Apple卒業生によるインドの雇用支援アプリが13.4億円を調達

インドの未熟練労働者の拠り所となっている元Apple(アップル)従業員が立ち上げたスタートアップが、現地時間3月2日、1250万ドル(約13億4000万円)の追加投資の調達を発表した。これは、複数の有名投資企業から800万ドル(約8億5500万円)を調達してからわずか5カ月後のことだ。

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創設1年目のApna(アプナ)は、Sequoia Capital IndiaとGreenoaks Capitalが主導する約13億4000万円のシリーズB投資を獲得したと話した。今回のラウンドには、以前からの投資者であるLightspeed IndiaとRocketship VCも参加している。ヒンディー語で「私たちの」を意味する社名のこのスタートアップは、現在までに2000万ドル(約21億4000万円)を調達したことになる。

これまでに運転手、配達員、電気工、美容師など、600万人を超える未熟練労働者がApnaに登録し、求職活動や職業訓練に利用している。しかし、それだけではない。

このプラットフォームの分析結果から、労働者たちが問題の解決に協力し合っていることがわかった。例えば美容師が別の美容師に、客が喜んでチップを弾んでくれる特別な整髪技術を披露したり、雇用主に給与の引き上げを認めさせた交渉術を公開する人もいる。

「そうした労働者のためのネットワークを創造することが、唯一の目的です」と、Apnaの創設者であり最高責任者のNirmit Parikh(ニルミット・パリーク)氏はTechCrunchのインタビューで述べる。「ネットワークの隔たりが最重要の難題でした。これを解決することで、人々のチャンスがどんどん開放されます」と彼はいう。Sequoia India代表のHarshjit Sethi(ハルシジット・セティ)氏は、Apnaは「インドのための職業ソーシャルネットワークの構築」で食い込んできたと話している。

同スタートアップは、いくつもの大手企業にとっても魅力的な存在になっている。Amazon(アマゾン)、Flipkart(フリップカート)、Unacademy(アナカミー)、Byju’s(バイジューズ)、Swiggy(スウィギー)、BigBasket(ビッグバスケット)、Dunzo(ダンゾ)、BlueStar(ブルースター)、Grofers(グロファーズ)などがこれに登録し、求人を行っている。さまざまな現地語に対応しているおかげで、Apnaへの参加方法は実に簡単だ。利用者はバーチャル名刺を作り、就職希望先に見せることができる。

Apnaにとってこの6カ月間は、とにかく成長の期間だったとパリーク氏はいう。Androidで利用できるこのアプリには、たとえば2020年8月の段階で120万人の利用者があった。それから今日までに、就職希望者と求人企業との間で6000万件のやりとりがあったという。8万件以上の雇用主を擁する同プラットフォームの定着率は95パーセントを超えるとパリーク氏は述べている。

「Apnaは、スキルアップのための職業中心のアプローチを採用しています。そこが私たちが最も自慢すべき点です。グレーカラーおよびブルーカラーのための技能または職業訓練教室で、一番問題になるのが結果に責任を負わないことです。Apnaは、このプラットフォームを使うすべての人が、差し引きでプラスになる仕事の結果を出せるようにすることで、この問題を根本から変えました」とLightspeed IndiaのパートナーVaibhav Agrawal(バイバブ・アグラウォル)氏は声明の中で述べている。

画像クレジット:Nirmit Parikh

パリーク氏は、インドで人を雇うことの難しさを家族や友人から聞かされ続けた挙げ句に、このアイデアを思いついた。インドでは何億人もの労働者が懸命に職探しをしているのに、どうしてその職場で人手不足が発生するのか。それがパリーク氏を混乱させた。問題は、労働者と雇用主とを結びつけるスケーラブルなネットワーク基盤がないことだと、パリーク氏は気がついた。

スタートアップを立ち上げる前に、パリーク氏は労働者たちに会い、彼らの協力を得て、彼らが本当に困っている根本の問題点を探り出した。その努力は今もまだ続いている。同社では毎日1万5000人の利用者と語り合い、他にApnaが力になれることは何かを学んでいる。

「私たちが聞いた中に、面接で苦労するという話がありました。そこで、面接の練習ができるグループを立ち上げました。また利用者の技能訓練も開始し、そのために私たちはEdTech企業ともなりました。今後数カ月で、この取り組みを強化する予定です」と彼は話していた。

パリーク氏は、顧客や産業界から膨大な量の反応があると話す。利用者は毎日、どうやって仕事に就いたか、どうやって収入を増やしたかなどをシェア合っているとのこと。この数カ月内に、Uber(ウーバー)やBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)などの著名な企業幹部がApnaに参加したことで、彼らのビジョンはスケールアップしたという。Apnaがインドで取り組んでいる問題はいたる所に存在するものであるため、いずれは世界中の人々に奉仕したいとも彼は考えている。

このアプリには広告は入らない。パリーク氏は、今後も入れる予定はないと話す。「一度、広告ビジネスに足を踏み入れたら、やってはいけないことをやり始めることになります」と彼はいう。広告を入れる代わりに、求人側から料金を徴収し、技能訓練コースを提供することでプラットフォームを収益化することにしている。だが、Apnaでは常に無料のコースも提供しているとパリーク氏は主張する。プレミアム版は、さらに高度な支援を求める人が対象になると彼は話す。

他の地域と同様、インドでも2020年は新型コロナの影響で数多くの事業が閉鎖され、労働者は家に閉じ込められることとなった。インドには、ブルーワーカーとグレーワーカーが2億5000万人以上いる。彼らに確かな就職機会を与えることが、かの国の最大の課題だとセティ氏はいう。

これが開発物語だ。今後も追い続けたい。

カテゴリー:HRテック
タグ:Apna資金調達インド

画像クレジット:Debajyoti Chakraborty / NurPhoto / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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