LIFULL・ゼンリンなどが不動産ID発行システム試用版の公開に向け開発・運営協議会を設立

LIFULL・ゼンリンなどが不動産ID発行システム試用版の公開に向け、開発・運営協議会を設立

LIFULLゼンリン、家賃保証・賃貸保証サービスの全保連、不動産テック特化型VCのデジタルベースキャピタルは10月12日、「一般社団法人不動産情報共有推進協議会」(PROP。Platform of Real Estate Open data Promotion)の設立を発表した。代表理事は松坂維大氏(LIFULL 不動産ファンド推進事業部 ブロックチェーン推進グループ長)。

なお11月5日13:00から設立記念イベントを開催予定としている。

今後は、不動産取引・不動産流通の活性化に向けて不動産情報共有インフラの開発・提供を進めていく。不動産ID発行システムの試用版の公開にあたり、データの登録や活用の実証実験を行うパートナー企業を広く募集。不動産情報の利活用、業務効率化に関心のある事業者であれば参加が可能としている。

不動産取引は、様々な関係者が関与するため、正確で鮮度の高い情報が安心安全かつ効率的な取引の実現のために必要となる。

しかし不動産は、世の中にひとつしか存在していないにも関わらず情報が一元管理されず、様々な企業・場所でデータが重複管理されていたり、記録すべきデータが保管されていなかったりといった問題が生じている。

これら課題解決に取り組むため、LIFULL、ゼンリンらが中心となり、2018年10月よりブロックチェーン技術を活用した不動産情報の共有化を目的としたADRE不動産情報コンソーシアムを設立し、活動を推進。

2019年7月、物件情報の特定・識別を実施するため、不動産IDの開発に着手。2020年4月には丸紅、GA technologiesら新メンバーも加盟。2020年10月に不動産ID発行システムのβ版を公開する運びとなり、今後不動産情報共有システムの開発・運営を組織として行うために、PROP設立に至ったとしている。

PROPは、すべての法人・個人が不動産に関わる情報を自由かつ安全に利用できるプラットフォームの構築を実現し、企業や組織のサービスの効率化や新規創出を促すことで、不動産業界のDXの推進と、エンドユーザーのより良い暮らしや働き方に貢献することを目的に活動するとしている。

カテゴリー: ブロックチェーン
タグ: 全保連ゼンリンデジタルベースキャピタル不動産IDLIFULL日本

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日本でも盛り上がりを見せる不動産テック。2018年9月には不動産テック協会が設立され、スタートアップへの出資もよく目にするようになっている。

そんな中、7月5日には不動産テック特化型のファンド設立が発表された。2月に創業したデジタルベースキャピタルが運用する「デジタルベースキャピタル1号投資事業有限責任組合」は、平和不動産やイタンジ創業者の伊藤嘉盛氏ら、複数からのLP出資を受け、6月末にファーストクローズを迎えた。

規制や業界慣習の強い業界で起業家をサポート

デジタルベースキャピタルを創業したのは、代表パートナーの桜井駿氏だ。みずほ証券での営業、NTTデータ経営研究所でのコンサルティング業務を経て、不動産テックのハブとなる場を提供したいとの思いから起業した。

デジタルベースキャピタル代表パートナー 桜井駿氏

「もともと、みずほ証券時代からSkyland Venturesのイベントを手伝うなど、スタートアップ界隈には興味があった。スタートアップとは対極の大手企業で仕事をしていたけれども、スタートアップの世界をより良くしたいと考え、コンサルティングも経験しようと考えた」と桜井氏は経緯を説明する。

コンサルタントとしての業務のかたわら、桜井氏は2017年1月からFintech協会の事務局長としても活動。同年12月には不動産/建設スタートアップのコミュニティとしては日本最大級の「PropTech JAPAN」も創設し、運営を続けている。また、LIFULLやゼンリンといった不動産にまつわる各業界のプレーヤーが参加する「不動産情報コンソーシアム(Aggregate Data Ledger for Real Estate:ADRE)」の立ち上げにも関わり、事務局長を務める。

「金融業界、そしてコンサルタントとして不動産業界にも関わり、またFintech協会の事務局長としてスタートアップとの接点も持つ中で、規制産業におけるスタートアップ支援は大変重要で、自分が手がけるべきだという認識に至った」と桜井氏はいう。

「不動産業界は、Fintechに比べても参入ハードルが高い分野で、独特の慣習や業界構造が特徴だ。新規参入するスタートアップに必要なものはすべて、デジタルベースキャピタルで提供していきたい」(桜井氏)

デジタルベースキャピタルでは、ベンチャーキャピタルとしての投資をメインの事業としながら、大手企業向けには不動産テックに関わるイノベーション実現を支援する事業も手がけている。また収益事業ではないが、スタートアップ向けコミュニティのPropTech JAPAN運営を、引き続き実施していく。

PropTech Japanでの活動は、大きく3通りに分けられる。1つはミートアップで、不動産テックやFintech、建設テックのスタートアップの交流の場として、ほぼ毎月、平均100名規模で実施してきている。2つ目は国土交通省を中心とした政府との連絡会議。コミュニケーションを図ることで、スタートアップの新しいアイデアや事業に理解を得ることが目的だという。そして3つ目として、海外にある同じようなコミュニティとの連携も行っている。

桜井氏は「コミュニティ運営については、不動産テックスタートアップのエコシステムをつくる目的がある。行政当局、大手企業、そしてスタートアップの三者の連携が重要だ」と述べている。これは先だって関わってきたFintech領域でも同じだったという。

桜井氏には、2018年度、経済産業省新公共サービス検討会の委員を勤めた経歴もある。「金融、不動産ともに、規制対応や業界慣習への対応があり、ディスラプトが難しい分野。とはいえ事業者は使う人の生命・財産を守る必要があるため、利用者保護は重要」として、これまでの知見・経験を生かし、スタートアップが手がける事業の適法性確認や、そのままでは事業化できない場合は実現のためのサポートなども、同社で行っていく予定だ。

「PropTech JAPAN運営を2年ほど続けてきた中で、大手企業もアクセラレーションプログラムの実施など、アクションを起こすようになってきた。Fintech協会事務局に参加してきた感覚からも、自分でもサポーターは向いていると思う」(桜井氏)

不動産テックはデジタル化からLaaSへ

海外の不動産テック事情について桜井氏は「Fintechと比較すれば、海外が日本よりすごく進んでいるというわけではない」と分析する。コミュニティについても、不動産テックでは「世界同時的に立ち上がり、対等な関係で連携が進んでいる感触」ということだ。コミュニティの属性が近いためか、金融業界から不動産テックの分野へ移ってきている人も多いそうだ。

桜井氏によれば、この分野では世界的に「LaaS(Life as a Service)」、すなわち生活に必要なサービスを継続的に提供する事業が注目を集めているという。「不動産テックへの投資は2つの段階を踏んで進んできた。1.0では、業規制の中にある事業をデジタライゼーションすることによる、効率化が対象だった。そして2.0がLaaSだ」(桜井氏)

桜井氏が例に挙げたのは、今年3月に日本にも進出したインド発のホテル/賃貸アパートメントサービスのOYOだ。「もともと一括借り上げによるサブリースがOYOのサービスの核。自社物件確保により、仲介を必要とせず、オンライン契約を可能にしている。その先で、住人の家具・家電のレンタルや水の宅配などのサブスクリプションサービスを横に連携することで、豊かに暮らせる世界の実現につなげられる」(桜井氏)

桜井氏はさらに、不動産情報コンソーシアム(ADRE)が手がける不動産にまつわるデータの収集により、新たな不動産テック事業の創出も期待できると考えている。

「例えばコワーキングスペースで、WeWorkの料金は同じWeWork同士であればサービスサイトで比較して選べるが、リージャスなど他のサービスと横並びで比較はできない。これは個人のコリビングスペースでも同じこと。中国では「Ziroom(自如)」といった不動産賃貸プラットフォームのサービスが既に始まっており、こうしたサービスでは情報が申し込み時点で収集できるしくみが確立している」(桜井氏)

桜井氏は「ファンドでは、サブリースのように不動産取引と金融とが混じり合うエリアの事業や、家具レンタル、不用品の収納サービスといった住居に関連したサブスクリプションサービスなどにも出資していきたい」と話している。

また転居などの人の動きに合わせて発生する手続きにも注目しているという。「家賃保証会社など、現状ではユーザーが選択することはできず、オーナーや不動産会社の指定に合わせることになるが、これは『あるべき姿』ではない。本来はユーザーが自分で選べるようにするべき。こうした保証などの領域に関しても、IT化やサービス間の横連携でデータが取得でき、サービスにつなげられると考えている」(桜井氏)

桜井氏の調査では、日本の不動産スタートアップは約80社、建設スタートアップの20社を加えても100社規模で、約4000億円市場だという。一方、Fintechスタートアップ市場は200社、1兆円規模とほぼ倍の域にある。桜井氏は「ファンド設立により、不動産テックでもその規模を目標にしたい」という。

デジタルベースキャピタルのファンドでは、シード期のファイナンスをサポート。1号ファンドは総額10億円規模で、2020年春のファイナルクローズを目指す。

目標値に比べるとファンド規模が小さいようにも思えるが、桜井氏によれば「実は前職を退いてから間がなく、営業がこれから」とのこと。創業とファンド立ち上げのきっかけは、2018年秋、PropTech Japanで懇意にしていたイタンジ創業者の伊藤氏が、不動産テック業界への思いを語る桜井氏に「桜井さん、それほどスタートアップを支えたいのなら、ファンドを立ち上げたらどうか」と話したことだったというから、かなり急ピッチでの会社設立・ファンド組成と言えるだろう。

桜井氏は「今後、大手企業にも投資参加を呼びかけていく。はじめは小さくファンドをつくって、数千万円から5000万円規模の出資を10〜20社のスタートアップ対象に行っていく」と述べている。対象となるスタートアップも何件か検討が進んでいるそうだ。

金融・コンサル時代から「いつかはやりたかった」というファンド設立。「スタートアップが好きで(コミュニティなど)いろいろやっていたら、こうなった」という桜井氏は「まずはスタートアップを成長させることが大事」と語っていた。9月には不動産テックに特化したスタートアップのピッチカンファレンス「PropTech Startup Conference 2019」の初開催も予定しているという。