真剣に転職を考える際、多くの人が登録するであろう転職エージェントサービス。まずはキャリアアドバイザーとの面談を通じて具体的な条件や自身の志向性をクリアにした後、候補先となる企業の提案を受けるのが通常の流れだ。
一方でHR Tech企業のLAPRASが開発に乗り出した「Matching Intelligence」はこの“キャリアエージェントによる面談”をシステム化した上で、Web上に公開されている求人情報を集め、その中から個人個人に合った求人を提案する。いわば同社が磨いてきたテクノロジーとデータを軸にキャリアコンサルティングの仕組みをアップデートしようという試みだ。
LAPRASでは2月26日、同社にとって新事業となるMatching Intelligenceの開発を本格化し、今夏を目処にローンチする計画であることを明らかにした。
機械学習とクロリーング技術でキャリアコンサルティングを自動化
TechCrunch Tokyo2017のファイナリストでもあるLAPRAS(当時の社名はscouty)は、個人向けのスキル可視化サービス「LAPRAS」や企業向けのヘッドハンティングサービス「LAPRAS SCOUT」など人材領域で複数のサービスを展開するスタートアップだ。
特徴の1つはオープンデータを収集するための「クローリング技術」。個人向けのLAPRASではエンジニアの情報を集めるのに使っていたこの技術を、Matching IntelligenceにおいてはWeb上の求人情報を収集するのに転用。集めてきた求人をLAPRASのポートフォリオやWebアンケートの結果と照らし合わせ、機械学習を活用してマッチングする。
サービスの流れ自体はシンプルだ。転職を考えているユーザーはまず、オンラインのアンケートに答える。たとえば転職を考えた理由や企業を選ぶポイントの優先順位、希望の勤務形態、興味のある分野、希望年収、好みのカルチャーなど。これはキャリアアドバイザーとの面談でよく聞かれる内容をアンケートに落とし込んだものだと思ってもらえればいい。
Matching Intelligenceではこの回答結果とLAPRASに蓄積されたスキルや志向性データを解析し、Web上の求人情報の中から相性が良さそうなものをピックアップして提案する。ユーザーが提案内容に対してフィードバックを行うことで、その結果がどんどん学習されて提案精度が向上する仕組みだ。
今回本格的に開発に着手する前段階として、LAPRASでは社内でプロトタイプを作り仮説検証を行った。複数のエージェントに協力してもらって標準的な質問事項を洗い出し、共通するものや重要なものを抽出。Googleフォームでアンケートを作り社内エンジニアに回答してもらった上で、実際にクローリングしてきた求人情報を1人数件ずつ提案し、その会社に面談に行きたいかどうかをチェックしてもらったという。
LAPRAS代表取締役の島田寛基氏によると1回目の提案時には面談に行きたい率の平均が約37%だったが、複数回のフィードバックを繰り返すことで最終的に約60%ほどまで精度が改善したそう。磨きこめばプロダクトとして世の中に出せる手応えもあったため、力を入れて開発に取り組むことを決めた。
今後は社外での実証実験を経て、夏頃のサービス化を予定しているとのこと。まずはLAPRAS上で転職意思が高いと表明しているユーザーに対してサービス内でアンケートを実施し、企業のレコメンドやマッチングを進めていく計画。従来のエージェントは担当者が1人ずつ面談を行っていたが、この工程にテクノロジーを入れることでマッチングの効率や精度をあげていく狙いだ。
最も自分に合った求人情報が提案されるサービス目指す
これまでLAPRASではLAPRAS SCOUTやフリーランス・副業エンジニア紹介サービスの「LAPRAS Freelance」を通じてエンジニアと企業のマッチングを図ってきたが、現状では企業側からアプローチをするものが中心。ユーザー側からアクションする手段は自身の転職意欲を示すことくらいに留まる。
要はスカウトサービスであるが故に企業側に依存する部分が多く、特に転職意欲が高まっている個人のニーズを十分に満たせていない側面もあった。また企業の中には採用活動をサポートしてくれるエージェントの仕組みを求める声もあり、スカウトサービスとエージェント型のサービスの両方が必要との結論に達したそうだ。
LAPRASによると、従来の転職エージェントサービスでは自社が契約している企業の採用募集しか取り扱わないため、選択肢が限定され求職者にマッチした募集が他にあっても紹介できないことがあった。加えて多くのサービスが成果報酬モデルを採用していることもあり、一部では本人の志向性を考慮せず給料が高い企業に求職者を押し込むようなエージェントも存在する。
Matching Intelligenceが目指すのは機械学習による解析とクローリング技術によってこれらの課題を解決し「ミスマッチな転職」をなくすことだ。
最終的には「提案の精度」が大きなポイントになるが、個人のスキルや志向性についてはLAPRASで蓄積してきたデータを活かせるのが強み。もう一方の求人情報に関しても“求人票には書かれていない”企業のフェーズやカルチャーなどの情報を補完的に収集することで、マッチングの精度を高めていくという。
「やりたいことはオープンデータや(Webアンケートなどの)クローズドデータを活用しながら、その人に合った求人情報をマッチングすること。いわゆるAIエージェントの概念自体はすでに存在するが、マッチングの部分を研究していくことで最も良い提案ができるサービスを目指す」(島田氏)