タウンWiFi代表・荻田氏が“梁山泊”GMOへの株式譲渡を語る

今年も11月14日・15日の2日間にわたり開催された、スタートアップとテクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo」。このイベントで毎年、立ち見が出るほどの盛況を見せる目玉企画が、設立3年未満のスタートアップが競い合うピッチコンテスト「スタートアップバトル」だ。そのスタートアップバトルで2016年に審査員特別賞を受賞した、無料WiFi自動接続アプリのタウンWiFiは11月18日、株式譲渡により、GMOインターネットグループの傘下に加わることが明らかにしている。

TechCrunch Japanでは、タウンWiFi代表取締役の荻田剛大氏を取材。いきさつや思惑など、買収劇の舞台裏について話を聞いた。

「ここなら幸せにやれる気がした」

タウンWiFiは、ユーザーの近くの接続可能な無料公衆WiFiを探して自動で接続・認証してくれるアプリだ。2016年5月から提供されているタウンWiFiは、3年間でダウンロード数600万、月間利用者数(MAU)は約300万人、対応スポットは35万カ所となった。WiFi自動接続機能のほか、遅いWiFiや使えないWiFiに接続しない機能を備え、セキュリティ面のリスクに対応した専用のVPNサービスも提供している。

タウンWiFiではこのアプリを軸に、位置情報をもとにアプリのプッシュ通知を利用してクーポン情報などの広告を配信する「TownWiFi Ads」、店舗のWiFi接続を検知することで見込み顧客の来店測定を行う「TownWiFi Analytics」を企業や店舗へ提供し、収益を得てきた。

2018年4月に2.5億円の資金調達実施を発表し、2018年6月には同ラウンドで総額3億円を調達したタウンWiFi。このときには株主となった電通と、日本アジアグループ傘下の国際航業と業務提携を結び、マーケティングツール開発にも取り組んでいる。

こうして順調に事業が成長していたタウンWiFiだが、GMOインターネットグループへ株式を譲渡したのには、どのような背景があったのか。荻田氏は「ユーザー増を図りたかった」と語る。「アプリ利用者には、若い層だけでなく、40代の地方在住ユーザーが増えていた。通信料金に悩みがある、こうした層のユーザーも含めて、もっとタウンWiFiを広めたかった」(荻田氏)

ユーザー増のための手段として、資金調達、IPOと同時に、大企業の傘下に入ることも検討していた荻田氏。今年の5〜6月ごろから業務提携先を模索しており、GMOインターネットグループに紹介されたのは7月ごろのことだったという。

「両社の連携は、GMOのプロバイダビジネスにも良い影響があるし、グループには広告事業もあるのでシナジーもある。『通信をバリアフリーに』をうたうタウンWiFiと、『すべての人にインターネット』をステートメントとして掲げるGMOインターネットグループとは、サービスの質も近いのではないかとプレゼンした」(荻田氏)

プレゼンは好評で、荻田氏はその後、GMOインターネット代表取締役会長兼社長・グループ代表の熊谷正寿氏と会食する機会を持った。熊谷氏との会話の中で「僕自身についても『いいね』と言っていただいた」という荻田氏。そのころからGMOインターネットグループへのジョインを検討し始める。

「ただ、僕自身、会社を売ったことがないので、怖かった」と荻田氏は当時のことを振り返る。「自分にとってもそうだし、ユーザーにとって、会社のメンバーにとって、M&Aが幸せな決断になるかどうか、最初はすごく考えました」(荻田氏)

そんな折、荻田氏はGMOインターネットグループに参画する企業幹部の会で、ざっくばらんに話をする機会があったという。グループには現在、112社の企業が参加するが「それだけ多くの各社から来た代表が、みんな楽しそうで、誇りを持って仕事をしている。『いいグループだなあ』という印象だった」と荻田氏はいう。

「熊谷さんはグループの経営スタイルを“梁山泊経営”と表現し、『多くの企業がある中でマイクロマネジメントはできないし、すべきではない』と話している。ジョインした企業の社長が自分で決めて、事業を進めた方がうまくいく、という考え方だ。週1回、グループ企業幹部の会を開くといった(一丸となるための)マインド面での仕組みだけ用意して、あとは任せるという形を取っている」(荻田氏)

荻田氏は「熊谷さんの『信頼して、最終的には任せる』という姿勢に、器が大きいなあと思った」と語り、「ここなら参加しても、幸せにやれる気がした」と明かす。ほかの企業と進めていた資本提携などの話は全て断って、GMOインターネットグループ入りを決めたという。「はじめに訪問してから、決まるまでは数カ月と早かった」と荻田氏は振り返る。

こうしてGMOインターネットの連結子会社となったタウンWiFi。既存株主のうち、荻田氏をはじめとする役職員以外の外部投資家は全て株式をGMOインターネットとGMOアドパートナーズへ譲渡(売却)した(金額は明かされていない)。資本業務提携を結んでいた各社については、資本提携は外れたが、事業面での提携はそのまま続けるという。

また社内のメンバーもタウンWiFiに残り、業務を続けている。社員にはストックオプションが付与されていたということで、売却により「少ない給料でスタートアップに入ってきてくれた彼らに、報いることができてよかった」と荻田氏は語っている。

「エグジット先として、買収の成功事例も増えた方がいい」

GMOインターネットグループへ参画したことで、今後のタウンWiFiはどのような面に力を入れていくのか。既にGMO側からは、GMOアドパートナーズがタウンWiFiと共同でサービス開発を行い、2020年春には位置情報データを活用した広告サービスの提供を目指すという発表を行っている。

タウンWiFiとしては、当初のとおり「ユーザー数を増やしたい」考えだ。「資金面と送客面でGMOインターネットグループの支援を得て、1000万MAUを目指したい」と荻田氏は話している。

実は広告配信サービスなどにより、タウンWiFiの収益は向上していて「いつでも黒字化できる状態」だと荻田氏はいう。「顧客はドラッグストアやコンビニと、それらの店舗へ商品を提供するメーカーだ。O2Oの文脈で『顧客がいつ店に行くのか知りたい』とのニーズがある。ユーザーがいつも朝、立ち寄るコンビニがあるとすれば、店に行く前に広告のポップアップを表示する、ということがタウンWiFiの仕組みでできるのだが、これがうまくいっている」(荻田氏)

ただ、このままユーザー数を直線的に増やしていくだけでは、いずれ事業も頭打ちになると荻田氏。「今は投資モードで、一気にユーザー数を増やすことを考えたい」と話している。

また荻田氏個人としては、創業した会社のエグジットを果たし、この後の進退をどう考えているのだろうか。荻田氏は「次の会社を作るとか、そういったことは今は全く考えていない」と述べ、「いずれ辞めるという気持ちもなく、このままGMOインターネットグループに残りたいと思っている」と打ち明ける。

荻田氏は「エグジット先として、M&Aが増えてきている中で、買収の成功事例も増えた方がいい」と考えているそうだ。「買収後にスタートアップがやる気がなくなる状況は良くない。M&Aが成立したとき、エグジットを果たした起業家にはフォーカスが当たりがちで『おめでとう』と言われることが多いが、買収した側も事業シナジー、利益、人材の面で良かったと思えるのが正しいあり方なのではないか。成功例が増えることで『もっと投資していこう』というモードになるように、いい事例を作りたい」(荻田氏)

荻田氏は「(スタートアップ)エコシステムとしての大企業との連携は、もっとあるべき」と語る。「GMOインターネットグループにももちろん、スタートアップとして参画するときの課題はあるけれども、『もっとよくしていきたい』と僕も思うし、中の人も『良くない部分は変えていこう』と言ってくれている。数年後に『あのときグループにジョインしてくれてよかった』と思ってほしいし、そう思ってもらえるように、GMOインターネットグループをさらによくしていきたい」(荻田氏)

タウンWiFiが成果報酬型集客ツール「WiFiチラシ」をリリース——企業へWiFi設置メリットを提供

通信キャリア各社が大容量のデータ通信プランの提供を始めて2年ほど経つが、月額料金はまだまだ高め。リーズナブルな通信プランを選び、月末になる度に通信キャリアの速度制限を受けるユーザーにとっては、スマートフォンのデータ通信量節約は、いまだに悩みの種だ。

タウンWiFi」は、そうした悩みを解決するためのWiFi自動接続アプリ。接続可能な無料の公衆WiFiを探して、自分でいちいち設定しなくても自動で接続・認証してくれる。2016年5月にリリースされ、2018年10月末時点でアプリ利用者は450万以上。日本以外にも34カ国でサービスを提供し、国内外のWiFiスポットにログインが可能となっている。

TechCrunch Tokyo 2016のスタートアップバトルで審査員特別賞を受賞した、タウンWiFi代表取締役の荻田剛大氏は、「どこでも無料でWiFiに接続できる世界を実現したい」としてサービスを展開してきた。

だがそこでネックとなるのが「小売店などのオーナーにWiFi設置への意欲が湧かないこと」。

「これまでタウンWiFiは『WiFi利用者が利用しやすいように』ということを前提に開発を進めてきた」という荻田氏。今年に入って、コンビニやカフェのオーナーなど、WiFiを提供する側の人たちと会う機会が増え、話を聞いていて「WiFiオーナーがWiFi設置の利益を享受できていない」と感じるようになったそうだ。

「WiFiオーナーは、自店のWiFiがどれぐらい使われているのか、どれくらい集客と収益につながっているのかを把握できていない。WiFi接続のために月々5000円とか1万円とかを負担しているのに、その効果が分からない状況だ。ユーザーだけでなく、『WiFiを入れて良かった』とオーナーにも思ってもらいたい。そうすることがWiFi設置数が増えることにつながる」(荻田氏)

そこでタウンWiFiが打ち出したのが、11月29日にリリースされた成果報酬型集客ツール「WiFiチラシ」だ。

WiFiで集客、来店検知で効果測定も

タウンWiFiでは、7月に「WiFiパーソナライズ接続機能」を追加。これまでに蓄積してきたWiFiの混雑状況や接続速度とユーザーの利用状況に関するビッグデータを掛け合わせ、ユーザーの属性や時間帯により接続を自動判定することで、より快適なWiFi環境を提供する仕組みを基本機能として搭載した。また、8月には自動ログインの対象地域を世界34カ国へ拡大。これらは、「ユーザーに不便な体験をさせない」という、いわば“守り”の施策だ。

これに対して今回リリースした「WiFiチラシ」は“攻め”の施策、と荻田氏はいう。

WiFiチラシは、WiFi設置店舗がタウンWiFiのユーザーを対象に、スマートフォンのプッシュ通知の形で来店を促すメッセージ、すなわち「デジタルチラシ」を配信する機能だ。メッセージは、ユーザーの性別・年齢以外に、店舗からの距離や来店経験の有無・頻度を設定して配信することができる。

冒頭にも挙げたが「WiFiオーナーはWiFi設置のメリットを感じ切れていない」と荻田氏は話している。これまでにWiFiオーナーがユーザーにアピールできていたことは「認証完了ページにPRページを表示すること」ぐらい。だが楽天インサイト(旧・楽天リサーチ)が2018年に行った「フリーWiFi広告効果に関する調査」によれば、フリーWiFiを利用するユーザーの約9割は、PRページについて「記憶に残らない・役に⽴たない」と答えていて、この方法はあまり有効ではないことが分かっている。

「WiFiを導入し、タウンWiFiでユーザーが接続することで集客につながった、という実感がWiFiオーナーにできれば、WiFiがどこでも使える世界がより近づく」(荻田氏)

WiFiチラシの利用料金は、初期費用・固定費は無料、来店数に応じた金額のみがカウントされる成果報酬型だ。自動的にABテストを行うことで、来店した人の中からメッセージを見なくても来た人の数を引いて、集客効果を算出するという。

「観光協会やカフェのオーナーと話していると『紙のチラシでは費用対効果が分からない』と言う声が挙がる。WiFiチラシなら、リアルタイムにリーチが分かり、来店状況も分かる」(荻田氏)

テスト導入を行った企業・団体からは「初めて効果が分かる集客手法を手に入れた」「非会員の潜在客が来店客に変わったという効果を実感した」「完全成果報酬型で費用対効果が明確。新規顧客も来場し、手ごたえを感じた」といったコメントが寄せられているそうだ。

荻田氏は「WiFiを入れるだけで集客効果が分かるとなれば、タウンWiFiを使う動機になる。『WiFiを入れる店なら、必ずタウンWiFiを使う』というようなツールとしていきたい」と語っている。

「WiFiを使いたいユーザーは今後、2020年のオリンピックに向け、インバウンドで伸びると思う。旅行者は店でゆっくりしているときにWiFiを使いたいはず。でも日本では個店でWiFiを提供していないところが多い。これはメリットが分からないからではないか。このサービスの提供でメリットが分かるようになれば、より『どこでもWiFiが使える世界』を実現できる。そういう使命感を持ってやっている」(荻田氏)

「タウンWiFiは今後も提携先の電通や国際興業との連携で、新しいサービスやツール開発を進める」と荻田氏は話す。「WiFiチラシによる集客情報以外でも、ユーザーの導線や、ほかにどういう店を利用しているかが分かる。個人を特定しない範囲で提携先に提供し、分析した結果をWiFiオーナーにも提供していく」(荻田氏)

WiFi自動接続アプリのタウンWiFiが2.5億円を資金調達、電通・国際航業との提携でマーケティングツール開発へ

接続可能な無料の公衆WiFiを探して自動で接続・認証してくれる「タウンWiFi」は、スマホの通信量を削減して、通信キャリアの速度制限を気にせずにネットが利用できるようになるアプリだ。

2016年5月にリリースされ、2016年11月に開催されたイベント「TechCrunch Tokyo 2016」のスタートアップバトルでは審査員特別賞を受賞したこのWiFi自動接続アプリは、2018年4月現在、ダウンロード数が250万以上となった。現在、国内外200万以上のWiFiスポットにログインが可能で、日本以外では、韓国、アメリカ、台湾、香港、マカオでサービスを展開している。

アプリを運営するタウンWiFiは4月4日、総額2.5億円の資金調達実施を発表した。第三者割当増資はセプテーニ・ホールディングス電通日本アジアグループベクトル、千葉功太郎氏などを引受先として行われた。そして既存株主のインキュベイトファンドからも新たに追加増資を受けている。

同社は資金調達と同時に、電通および日本アジアグループ傘下の国際航業とそれぞれ業務提携契約を締結した。提携により、WiFiオーナーのマネタイズを実現するマーケティングツール開発に取り組んでいく。

タウンWiFi代表取締役の荻田剛大氏は「世界中のWiFiに自動的につながるサービスを目指そうとしたときに、ネックとなるのが、小売店などのオーナーがWiFi設置への意欲が湧かないこと。月額1000円、1500円と通信費もかかり、『インバウンド需要で集客ができる』などと言われても、設置効果に実感がないのが実情だ。そこで、WiFiを活用したマーケティングツールを用意して、店舗への集客の仕組みを作ろうと考えた。その仕組みづくりのパートナーとして、今回2社との提携に至った」と提携の目的について説明する。

電通には、位置情報を活用した広告プラットフォームに、WiFiでの端末の接続履歴など、タウンWiFiが収集する情報を提供して連携。ユーザーが小売店などに来店したときの接続状況を検知し、来店頻度などによるセグメントで広告を配信できるようなサービスを開発し、より効率的な集客につなげていく。

国際航業は、地理情報データを使った出店コンサルティングや、ポスティングチラシなど広告の配布プランの支援などを行っているが、今までは静的な情報を元にサービスを提供してきた。提携により、ユーザーの現在位置での分布や移動経路など、タウンWiFiがリアルタイムで集計する動的なユーザー情報に基づき、小売店向けの新しい商圏分析などのマーケティングツールを共同で開発していく。

調達資金は、ユーザー獲得のためのマーケティングに使うと荻田氏は話している。ユーザーの行動データを増やすことで、WiFiオーナーがよりWiFiを使ったマーケティングをやりやすくして、WiFi設置数を増やし、日本のWiFi環境をさらに良くしたいとの考えだ。

また、これまで接続可能なWiFiを拡大する際、一つ一つ人力で調査していたWiFiの情報収集と解析をAIで実現するシステム「WiFi認証AI」の開発も加速する。

荻田氏は「我々は通信サービスだと考えている。WiFiをアグリゲートして、世界中のどこでもネットが使える環境を実現したい」と語る。

タウンWiFiでは近々、世界30カ国のWiFiサービスに対応する予定だということだ。荻田氏は「現地のユーザーもネットが使えて、旅行者も現地SIMがなくてもWiFiでネットを利用できる、というようなグローバル通信サービスを目指す」として、「その実現には、WiFiを設置してもらうためのモチベーションを上げる仕組みが必要。他の国でも、WiFiオーナーの集客につながるマーケティングツールは提供していくつもりだ」と話している。