物理的なオフィス、または1つの国といった枠をはるかに超えてリモートワークが拡大し、こうした労働力を管理していく必要性が生まれる中、企業の人材管理支援に使用される人事テクノロジーにスポットライトが当てられている。急成長を遂げるHRスタートアップの1つが米国時間2月2日、事業を大きく拡大するための資金調達ラウンドを発表した。
Oysterは、人事サービスを提供するスタートアップで、「知識労働」分野の請負業者やフルタイムの従業員の雇用、新人研修、そして給与計算、福利厚生、給与管理といったプロセスを支援するプラットフォームを提供している。このOysterがシリーズAラウンドで2000万ドル(約21億円)を調達した。
同社はすでに100カ国で事業を展開しており、CEOのTony Jamous(トニー・ジャマウス)氏はインタビューで、市場を拡大するとともに、特に新興市場での人材採用に対処するための新サービスを導入する計画だと語った。ジャマウス氏はJack Mardack(ジャック・マーダック)氏と同社を共同設立している。
現在Oysterは、候補者の調達や面接、評価のプロセスをカバーしていない。それらは同社が独自の技術を構築したりパートナーと提携し、ワンストップサービスの一環として提供し得る分野と考えられる。同社は開拓可能な潜在要素として、バーチャルジョブフェアの開催を試みている。
「今後10年間で15億人の知識労働者が労働人口に加わりますが、そのほとんどは新興経済圏からの人々です。一方、先進国では約9000万人分の雇用が満たされない状態になります」とジャマウス氏はいう。「グローバルに分散した雇用形態をとることで強力な人材力を得ることができますが、その場合人事や給与システムに大きな課題を抱えることになります」。
資金調達を主導したのはB2BベンチャーキャピタルのEmergence Capitalで、同社はZoom、Salesforce、Bill.com、以前TechCrunchの姉妹メディアであったCrunchbaseなどを支援している。Slackの戦略的投資機関であるSlack Fundと、シードラウンドで同社を支援したロンドンのConnect Venturesも参加している。この投資はOysterの急成長を加速させ、人々がどこからでも仕事ができるようにするという同社の使命を支えるものとなるだろう。
Oysterの評価額は公表されていない。同社はこれまでに約2400万ドル(約25億円)を調達している。
世界的なパンデミックのため、旅行をはじめ地域活動までもが大幅に制限され、多くの人々が自宅での日常生活を余儀なくされていることで私たちの世界が縮小している一方、雇用の機会と組織の活動範囲が大幅に拡大しているのは皮肉なことである。
公衆衛生の危機から導入されたリモートワークは、企業が従業員をオフィスから切り離すことにつながり、その結果、場所を問わず最高の人材を発掘して活用する道が開かれた。
こうした傾向は2020年になって顕著になったと言えるかもしれないが、クラウドコンピューティングとグローバル化のトレンドの後押しを受けて、実はここ数年で徐々に注目を集めつつあった。ジャマウス氏は、Oysterのアイデアは何年も前から考えていたものだったが、同氏がその前に在籍していたスタートアップNexmo(2016年にVonageに約243億円で買収されたクラウドコミュニケーションプロバイダー)での経験の中でそれがより明確なものになったと語った。
「Nexmoでは優れた地域雇用者になることを目指していました。私たちは2つの国に拠点を置いていましたが、あらゆる場所で人材を必要としていました」 と同氏は続けた。「そのために何百万ドル(何億円)も費やして雇用インフラを構築し、フランスや韓国など各国の法律に関する知識を深めました」 。同氏はすぐにこれが極めて非効率的な仕事のやり方であることに気づいた。「私たちは複雑で多様な問題が発生することを想定していませんでした」。
Nexmoを去り、エンジェル投資(分散型の巨大企業Hopinなどを支援)を行った後、同氏は次のベンチャー事業として労働力の課題に取り組むことを選択した。
それは2019年半ば、パンデミック以前のことであった。あらゆる企業が分散型労働力の課題に対処する方法を模索するようになった現在、同氏の判断は時機を得たものとなった。
新興市場へのフォーカスはジャマウス氏の個人的背景と無関係ではない。同氏は17歳のときにレバノンからフランスに留学し、それ以来、基本的に海外で生活してきた。しかし先進国から新興市場に参入する多くの人々と同様、彼は母国の技術を持った人材はその国の住民や国自身が自らの生活を向上させるために活用し、発展させる価値があるものであることを認識していた。同氏はテクノロジーを活用することでそこに貢献できると考えていた。
このより広範な社会的ミッションを背景に、Oysterは現在B-Corporationとしての認定を受けようと申請中である。
個人的な経験に基づいて人材管理会社を設立したのはジャマウス氏だけではない。Turingの創業者たちはインドで育ち、遠く離れた場所の人々と働いていた自分自身のバックグラウンドをTuring設立の動機の一部として挙げている。Remoteの創業者はヨーロッパ出身だが、世界中にいる人材を活用するという同様の前提の下にGitLab(ここで彼は製品責任者を務めていた)を設立した。
実際、この事業に取り組んでいるのはOysterだけではない。分散型ワークの領域でADP社のような存在になることを目指しているHRスタートアップのリストにはDeel、Remote、Hibob、Papaya Global、Personio、Factorial、Lattice、Turing、Ripplingが名を連ねている。これらは2020年資金を調達したHRスタートアップのほんの一部であり、他にも数多くのスタートアップが存在する。
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Oysterの魅力は、サービスの提供方法がシンプルな点にあるように思われる。請負業者とフルタイム従業員に対するオプションがあり、また海外における人材配置の本格的な大規模展開も可能だ。必要に応じて従業員の福利厚生も追加できる。さらに、より大きな予算の中で雇用がどのように適合するかを見極めるためのツールや、各地域の市場での報酬についての指標を提供するツールも備えている。料金は請負業者を対象とする場合は1人あたり月額29ドル(約3千円)から、全従業員を対象とする場合は399ドル(約4万2千円)、より大規模な導入向けには他のパッケージも用意されている。
Oysterはローカルパートナーと協力してこれらのサービスの一部を提供しているが、プロセスをシームレスにするための技術を構築した。他のサービスと同様、同社は基本的に現地のプロバイダーとして顧客の代わりに雇用と給与を処理するが、企業自身のポリシーと現地の管轄区域のポリシー(休暇、解雇条件、産休などの領域で互いに大きく異なる場合がある)の整合性を確保した契約条件の適用が可能となっている。
「資金力のある競合企業もいくつか存在します。資金力があるということは大抵は適切なシグナルです」とOysterの投資を主導したEmergenceでパートナーを務めるJason Green(ジェイソン·グリーン)氏は語っている。「ですが、競争をリードする企業に賭けたいと思うなら、実行力に着目すべきです。今、私たちは実行力を発揮した実績のある企業に投資しています。ジャマウス氏は会社を設立し、それを売却した経験のある起業家です。彼は収益を生み出した実績があり、ビジネスを構築する方法に精通しています。しかしそれ以上に大切なのは、彼の仕事は使命感に支えられていることです。それはこの事業分野において、そして従業員にとって大きな意味を持つでしょう」。
カテゴリー:HRテック
タグ:Oyster、資金調達、リモートワーク、移民
画像クレジット: Tara Schmidt / Flickr under a CC BY 2.0 license.
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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)