IVS LaunchPad 2020 Summerの優勝は製造業向けの異常検出AIを開発・提供するアダコテック

インフィニティベ ンチャーズサミットは7月31日、スタートアップ企業と投資家をつなぐ大型イベント「Infinity Ventures Summit 2020」内で、スタートアップ企業14社が集うピッチコンテンスト「IVS LaunchPad」を開催した。例年はリアルイベントとして開催されてきたが、今回はコロナ禍を受けて完全オンラインのライブ中継で実施された。IVS LaunchPadの応募総数は150社超と過去最多となり、決勝では海外2社を含む14社のスタートアップが激戦を繰り広げた。

激戦を勝ち抜いて優勝したのは、製造業向けの異常検出AIを開発・提供するアダコテック。2位は電動小型モビリティーサービス運営のLuup、3位はAIによる画像認識を活用した自動収穫ロボットを開発するAGRIST、4位はネット接続のカメラやセンサーから取り込んだ映像を機械学習によってAIが解析するプラットフォームを開発するPowerArena、5位は水中可視化装置「AquaMagic」を開発すAquaFusionとなった。

Sportip

Sportipセラピストやトレーナー、コーチなどの指導者をコーチングするアシスタントAI「Sportip Pro」やオンラインAIフィットネス「Sportip Meet」を開発。Sportip MeetはSportip Proで培った解析技術を応用して、個人の身体や姿勢の状態をチェックし、AIが最適なトレーニングメニューを提案してくれるサービス。フォームを点数化して友人などとの競争を可能にする機能もある。トレーニングの内容は、トレーニング、ストレッチ。ヨガなどを予定しており、大手フィットネスジム、個人のパーソナルトレーナー、整体師、理学療法士、健康経営に関心のある企業などへの提供を計画している。Sportip Proと併用することで、オンラインとオフラインの指導をより効率的に実施可能になるとのこと。

関連記事:筑波大発のAI運動解析スタートアップSportipがオンラインフィットネスサービス「Sportip Meet」の事前登録を開始

RIM

ゲーム大会開催の運営負荷を解消するツール「GameTector」を開発。大会主催者は、エントリー選手の管理、対戦表の作成、独自の結果報告システムを利用することで大会をスムースに運営できるという。また、参加選手は大会での戦績が蓄積され、選手自身が戦績を見返すことができる。GameTectorは2019年1月にサービスを開始し、これまでに約1万大会、参加者数は累計14万人の実績がある。2020年は2000大会開催を突破している。

YOUTRUST

YOUTRUST副業・転職のリファラル採用プラットフォーム「YOUTRUST」を運営。「友人の友人」までの副業・転職の意欲がリアルタイムで閲覧できるのが特徴で、副業・転職希望者と採用を希望する企業の利用を想定している。企業ごとに情報が集約される「カンパニーページ」をフォローすることで、企業の最新情報を自然とキャッチできるほか、YOUTRUSTのSNS上のタイムラインの「募集タブ」から応募すること可能だ。そのほか、友達、投稿、企業の一括検索機能などもある。

関連記事:「友人の友人」までの副業・転職意欲を確認できる「YOUTRUST」が資金調達

Luup

Luup電動マイクロモビリティのシェアリングサービス「LUUP」を運営。短距離移動インフラの構築を目指しており、街中でエネルギーをモビリティに供給するシステム構築や街に合ったサービス形式で街の人々のニーズに応える種類・台数のモビリティの提供を計画中。現在は電動アシスト自転車だが、規制緩和を見据え電動キックボードや乗車する人に合わせて形状や最高速度が変わるマイクロモビリティを開発中だ。直近では、ANRI、ENEOSグループのCVC(Corporate Venture Capital)であるENEOSイノベーションパートナーズ、大林組などによる第三者割当増資で約4.5億円の資金を調達。

関連記事:電動マイクロモビリティシェアのLuupがANRIやENEOS、大林組から約4.5億円調達

tsumug

TiNKスマートロックや空室利活用サービスを開発・運営。同社開発のスマートロック「TiNK」は、スマートフォンの専用アプリのほかテンキーやNFCで解錠できるのが特徴。ワンタイムキーの発行やキーシェアリングの機能もある。直近では、TiNKを利用したワークスペース「TiNK Desk」を展開。現在、福岡では、福岡地所グループが所有するホテル「ザ・レジデンシャルスイート・福岡」の客室を始め3拠点、東京では東京メトロの六本木駅、六本木一丁目駅の2拠点がある。

関連記事:コネクティッド・ロック「TiNK」公開、アパマン連携で2021年までに100万台設置へ、メルチャリへの提供も

東急

ROADCAST東急グループのアセットを生かし、落書きなどのリスクがある建物の外壁などの空きスペースをアート性の高い広告や屋外型アート展に活用することを目指す「ROADCAST」サービスを展開。2019年8月にスタートし、東京・渋谷で100カ所以上の建物の外壁をアートウォール広告にした実績がある。2020年は他エリアへの展開も予定している。また、アートウォールを広告事業のほか、地方都市の観光事業などにも活用したいと考えている。

ビズ・クリエイション

住宅見学予約クラウドツール「KengakuCloud」(ケンガククラウド)を開発。工務店や住宅メーカー、設計事務所をターゲットにしたKengakuCloudは、岡山県倉敷市の総合住宅展示場「ハウジングモール倉敷」などに導入されている。「グループ連携機能」を使えば、複数社の予約制イベント情報を連携先ウェブサイトに自動収集し、予約を一括管理できる。新サービスの「KengakuCloud for オーナー邸見学」は、町中の空き家や居住中で売り出し中の一軒家を内覧するための予約管理システム。売り主や売却を担当する不動産会社に負担をかけずに仲介業各社が自由に内覧時間を調整できる。将来的には売り主と買い主を直接結んで物件内覧を可能するのが目標だ。

クイッキン

旅行者のスマートフォンを活用した宿泊施設向けサービス「aiPass」を開発。予約確認メールのほか、ホテル設置のQRコードを読み込むことチェックインが可能。ルームサービスやチェックアウトも旅行者のスマートフォンを使え、すべてを一元管理できるのが特徴だ。aiPassはプラグインで拡張できる仕様になっており、導入する宿泊施設別に機能を追加することもできる。コロナ禍のいま、非対面・非接触・三密回避というメリットがある。クイッキンは、福岡市と福岡地域戦略推進協議会が実施する実証実験プロジェクト「福岡市実証実験フルサポート事業」にも採択されている。

リーナーテクノロジーズ

支出管理プラットフォーム「Leaner」を開発・運営。企業活動にかかわる各種コストを管理可能なSaaSで、会計データをアップロードするだけで支出を費用別に分類してくれるのが特徴だ。費目ごとの金額を他社と比較することもできる。具体的には、間接費管理にかかわる重要指標を一元管理
するダッシュボード、コストの管理水準のスコアリング、コストを組織別・取引先別に分析、取引先との契約更新や切り替え交渉の案件管理、契約書情報の登録による自動更新や見直し時期の管理、レポート形式でデータを社内共有といった機能を搭載する。

関連記事:支出管理SaaS「Leaner」運営のリーナーテクノロジーズが3億円を調達

B2MB2M越境オンライン商取引プラットフォーム「B2M」を開発・運営。安全性の高い256ビット暗号、75種類以上の半自動化されたリスク管理機能、超低遅延処理などが特徴。VISA、Mastercard、ALIPAY、WeChat Pay、HSBC、JPモルガン、DBSなどの金融機関と連携している。

アダコテック

Adacotech製造業向けの異常検出AIを開発・提供。特徴は15年の研究・開発により、一般的なディープラーニングの100分の1程度の教師データしか必要としないため、サンプルデータ取得の負担が小さい点、一般的な非線形式ではなく積和演算により算出するためCPU負担が小さくため市販のPCで運用が可能な点だ。自動車部品など検査・検品や、新幹線トンネルなどの非破壊検査などに導入が進んでいる。

PowerArena

PowerArenaネット接続のカメラやセンサーから取り込んだ映像を機械学習によってAIが解析するプラットフォーム「PowerArena」を開発。生産のボトルネック、設備のOEE(総合設備効率)の低下、予定外のダウンタイムといった工場の問題を可視化できるほか、街中やショッピングモールなどでリアルタイムに群衆の状況を監視・分析できる。現在、繊維工場や餃子製造工場などに導入されている。

AGRIST

AGRISTAIによる画像認識を活用した自動収穫ロボットを開発する宮崎拠点のスタートアップ。現在、宮崎県新富町の農家と連携して開発を進めている。一般社団法人AgVenture Labとゼロワンブースターが共同運営する「JAアクセラレーター」にも採択されており、今後はJAグループが保有するさまざまなアセットを活用してロボットの社会実装を目指す。

AquaFusion

AquaFusion水中可視化装置「AquaMagic」を開発。AquaFusionによると、従来の魚群探知機の100倍以上の分解能を有しており、コストは既存の高性能魚探の半額程度で、サブスクリプションモデルも用意している。魚群探知機だけでなく、水産資源調査、魚の養殖業、海洋開発、海洋環境調査など水中情報の可視化手段で事業展開していく予定だ。なお、AquaMagicで収集した水中情報は、同社が提供するAIサービスによって処理・加工し、高度付加価値情報として顧客に提供する。

少量のデータでも異常をほぼ100%検出、検査・検品AIのアダコテックが4億円を調達

産業技術総合研究所の特許技術を用いた検査・検品AIソリューションを展開するアダコテックは7月1日、東京大学エッジキャピタル(UTEC)とDNX Venturesを引受先とした第三者割当増資により総額4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

アダコテックでは産総研が開発した技術(高次局所自己相関特徴抽出法:HLACを用いた適応学習型認識方式)を軸に、従来よりも効率よく異常検知ができる仕組みをソフトウェアとして提供している。

現在の顧客は自動車部品など製造業が中心。強みは検査の質とスピード感だ。

これまでも外観検査などを効率化するAIソリューション自体は複数存在したが、正常パターンと異常パターンを合わせて膨大な教師データを準備する必要があり、これが業界によっては1つの課題になっていた(既存のディープラーニング系AI製品の場合1000〜1万枚程度必要)。

アダコテックのプロダクトを使う場合、必要なのは正常品のデータのみ。状況次第では10〜100枚程度学習するだけで異常(学習した正常のデータから逸脱したもの)を網羅的に検出することができ、データが大量に集まるまで待たずしてすぐにフィジビリティスタディを始められる。

異常として学習したものを検出するのではなく「正常を逸脱したものを検出する」モデルのため、前例のないようなものも含めて異常をほぼ100%検出可能。常時並列演算を必要としないことから計算処理の負担が小さく、ノートパソコンのような汎用PCでもミリ秒オーダーの処理を実現・運用できるのもウリだ。

そのような特徴から自動車部品をはじめとした製造業における検査・検品や、トンネルなどインフラ非破壊検査を中心に、特に全数検査の要求が高い領域や単価が高い製造品現場からの反応が良いとのこと。不良品の見逃しがないだけでなく「不良と判断した理由を明示しながら」「タイトなタクトタイム(工程作業時間)内で」検品をクリアできる点が評価にも繋がっているという。

現時点では「動画」「静止画」「複数センサ」「音・振動センサ」の各インプットデータに合わせた4つの異常検知システムを用意していて、これらを用途や対象に合わせて適切に組み合わせて提供する。すでに10以上のクライアントでPoCを実施済みで、順次パイロット検証や実運用のフェーズに移行している状況だ。

少量のデータでも精度の高い検査・検品を実現

アダコテックは2012年3月の創業。学生時代から産総研に関わってきたエンジニアメンバーと、現在同社で代表取締役を務めるビジネス経験豊富な池田満広氏がチームを組みプロダクトを磨いてきた。

「純日本生まれの技術を、ものづくりを中心とした日本の産業や社会のために役立てたい。産総研で特許技術を発明した先生方にも技術顧問になってもらい、学生時代から関わっているメンバーが生業としてやっている」(池田氏)

正社員は池田氏とエンジニア2名の合計3名。これまではフィンテック グローバルの子会社として運営してきたが、今回は事業のさらなる加速を見据えて初めての外部調達を実施した(アダコテックはフィンテック グローバルの連結の範囲から除外され持分法適用関連会社になる)。

同社のプロダクトの活用が進む製造業の現場は、これまで目視検査やルールベースの検査システムが一般的だった領域だ。工業製品の場合は製造途中の各工程や完成時にパッケージやラベル、梱包外装など細かなポイントごとに外観検査・非破壊検査が行われている。

特に自動車の部品のように異常が人の安全に直結する可能性のある分野では、1つ1つのチェックを目視で行うとなると現場への負担が大きい。ルールベースのシステムも最初に大量のデータを集める必要があることに加え、モデルチェンジや環境の変化などで検査対象の仕様が変わるたびに最初から設定をし直さなければならなかった。

「少量の正常品のサンプルで始められ、確実に見逃しがないことを定量的に、エビデンスを添えてアウトプットできるのは重要。『どのような理由で異常とみなしたのか』が明確にわかれば、導入先の担当者だけでなく経営層としても納得しやすい」(池田氏)

アダコテックでは異常をほぼ100%検出できる(不良品を正常品として判定しまう割合がほぼ0%)ことを謳っているが、「検出できた or できないは線引きの問題で、見落としが100%ないというのは(自分たちでなくても)言える」そう。その際に重要なのが、正常品に含まれるものを不良品として検出してしまう“誤報”の数をどこまで減らせるかだという。

「全件目検でやっていた、もしくはルールベースのシステムでやっていた場合と比べて工数が7〜8割減るレベルだと、多くのお客さんに次のステップに進みたいと思ってもらえる。つまり全体の7〜8割は確実に正常品・不良品の判断ができていて、残りの2割を人がチェックするような状態。この2割についても『どういった基準でおかしいと思ったか』を示すことができる」(池田氏)

検査の工程は必要不可欠ながら、オフェンスというよりはディフェンスの側面が強く、いきなり大規模な予算をつけて全てのラインで展開するというのはあまり現実的ではないそう。「アダコテックの製品なら数個から数十個のサンプルでやれて、クイックスタートできるのが良い」というのはどの顧客にも評価されているポイントだ。

「必要なデータが十分に蓄積されるまで待ちましょうだと数ヶ月、数年かかり待ってられない。そんなシーンでまずは限られたデータでフィジビリティスタディをやり、ある程度の成果が見込めれば回数をこなしながらプロトタイプを作ったり、生産ラインに少しずつ入れてみたり。母数が増えれば精度が上がるだけでなく、どの異常に対してどのような反応を示すのか事例がたまりチューニングもしやすくなる」(池田氏)

今は製造業が中心ではあるものの、少しずつ別業界での事例も増えているそう。たとえば三井E&Sマシナリーと取り組むトンネル異常自動判定技術の実用化プロジェクトでは、数ヶ月かけて行なっていた作業を数時間に短縮することに成功した。

動画や静止画など特定の方法に限定することなく、4つの異常検知システムを備え「カードが数枚ある状態から」最適な手段を選べるため、用途も幅広い。監視カメラの動画解析用途や装置の経時劣化のモニタリングなどでの事例も生まれてきているようだ。

今後は調達した資金を活用して経営メンバーやエンジニアの採用を強化し、プロダクトのアップデートを進める計画。より多くの企業が活用できるようにSaaSモデルでの展開に向けた準備にも取り組んでいくという。