無名の作家や映画監督を発掘してハリウッドに送り込むスタートアップたちのエンターテインメント改革

5月11日、Netflixはアメリカ全国で学年末を迎える十代の若者向けに、コメディードラマ『The Kissing Booth』を公開した。

6月までに、このドラマは若い十代から思春期層の若者の間で大ヒットとなったのだが、その権利を所有する企業Wattpadは、世界初の画期的なシステムを備えていた。Wattpadの出版プラットフォームにBeth Reeklesが書き下ろしたこのドラマによって、同社の宣伝文句のとおり、このプラットフォームが、エンターテインメント業界のシナリオや才能を発掘する方法に新たな方向性を与えるものであることが実証されたのだ。

Netflix’s latest hit ‘The Kissing Booth’ is a Wattpad success story


Netflixの最新ヒットドラマ『The Kissing Booth』はWattpadのサクセスストーリー(本文は英語)

この映画の成功の陰には、夢の工場ハリウッドの扉を開こうとする、いくつもの若いスタートアップによる動きがあった。創作活動を行う大勢のプロたちを、二次創作やユーザーが制作したコンテンツの波に乗せて、パラマウントの撮影所(またはディズニーの撮影所やソニースタジオ)まで運ぼうというものだ。

「エンターテインメント業界が明らかに行き詰まっているこの時期に、物語を探し出す方法が進化しているのです」とWattpad Studioの責任者、Aron Levitzは話す。

YouTubeも(Vineアプリは短命に終わったが)Instagramも、潜在的な才能発掘のためのプラットフォームを開発した。AmazonAppleFacebook、(ここでも)Instagram、Netflix、(そしてまた)YouTubeは、テレビと映画の配給システムを粉砕したが、トップを狙うこれらのプラットフォームも従来型のスタジオも、シナリオの不足に苦しんでいる。だが(その多くは)、ヒットする確証が持てない作品に何百万ドルもの予算をつぎ込む勇気がない。

ハリウッドは、大衆を楽しませようと、他のメディアからアイデアを拝借(または盗用)してきたが、その新しい話を採取しにゆく場所は、連続物の畑に限定されている。つまり、漫画、昔のテレビ番組や映画、大ヒットした若年成人向けの物語などだ。

たしかに、そこには無数の花が咲いているが、新しい技術を有する企業は、別の畑にも新しい才能が花開いていることを知っている。それを活用すれば、企業は潤い、観客も喜ぶはずだ。

WattpadやTongal(監督とカメラマン向け)や、Legion Mのような制作向けの資金調達プラットフォームは、新しい才能を引っ張り上げて、NetflixやAppleといった成功した新しいプログラムやプラットフォーム、さらには、ますます細分化するメディアの世界で注目を集めたい何百ものネットワークに固定客を増やすため、企業が望むものを与えようとしている。

しかし、これまではなかなかうまく運ばなかった。およそ10年前、Tongalが創設されたころ、エンターテインメント業界は、今とはまったく違っていた。

10年前、Netflixは、DVDの購読者がストリーミング動画も見られるようにした。そのほとんどは、制作会社やスタジオがすでに大儲けした古い映画や全国配信されたテレビ番組だ。これが、競争が激化しつつあったクリエイティブな業界での、才能の囲い込みと観客争奪のレースの火蓋を切った。新規参入者は、毎回、新しいレースに参加することとなった。

その当時、Tongalは新しい才能を発掘するためのメカニズムであり、ユーザーが制作したコンテンツの中で気に入ったものを有名ブランドに有料で提供していた。そして同社は、Insight Venture Partnersから1500万ドル(約16億8000万円)を調達し、ソーシャルメディアの人気の高まりを利用して、口コミで話題になりそうな動画を有名ブランド向けに制作するようになった。

Tongal Raises $15M For Platform That Lets Anyone Compete To Make Branded Video Campaigns


誰もが有名ブランドのキャンペーン動画を作れるプラットフォームにTongalが1500万ドルを調達(本文は英語)

Tongalは今でもユーザーが制作したコンテンツを元に制作を行なっているが、昔と違うのは、そうした動画や作家が何百万ドルも稼げるようになったことだ。そして、ファンに力を与え、刺激し、新しいタイトルに、より直接的に、より頻繁に関われるようにする能力を備えたことだ。同時にTongalは、制作スタジオに幅広い才能を紹介するショーウインドウの役割も果たしている。

このプラットフォームで作品を作ったTucker Barrieは、アイムスのためのソーシャルメディア用短編動画などを作っていたが、映画『犬ヶ島』のようなプロジェクトのアニメーターとして活躍するまでになった。「Tongalは、経験の少ない人たちが経験を積んで、名前を売るためのいい場所です」とBarrieは話している。

昨年、Tongalは、『WILD After Dark』という番組の制作でナショナル ジオグラフィックと契約を結んだ。これは、ナショナル ジオグラフィックWILDシリーズでは初めての深夜帯の番組で、Tongalプラットフォームのメンバーが制作した動物に関する短編作品が放映されることになっている。作品公募は2月から始まった。

最近では、TongalはWattpadと提携し、そのクリエイターのネットワークを通じて、WattpadがヒットさせたSFスリラー『Expiration Date』のトリートメントの募集を開始した。7月、Tongalは映像作家に募集をかけ、そこから3組をWattpadが選出する。それらの作家には予算が与えられ、概念実証のためのシリーズのトレーラーを制作することになる。

その後、WattpadとTongal、そして配信パートナーであるSYSYとで最優秀者を選び、デジタルでパイロット・エピソードを制作する予算を提供する。それには、SYFY.comが、「ファン・クリエイターズ・プログラム」の一貫として、全シリーズを制作するチャンスも含まれている。

「TongalとWattpadとの提携は、私たちの才能ある人たちのためのオープンなプラットフォームを通じて、どのように、誰がコンテンツを作るのかを変革することで、ハリウッドの脚本のページをめくることになります」と、Tongalの共同創設者で社長のJames DeJulioは、当時の声明で語っていた。「これらの新しい世界的なコミュニティーは、多様で情熱的な作家たちによって構成されています。実際に今、彼らは自分が見たい番組を作っています。この革新的で、ファンによるファンのための転換のために、SYFY.comが扉を開いてくれたことを、本当に嬉しく思います」

これは、ひとつのネットワークのためのプロジェクトでの、TongalとWattpadとの2回目のコラボとなる。どちらの企業も、片や映像面に、片やストーリー面にフォーカスした番組制作のためのクリエイティブなプラットフォームを提供していることで親和性がある。また同様にCW Seedでの放映を巡って競い合い、Wattpadのもうひとつの人気ドラマ『Cupid’s Match』(ネタバレ情報:あんまり面白くない)の制作でも競い合っていた。

 

「これは、WattpadとWattpad Studioの偉大なるひとつの証です」とWattpad Studioの責任者、Levitzは2月のインタビューで話していた。「私たちが、公に、力強く話すことができたのは、これが初めてだと思います」

Wattpadでは、『Cupid’s Match』が320万readを記録し、その口コミによる人気の広がりにCW Networkが興味を示した。「私たちは視聴者の力を活かして、CWのような企業に放映したいと思わせることができました」とLevitzは言う。「私たちのプラットフォームには4億本の話があります。私たちは、私たちのデータ、私たちの視聴者、そして私たちの話を見て、そのデータを使って、適切なパートナーに適切な物語を提供できるのです」

パートナーも揃いつつある。Sony Pictures TelevisionはWattpadの『Death is my BFF』の権利を購入した。Huluは『Light as a Feather』の発注契約にサインした。TurnerUniversal Cable Productions(NBCUniversalの一部門)、eOneParamount Picturesといったスタジオやネットワークも、Wattpadとの共同制作の契約を結んでいる。

Tongalと同様、Wattpadもまた、ハリウッドのプレイヤーになるための回り道をしている。Wattpadは、に二次創作や古典作品の電子書籍コミュニティーの運営者としてスタートした。やがて、二次創作の市場が大きく成長し、エンジェル投資家のコンソーシアムから資金を調達してトロントに本拠地を構えた同社は、今年の初めには、中国のインターネット大手Tencentを含む投資家コンソーシアムから5100万ドル(約57億円)の資金を得るまでになった。Tencent(とそのパートナーであるスタジオ)は、Wattpadの月間6000万人というユーザー数に惹かれたようだ。

Wattpad’s storytelling app, now with 60M monthly users, adds a subscription service


Wattpadの物語制作アプリは6000万ユーザーを獲得し、購読サービスを追加(本文は英語)

二次創作が映画業界にもたらす影響力は数億ドル規模になるという信念は、『フィフティー・シェイズ』の成功が根拠になっている。Twilightの二次創作から派生したこのベストセラー本は、1億5000万ドル(約168億円)という驚異的な価格で3部作の映画化権が売られた。

シリーズ最終作品が公開された時点で、興行成績はすでに10億ドル(約1120億円)を超える勢いだった。

この10年間、ハリウッドは巨額な権利の購入とファン主導による原作の提供に依存して、劇場やインターネットで大きな数字を生み出してきたとDeJulioは言う。

「ファンは、そうした権利の購入に必要不可欠なものです」とDeJulioは話す。「今は非常に奇妙な時代です。……マーケティングに多額の資金がかかり、それがいろいろな意味でエンターテインメントの自由を奪っています」

DeJulioは、Tongalを、一人の人間が他の人に影響を与え支援できるプラットフォームだと見ている。

「スタジオは、一度ヒットを出すと、ファンのコミュニティーを通して、また彼らと関わることで、宣伝ができるだけでなく、仕事(新しいコンテンツの制作)もできることに気がつくのです」とDeJulioは話す。

米カリフォルニア州ロサンゼルス、マウント・リーのハリウッドヒルズ

もしWattpadとTongalが、彼らのユーザーのネットワークを使って才能を発掘し伸ばすことができるなら、Legion Mは、そのジャンル化されたコンテンツのユーザー・ネットワークを利用して、新しい作品制作に資金を出したいと考えている。

この制作スタジオのスタートアップは、2回にわたる株式投資型クラウドファンディングで300万ドル(約3億3600万円)を調達し、『シンクロナイズドモンスター』アン・ハサウェー、ジェイソン・サダイキス主演)とニコラス・ケイジの新作で、すでにカルトの名作と謳われている『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』といった人気のインディー映画で大きな報酬を手にしてる。同社の資金調達キャンペーンを支援した株主に配当がある限りは、その行き先は不透明だ。とくに、同社のプロジェクト『バッド・サマリタン』(新バージョンの『ドクター・フー』で人気のデイビッド・テナント主演)が酷評されて以来、わからなくなっている。

インターネット企業をいくつも立ち上げたPaul ScanlanとJeff Annisonが創設し、オースティンに本社を置く劇場チェーンAlamo Drafthouseなどのパートナーの援助を受けているLegion Mの目標は、制作プロジェクトに投資してくれるファンを100万人集めることだ。

セールスとマーケティングにファンの力を借りて、すでに十分な固定客がある作品を世に送り出すことで利益を得る、というのが彼らの考えだ。

「エンターテインメント企業はファンが所有するほうが、ウォール・ストリートに所有されるよりいいと私たちは信じています」と、Legion Mの新しいクラウドファンディング・キャンペーンの発表声明の中で、共同創設者でCEOのPaul Scanlanは話している。

Legion Mが提携するプロジェクトには、実際の投資よりも、ファンとの関わり合いを基本にした活動が多いものがある。事実、同社は大ヒットした『シンクロナイズドモンスター』の制作会社とはなっておらず、ファンのネットワークを使ってマーケティングを支援していると、インタビューの中で監督が話していた。

ScanlanとAnnisonは、モバイル機器向けの初期のストリーム配信技術を開発したMobiTVを創設している。その後、New York Rock Exchangeを立ち上げた。好きな歌の流動性のない株式をファンが購入できるようにする企業だ。これは投げ銭のようなものだ。購入したものに実際の価値はないため、相場の上昇もなければ、法律的に面倒なこともない。

Rock Exchangeとは違い、平均的な投資家は、この2人の共同創設者が米証券取引委員会の新しいクラウドファンディングに関する規制に従って、クラウドファンディングで提供する実株を買っている。そして彼らは、商業的に競争力のあるコンテンツを作り出す力が、これまでになくファンや消費者に備わっているという説に頼ろうとしている。

こうした努力を行なっているのは、Wattpad、Tongal、Legion Mだけではない。Seed&SparkCoverflyThe Black Listといった企業も、新しいアーティストやクリエイターを掘り出して、エンターテインメント業界の発展に貢献しようと頑張っている。資金面においては、MovieCoin(新しい映画を制作するためのトークン化された資金提供手段の先行販売を始めたところ)やTaTaTuのような新しい暗号化通貨が、映画好きの人々に、もうひとつの(理想的にはより透明化された)映画への資金提供の方法を与えたいと考えている。

「ハリウッドは、エンターテインメント業界に参入しよとする者には難しい場所です。コンテンツ制作と投資のプロセスを通して知ったことは、どのプロジェクトも観客を求めているということです」と、AnnisonはThe Niner Times(ノースカロライナ大学シャーロット校の校内新聞)のインタビューに応えて話していた。

「ハリウッドは、踏み込もうとするにはあまりにも大きな世界です。巨大な企業と一緒にやっていくには制約があります。本質的に、ウケ狙いなのです。映画作りの芸術面と、エンターテインメントのビジネス面との間には、はっきりと線が引かれています。そのため、とっても歩きにくい街になっています」

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

 

Netflix、Q2新規登録者数が500万人超えーーオリジナルコンテンツへの注力が奏功か

Netflixの新規登録者数が業界予想、そして彼ら自身の予想を2四半期連続で大幅に超えた。

本日(現地時間7月17日)の発表によれば、2017年第2四半期の新規登録者数は520万人で、同社の予測値の320万人を大きく上回った。このニュースを受け、株価は一気に9%上昇。新規登録者のうち400万人以上は海外のユーザーとされているが、北米外への進出に力を入れている同社の動きを考えると、国内の新規登録者数が100万人以上伸びたというのも驚きだ。

そして登録者数こそ、投資家が常に気にしている数字だ。決算書は各数字の算出方法などを変化させることで、ある程度実態よりよく見せることができる一方で、将来の経営数字に影響を及ぼすのは、他でもない登録者数(Facebookで言うところのユーザー数)なのだ。さらにNetflixは現地市場をほぼ支配しているが、海外市場にはまだまだ伸びしろがある。

登録者数の伸びには、国内だけでなく海外でも人気を博しているNetflixのオリジナルコンテンツが関係しているように思える。今回発表されたレポートの中には遠回しな表現もいくつか見られたが、注目すべきは同社の総登録者数の約半数が海外ユーザーで、「2017年の年間決算では海外市場が利益に貢献するだろう」と予測している部分だ。後半は少しわかりづらいものの、とにかく海外事業が予想よりもうまくいっているということは間違いないようだ。

「コンテンツの人気を過小評価していたこともあり、第2四半期には全ての主要市場で予想よりも登録者数が伸びた」と四半期報告書には記されている。

Netflixが1月に発表した昨年の登録者数の純増は、国内が200万人、海外が500万人で、これも当時の投資家予想を大きく上回っていた。同社はコンテンツ制作にかなり力を入れているが、国内市場が飽和状態に近づくにつれて、海外ユーザー数を増やす方法を模索しなければならなかった。最近では『3%』をはじめとするオリジナルコンテンツの制作が功を奏し、海外市場での勢いも順調だと語っている。

四半期報告書によれば、第2四半期の収益は27億9000万ドル、EPS(1株あたり純利益)は15セントだった。一方、アナリストの予想は収益が27億6000万ドル、EPSが16セントだった。収益面ではほぼ予想通りだが、(繰り返しになるが)ここで重要なのは登録者数だ。

高品質なオリジナルコンテンツ制作の努力は、実際に実を結びはじめているようで、今年のエミー賞にもNetflixのオリジナル作品がいくつもノミネートされていた。しかし、エミー賞ノミネート作品をうまく活用することで、同社はまだまだ登録者数を伸ばせられるだろう。海外市場は需要過多の状態にあるため、国内外両方のユーザーにとって魅力的なコンテンツを制作している企業だという評判を確立できれば、それも難しい話ではないはずだ。ちなみにNetflixは、今年だけで60億ドルもの資金をオリジナルコンテンツ制作に投じる予定。次から次へと新しいコンテンツを求めるユーザーのことを考えると、この数字は今後さらに増えていきそうだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake