不動産テックのイタンジが創業100年超の大崎電気工業とNFC内蔵スマートロックでタッグ

イタンジは7月29日、大崎電気工業との業務提携を発表した。大崎電気工業が開発したスマートロック「OPELO」(オペロ)を活用した不動産賃貸サービスの業務改善を目指す。

写真に向かって左から、イタンジで代表取締役を務める野口 真平氏、大崎電気工業で取締役/新事業推進室長を務める小野信之氏

イタンジは、法人向けの自動追客システム・顧客管理(CRM)サービスの「ノマドクラウド」や法人向け不動産リーシング業務をクラウド化する「Cloud ChintAI」、Cloud ChintAIのオプションサービスである、自動物確システム「ぶっか」、内見予約受付・連絡・レポートの自動化システム「内見予約くん」などを開発・提供する2015年6月設立のスタートアップ。

大崎電気工業は、1916(大正5)年8月に創業し、1937(昭和12)年1月に会社を設立した老舗企業。実は、大崎電気工業という名前は知らなくても、首都圏ではほどんどの家庭で同社が製品が使われている。同社は、電力量計、計器用変成器、配電自動化機器、タイムスイッチ、デマンドコントロール装置、エネルギーマネジメントシステム、自動検針システム、スマートホーム関連機器など開発・販売する企業。電力量計というのは各家庭に設置が義務づけられている電気料金を算出するためのあのメーターのことだ。最近では、電力自由化によってスマートメーターと呼ばれる電力計に置き換わったので目にした人も多いことだろう。同社は東京電力の営業エリア内での電力計で圧倒的なシェアがある。

大崎電気工業が開発したスマートロック「OPELO」(オペロ)

そんな大崎電気工業が開発したのが、スマートロックのOPELO。ほかのスマートロックとは異なり、Wi-FiやBluetoothでの接続は不要で本体だけでNFCでの解錠が可能なのが特徴だ。扉の外側に後付けするタイプで、内蔵のテンキーを使ってワンタイムパスワードでの解錠も可能だ。

対応するNFC規格は、国内ではタバコ自販機の年齢確認に使われているTaspoが採用するNFC-A(MIFARE)と、Suicaをはじめとする交通系電子マネーやiD、WAONなどが採用するNFC-F(FeliCa)の2種類。国内では、マイナンバーカードや運転免許証などが採用するNFC-Bには対応していない。大崎電気工業によると、マイナンバーカードや運転免許証を鍵にしてしまうと紛失時に住所がバレてしまうため、セキュリティの観点からあえて除外しているそうだ。もちろん、NFC内蔵のスマートフォンを登録すれば、かざすだけで解錠できる。

一般的なスマートロックとは異なり扉の外側に固定するタイプで、内蔵のテンキーを使ってサーバーから送られたワンタイムパスワードでの解錠も可能だ。サーバには、1日あたり4種類のワンタイムパスワードが1日ごとに2100年まで登録済みで、こちらもWi-FiやBluetoothを介さない。情報セキュリティ管理規格「ISO/IEC27001」を取得しており、解錠履歴は3000件を記録可能なほか、オートロックや不正解錠時の警報ブザーといった機能も搭載する。

スマートロックを設置することにより、物件によっては不動産会社の立ち会いなく、都合のいい時間に物件を内覧可能になる

今回の両社の提携により、不動産内見時の鍵の受け渡しを効率化する。従来は、あらかめ設置されたキーボックスを使う、管理する不動産会社に来店して鍵を直接受け取るという、セキュリティ面の不安や業務面での非効率をスマートロックで解消する。具体的には、物件探しから内見、入居申し込みまでの手続きをすべてオンラインで完結させることが可能になる。

不動産業界のスマートロックの活用は、akerunを展開するフォトシンスやNinjya Lockを展開するライナフなどが数年前から手がけているが、基本的にいずれもBluetoohやWi-Fiでの通信が必要で、NFCでの解錠・施錠はオプション扱いだった。両製品とも粘着テープで貼り付ける必要があったが、OPELOでは既存のサムターン錠を取り外して扉と一体化させる仕様なので、結露や経年劣化で本体が剥がれ落ちることがないのも特徴だ。外側に積層電池(四角い電池)の端子があり、万が一のバッテリー切れでも確実に解錠できるようになっている。

内覧時はワンタイムパスワード、入居後はNFC(Suicaやスマートフォン)で解錠できる

そのほか、OPELOの空室・入居モード切替機能によって、内見用に設置されたスマートロックを入居後も継続して使えるというメリットもある。

不動産テックのイタンジ、ビットコインによる不動産売買サービス「ヘヤジンコイン」を提供開始

不動産テックのスタートアップ、イタンジは1月10日、仮想通貨で不動産売買ができるサービス「HEYAZINE COIN(ヘヤジンコイン)」を公開した。

ヘヤジンコインでは、物件の売買代金のほか、仲介手数料や諸経費もビットコインで決済し、物件を購入できる不動産購入プラットフォームを提供。売り主には、仮想通貨相場と不動産市場のデータから構築したアルゴリズムを使って、不動産の売却査定機能を提供し、物件価格や決済タイミングの提案を行う。

10日現在、ヘヤジンコインには9件の物件が掲載され、それぞれ日本円での価格と併記して、ビットコインの時価が表示されている。ビットコイン価格の方は刻々と変わっていくので、手持ちのビットコインがある人なら眺めているのも楽しいかもしれない。イタンジでは、2018年9月までに物件掲載数1000件、取引数300件を目指すとしている。

ヘヤジンコインの物件紹介ページには、ビットコイン価格が日本円価格と併記されている。

イタンジは2012年の設立。これまでに、不動産仲介会社向けの業務支援サービス「ノマドクラウド」や「Cloud ChintAI(クラウドチンタイ)」など、仲介会社、管理会社といった不動産業界の法人向けITサービスを主に提供してきた。また、個人向けには賃貸マンションの検索・情報ポータルサイト「HEYAZINE(ヘヤジン)」を公開。人工知能を活用した不動産投資家向け情報サービス「VALUE」なども提供している。

不動産スタートアップのイタンジがKDDI、いちごと資本業務提携—法人向けサービスで拡大

イタンジ代表取締役の伊藤嘉盛氏(左)とKDDIバリュー事業本部 新規ビジネス推進本部 戦略推進部、KDDI∞Labo長の江幡智広氏(左)

「不動産×IT」の領域にチャレンジするスタートアップは数多いが、そのほとんどは不動産仲介会社、つまりは「物件を紹介してくれる街の不動産屋さん」の置き換えにチャレンジしている。だが今日ご紹介するイタンジは、不動産仲介会社や不動産管理会社向けのソリューション提供に主軸を置いたスタートアップだ。同社は3月8日、KDDIおよび不動産事業を展開するいちごとの資本業務提携を実施したと発表した。資本提携については、2社を割当先とした第三者割当増資を実施している。調達額や出資比率は非公開としているが、イタンジは2月26日付けで資本金を1億7251万円から2億2381万円に変更している。

イタンジは2012年創業の不動産スタートアップ。当初はC向けに不動産仲介サービスから事業をスタートした。C(コンシューマー)向けサービスは現在「nomad(ノマド)」の名称で提供中だ。nomadはスマートフォン向け・ネット完結(無店舗)型の不動産仲介サービスで、チャットUI上で物件に関する希望を送れば、AIおよびオペレーターが条件にマッチする物件の紹介をしてくれるというもの。仲介料は一律3万円となっている。

もちろんC向けの事業も展開しているのだが、同社の中核となっているのはB(法人)向け事業。nomadをベースにした仲介会社向けクラウドサービスの「nomad cloud(ノマドクラウド)」や管理会社と仲介会社向けの物件確認システム「物確くん(ぶっかくん)」などを展開している。

「不動産業界は建築業よりもIT化が遅れている業界。逆に言うとイノベーションがまだまだ起こる可能性がある業界だ」——イタンジ代表取締役の伊藤嘉盛氏は語る。

nomadでは、これまでユーザーからの会話データ20万件を解析してきたという。この解析結果をベースにAIとオペレーターを組み合わせた顧客対応を実現。これによってスタッフ1人あたりの月間対応顧客数が1000人(一般的な店舗型の仲介会社であれば1人あたりの顧客数が40人程度)になった。この実績をもとに展開するnomad cloudは、現在9万件の導入実績がある。

また、仲介会社と顧客を結ぶサービスだけでなく、不動産の管理会社と仲介会社を結ぶサービスも展開している。現状、仲介会社が紹介する物件というのは、管理会社が「REINS(レインズ)」や「ATBB(アットビービー)」といった業者向けデータベースに登録しているものが中心となる。だが業者向けのデータベースとは言っても、リアルタイムに更新されている訳ではないため、仲介会社は入居希望者が現れる度に管理会社に電話をして空室確認をするという手間が発生する。

この電話対応が管理会社には大きな負荷(電話対応の約5割が空室確認というケースもあるそうだ)になっているのだという。この物件確認作業を電話の自動応答で実現したのが物確くんだ。管理会社が空室データをcsvなどのファイルでアップロードすると、それぞれの物件に固有のID(物確くんナンバー)が割り振られる。仲介会社は指定の番号に電話をし、音声ガイダンスにしたがってそのIDを入力すれば、自動応答で即座に空室状況が分かる。管理会社は問い合わせの履歴などを閲覧することも可能だ。現在は大手の管理会社を中心に60社100拠点が利用。登録される空室は26万戸で、月間50万コール・4万5000社以上の仲介会社が利用している。

「もともとはC向けのビジネスが売上の8〜9割だった。だがC向けは競合が多く、またデータベースも外部に依存しているため、手数料を下げるといった『安売り』をせざるを得なくなり、単体でスケールすることは大変だった。そこで2015年1月からB向けに事業の舵を切った」と伊藤氏は振り返る。管理会社、仲介会社の負荷を減らし、仲介会社であれば来店者数増加、管理会社であれば事業効率化といった目的を実現刷るソリューションを提供することで、事業を拡大しているという。

イタンジでは今回調達した資金をもとに、nomad cloudや物確くんのサービス開発を強化する。また3月以降は両サービスの物件情報を統合し、リアルタイムに更新可能な物件データベースの構築を進めるとしている。そのほかKDDI総合研究所の技術を活用した物件提案サービスの展開、KDDIおよびいちごとのソリューション販売協力などを進めていく。