とそのチームが最善の益を得るには、まず、チームを構成する各役割における成功の尺度を、証拠に基づいて明確に定義することから始める必要がある。次に、選考の各段階を体系化して特定のスキルや行動特性を評価する。つまり、何をいつ評価するのか、どんな基準でデータを評価するのか、といった点を決める。言い換えれば、候補者が特定の役割を果たせるかどうかを正確に予測する根拠になり得る、信頼性の高いサインを可能な限り見きわめることを目標とすべきだ。
採用担当の管理職による評価の客観性を高めるのに役立つ、科学的な手法に基づいた人材評価ツールは最近まで、主に有名大手企業で使われてきた。そうした企業は大量の求人応募の処理に頭を悩ませている。ネット応募が普及したがゆえの、ぜいたくな悩みである。しかし、最近生じている3つの変化は、創業初期のスタートアップ企業がチームを拡大するときの採用活動に見られる傾向を示している。
- 多様性と包括性を持つチームを構築することへの圧力。2020年は、ほとんどの企業にとって、多様性と包括性が優先課題になった年である。チーム構築の一環として使われる評価ツールは、認識、個性、スキルの面で足りない部分がどこにあるかをより正確に特定するのに役立ち、その不足部分を埋める人材の採用に集中できるよう助けてくれる。このようなツールを使うと、長所と短所に関するより客観的な情報に基づいて候補者を評価できるため、面接に入り込む可能性がある無意識の偏見を低減させることができる。
- 求職者の急激な増加。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、求人活動に2つの大きな影響を及ぼした。第一に、企業はリモートで働く人材の採用を余儀なくされている。その結果、テック企業のほとんどの職種について、今まで以上に世界中から採用することが可能になった。第二に、人材プールが拡大したため、平均求職数が劇的に増えた。候補者優位の市場から雇用者優位の市場へと変化したため、人材採用に関する評判があまり確立されていない創業初期の企業にとって、可能性を秘めた人材の発掘はますます難しくなっている。
- 人材評価ツール製品の性能向上と価格低下。長い間、人材評価ソフトウェアの大部分は、会社の形態になっていない顧客には手が出せないものだった。インターフェイスがわかりにくく、候補者が敬遠するような設計だったため、科学的な根拠に基づくツールは数多くあったのに、それが、テクノロジーと自社製品のことで頭がいっぱいの創業者の目に留まることはなかった。さらに、管理や解釈のために追加のコンサルティングや専門家によるトレーニングが必要なツールの多くは、創業初期のスタートアップの予算では到底手が出ないほど高価だった。自動化、製品設計、コンプライアンスに注力した新製品が人材評価ツール市場に登場すれば、スケールアップを目指す企業がこの分野に投資することは正当な選択となる。また、人材評価ツールがチームの業務ツールキットに必須のSaaS製品になるにつれて、このツールに対する認識も変わるだろう。
このような外的要因によって人材採用が証拠に基づいた手法へとシフトしていく中、企業自身も採用に関する慣例を変えていく必要がある。これは優先的に取り組むべき課題だ。体系化されていない面接はとても自然に感じるかもしれないが、人材を正確に選考する面では非常に危険である。面接で会話することは確かにすばらしいかもしれないが、そのような会話では、本当に重要なことに基づく賢明で正確な判断を妨げる雑音も聞こえてしまう。
人材の採用においては、直感的なフィーリングや「勘にまかせる」ことには慎重でなければならず、決定は常に、募集職種に関する正確な根拠に基づいて下す必要がある。チームの強固な土台を据えることを目指す新興企業は、主観的な人材採用によって無駄や偏見が発生するリスクを冒してはならない。
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カテゴリー:HRテック
タグ:人材採用、データ分析
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(翻訳:Dragonfly)