年間売上高11億円のスタートアップがVCからの資金調達に18カ月かかった理由

2006年、Joseph Heller(ジョセフ・ヘラー)氏は中国に行き、そこでそれからの10年間製造業について学んだ。その経験を生かして最終的にThe Studio(ザ・スチュディオ)というスタートアップを立ち上げた。スモールビジネスのアイデアを持つ人々を完全にデジタルな方法で中国のメーカーとつなぐ構想だった。

同氏は2016年までに会社を年間1000万ドル(約10億円)、世界各地に100人の従業員を擁するビジネスに育てた。だがヘラー氏は、米国での資金調達に関して、シリコンバレーにコネがない部外者がドアを開けるのは容易ではないと思った。

同氏は踏ん張り、2018年にIgnition PartnersからシリーズAで1100万ドル(約12億円)を獲得し、ビジネスを拡大することができた。だが同氏は、シリコンバレーのアーリーステージのベンチャーキャピタルから得られる資金と知見が早い段階で手に入れば、もっと上手くやれたのではないかと考えた。

TechCrunchは最近ヘラー氏と会い、外部の支援がほとんどない状態で一から会社をどう立ち上げたのか、その際の資金調達はどう進めたのかについて聞いた。

はじめに

ヘラー氏は中国滞在中、製造業の業界全体を把握し、大手ブランドが中国で何かを製造する支援を行う素晴らしいコンサルティングビジネスを築くことができた。だが、もっとできることがあると考えた。特に大規模な工場などが通常求めるよりもはるかに少ないバッチで、中国においてモノを製造したい中小企業を支援するチャンスがあると見た。

後者ははるかに難しい。ヘラ―氏は、Shopify(ショピファイ)のようなプラットフォームを使ってオンラインで商品販売する中小企業を支援するビジネスチャンスがあるかもしれないと感じた。そうした中小企業は商品を製造する手段を欠いていた。

「誰でもShopifyにウェブストアを開設し、メッセージを受け取るためにInstagram(インスタグラム)を使えるようになったことについて、私はクレイジーだと感じた。小さなブランドでもそうしたものすべてが使えるようになったが、製造においてはそうではなかった」とヘラー氏はTechCrunchに語った。

同氏は、中小企業が中国のマイクロファクトリーにカスタム商品を簡単に発注できるようにする会社を立ち上げるというアイデアに取り組むことに決めた。中小企業に大手ブランドと同様の機会を、ただし少ないバッチで提供するというものだ。このアイデアを具現化したのがThe Studioだ。

「当社は基本的に中国のマイクロファクトリーとの関係構築に専念している。少ないバッチの製造ができるようにマイクロファクトリーをトレーニングし、中小企業がそうしたマイクロファクトリーに発注できるソフトウェアを作った。中小企業は3万点を注文する必要はなく、100点から発注できる」。

画像クレジット:The Studio

ミーティング確保に苦労

ヘラー氏が資金の模索を始めたとき、会社は年間売上高1000万ドル(約10億6000万円)のビジネスに育っていた。VCの関心を引き寄せるのに十分だと確信した。

同氏はThe Studioを苦労して育て上げ、その分野で積んだ何年もの経験を元に健全なアーリーステージ企業に成長させた。そしてマーケットに登場させた。プロダクトとメーカーをマッチングできることを証明し、顧客もついた。資金調達は確実にできるように思われた。

しかし実際には、ヘラー氏はミーティングを確保するのに苦労した。黒人であるヘラー氏は、黒人の創業者はベンチャーキャピタル会社にアクセスするのが難しいかもしれないと話す一方で、コネを持っていない創業者は概してVCにアクセスし辛いという大きな問題の一部だと考えている。

「事業を始める際に、VCへのアクセスを持たない人もいる。これは単に黒人だからという問題ではない。どちらかというと、VCがかなり排他的で、コネを持っている白人が大半を占める傾向にあるからだと思う」とヘラー氏は述べた。

そして「もしあなたがシリコンバレーにいるわけではなく、またかなり排他的なVCクラブに属していないのなら、基本的には資金調達することはほぼ不可能だ。なので(初期の)我々にとっては選択肢にもならなかった」と話した。その代わりヘラー氏は自分の資金で会社を立ち上げたが、ある程度まで会社を育てた時、同氏は外部からの資金を必要とした。そしていい位置にいると確信した。

山を登る

ヘラー氏は、カリフォルニア大学バークレー校時代の知り合いでベンチャーキャピタリストのコネを通じてミーティングを持つことができた。それが他のミーティングにもつながったが、大半は落胆するようなものだった。公平にいえば、誰にとってもこのシステムに入り込んで説得力のあるプレゼンを行うのは難しい。しかしヘラー氏は売上高1000万ドルの事業を構築していた。それは何らかの価値を持つはずだった。

「入り込もうとするシリコンバレーで、私が部外者なのは明らかだった。かなり有能なエンジニアチームを有する売上高1000万ドルの事業だったにも関わらずだ。我々は多くのことを証明した。そしてこう思った。もし私がVCネットワークの一員だったら、もっと早くに資金調達できていたはずだ」とヘラー氏は嘆いた。

同氏は、黒人であることは少なくともVCファームの注意を引くのに苦労した要因であることは間違いない、と述べた。「アフリカ系米国人や他の創業者が、事業を始めるための最初の資金を確保するのは特に難しい。私はかなりの個人資金を使い、時間も費やした。なぜなら資本の中心地から遠く離れていたからだ」。

そのためにここに至るまでの間に何かを失ったかもしれない、と同氏は話す。「良いVCとのコネを持っていて、文字通りプロダクトはなし、あるのはアイデアだけなのにシードラウンドで100〜500万ドル(約1〜5億円)調達できる数多くの創業者を見てきた。そうした選択肢は私にはなかった」。

良い返事を獲得

ミーティングの18カ月後、ヘラー氏はようやくIgnition Partnersから1100万ドル(約11億7000万円)を獲得した。プレゼンをし続けるのには苦労、時間、そしてエネルギーを伴っただけに、Ignitionが最終的に資金を提供したとき、素晴らしい達成感を感じたと述べた。

「これが本当に求めていたもので、資金を注入する価値のある真のビジネスを展開してきたことを証明されたような感じだった」。

パンデミックのために製造にとって2020年は難しいとヘラー氏は話すが、2018年のシリーズAラウンド以来、同社の年間売上高は2000万ドル(約21億円)に、従業員は150人に増えた。

同氏はまた、2020年初めにSuppliedShop.comという新規事業を立ち上げた。かなり小規模の事業者が工場から既存の在庫を購入することができるというものだ。新規事業はすでに前月比50%成長をみせているとのことだ。

ヘラー氏が指摘したように、コネはもちろんものをいう。しかしまた、会社を設立するには度胸、決断力、いいアイデアも必要だ。ヘラー氏が今回のプロセスに持ち込んだのはそうしたものだ。同氏は、ここにたどり着くまでの苦労に目を向けるよりも結果を見た方がいい、と考えている。

「人種差別や本当に苦しいことはある思う。と同時に、変化を起こそうとすることを人々は意識すべきだと思う。私の経験がさらに多くの変化を起こすきっかけになることを願う」と述べた。

カテゴリー: VC / エンジェル

タグ:The Studio 資金調達

画像クレジット:The Studio

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(翻訳:Mizoguchi

Fintech協会事務局長・桜井氏が不動産テック特化ファンドを設立

日本でも盛り上がりを見せる不動産テック。2018年9月には不動産テック協会が設立され、スタートアップへの出資もよく目にするようになっている。

そんな中、7月5日には不動産テック特化型のファンド設立が発表された。2月に創業したデジタルベースキャピタルが運用する「デジタルベースキャピタル1号投資事業有限責任組合」は、平和不動産やイタンジ創業者の伊藤嘉盛氏ら、複数からのLP出資を受け、6月末にファーストクローズを迎えた。

規制や業界慣習の強い業界で起業家をサポート

デジタルベースキャピタルを創業したのは、代表パートナーの桜井駿氏だ。みずほ証券での営業、NTTデータ経営研究所でのコンサルティング業務を経て、不動産テックのハブとなる場を提供したいとの思いから起業した。

デジタルベースキャピタル代表パートナー 桜井駿氏

「もともと、みずほ証券時代からSkyland Venturesのイベントを手伝うなど、スタートアップ界隈には興味があった。スタートアップとは対極の大手企業で仕事をしていたけれども、スタートアップの世界をより良くしたいと考え、コンサルティングも経験しようと考えた」と桜井氏は経緯を説明する。

コンサルタントとしての業務のかたわら、桜井氏は2017年1月からFintech協会の事務局長としても活動。同年12月には不動産/建設スタートアップのコミュニティとしては日本最大級の「PropTech JAPAN」も創設し、運営を続けている。また、LIFULLやゼンリンといった不動産にまつわる各業界のプレーヤーが参加する「不動産情報コンソーシアム(Aggregate Data Ledger for Real Estate:ADRE)」の立ち上げにも関わり、事務局長を務める。

「金融業界、そしてコンサルタントとして不動産業界にも関わり、またFintech協会の事務局長としてスタートアップとの接点も持つ中で、規制産業におけるスタートアップ支援は大変重要で、自分が手がけるべきだという認識に至った」と桜井氏はいう。

「不動産業界は、Fintechに比べても参入ハードルが高い分野で、独特の慣習や業界構造が特徴だ。新規参入するスタートアップに必要なものはすべて、デジタルベースキャピタルで提供していきたい」(桜井氏)

デジタルベースキャピタルでは、ベンチャーキャピタルとしての投資をメインの事業としながら、大手企業向けには不動産テックに関わるイノベーション実現を支援する事業も手がけている。また収益事業ではないが、スタートアップ向けコミュニティのPropTech JAPAN運営を、引き続き実施していく。

PropTech Japanでの活動は、大きく3通りに分けられる。1つはミートアップで、不動産テックやFintech、建設テックのスタートアップの交流の場として、ほぼ毎月、平均100名規模で実施してきている。2つ目は国土交通省を中心とした政府との連絡会議。コミュニケーションを図ることで、スタートアップの新しいアイデアや事業に理解を得ることが目的だという。そして3つ目として、海外にある同じようなコミュニティとの連携も行っている。

桜井氏は「コミュニティ運営については、不動産テックスタートアップのエコシステムをつくる目的がある。行政当局、大手企業、そしてスタートアップの三者の連携が重要だ」と述べている。これは先だって関わってきたFintech領域でも同じだったという。

桜井氏には、2018年度、経済産業省新公共サービス検討会の委員を勤めた経歴もある。「金融、不動産ともに、規制対応や業界慣習への対応があり、ディスラプトが難しい分野。とはいえ事業者は使う人の生命・財産を守る必要があるため、利用者保護は重要」として、これまでの知見・経験を生かし、スタートアップが手がける事業の適法性確認や、そのままでは事業化できない場合は実現のためのサポートなども、同社で行っていく予定だ。

「PropTech JAPAN運営を2年ほど続けてきた中で、大手企業もアクセラレーションプログラムの実施など、アクションを起こすようになってきた。Fintech協会事務局に参加してきた感覚からも、自分でもサポーターは向いていると思う」(桜井氏)

不動産テックはデジタル化からLaaSへ

海外の不動産テック事情について桜井氏は「Fintechと比較すれば、海外が日本よりすごく進んでいるというわけではない」と分析する。コミュニティについても、不動産テックでは「世界同時的に立ち上がり、対等な関係で連携が進んでいる感触」ということだ。コミュニティの属性が近いためか、金融業界から不動産テックの分野へ移ってきている人も多いそうだ。

桜井氏によれば、この分野では世界的に「LaaS(Life as a Service)」、すなわち生活に必要なサービスを継続的に提供する事業が注目を集めているという。「不動産テックへの投資は2つの段階を踏んで進んできた。1.0では、業規制の中にある事業をデジタライゼーションすることによる、効率化が対象だった。そして2.0がLaaSだ」(桜井氏)

桜井氏が例に挙げたのは、今年3月に日本にも進出したインド発のホテル/賃貸アパートメントサービスのOYOだ。「もともと一括借り上げによるサブリースがOYOのサービスの核。自社物件確保により、仲介を必要とせず、オンライン契約を可能にしている。その先で、住人の家具・家電のレンタルや水の宅配などのサブスクリプションサービスを横に連携することで、豊かに暮らせる世界の実現につなげられる」(桜井氏)

桜井氏はさらに、不動産情報コンソーシアム(ADRE)が手がける不動産にまつわるデータの収集により、新たな不動産テック事業の創出も期待できると考えている。

「例えばコワーキングスペースで、WeWorkの料金は同じWeWork同士であればサービスサイトで比較して選べるが、リージャスなど他のサービスと横並びで比較はできない。これは個人のコリビングスペースでも同じこと。中国では「Ziroom(自如)」といった不動産賃貸プラットフォームのサービスが既に始まっており、こうしたサービスでは情報が申し込み時点で収集できるしくみが確立している」(桜井氏)

桜井氏は「ファンドでは、サブリースのように不動産取引と金融とが混じり合うエリアの事業や、家具レンタル、不用品の収納サービスといった住居に関連したサブスクリプションサービスなどにも出資していきたい」と話している。

また転居などの人の動きに合わせて発生する手続きにも注目しているという。「家賃保証会社など、現状ではユーザーが選択することはできず、オーナーや不動産会社の指定に合わせることになるが、これは『あるべき姿』ではない。本来はユーザーが自分で選べるようにするべき。こうした保証などの領域に関しても、IT化やサービス間の横連携でデータが取得でき、サービスにつなげられると考えている」(桜井氏)

桜井氏の調査では、日本の不動産スタートアップは約80社、建設スタートアップの20社を加えても100社規模で、約4000億円市場だという。一方、Fintechスタートアップ市場は200社、1兆円規模とほぼ倍の域にある。桜井氏は「ファンド設立により、不動産テックでもその規模を目標にしたい」という。

デジタルベースキャピタルのファンドでは、シード期のファイナンスをサポート。1号ファンドは総額10億円規模で、2020年春のファイナルクローズを目指す。

目標値に比べるとファンド規模が小さいようにも思えるが、桜井氏によれば「実は前職を退いてから間がなく、営業がこれから」とのこと。創業とファンド立ち上げのきっかけは、2018年秋、PropTech Japanで懇意にしていたイタンジ創業者の伊藤氏が、不動産テック業界への思いを語る桜井氏に「桜井さん、それほどスタートアップを支えたいのなら、ファンドを立ち上げたらどうか」と話したことだったというから、かなり急ピッチでの会社設立・ファンド組成と言えるだろう。

桜井氏は「今後、大手企業にも投資参加を呼びかけていく。はじめは小さくファンドをつくって、数千万円から5000万円規模の出資を10〜20社のスタートアップ対象に行っていく」と述べている。対象となるスタートアップも何件か検討が進んでいるそうだ。

金融・コンサル時代から「いつかはやりたかった」というファンド設立。「スタートアップが好きで(コミュニティなど)いろいろやっていたら、こうなった」という桜井氏は「まずはスタートアップを成長させることが大事」と語っていた。9月には不動産テックに特化したスタートアップのピッチカンファレンス「PropTech Startup Conference 2019」の初開催も予定しているという。

toC領域スタートアップを支援するW ventures、50億円のファンドを組成

写真左から、W ventures代表パートナーの新和博氏と東明宏氏

ベンチャーキャピタルのW venturesは4月24日、コンシューマー向け事業を展開するシード、アーリー期スタートアップを対象に投資を行う、50億円のファンドを組成したと発表した。ファンドの名称は、W ventures投資事業有限責任組合(以下W venturesファンド)。ミクシィからのLP出資を受けているという。

W venturesは、NTTドコモやミクシィでベンチャー投資事業に従事していた新(しん)和博氏と、グリーやグロービス・キャピタル・パートナーズでベンチャー投資事業を行っていた東(ひがし)明宏氏を代表パートナーとして設立された。

W venturesファンドでは、ライフスタイル、エンターテインメント、スポーツといった分野を中心に、BtoC、 BtoBtoC、CtoC、DtoCなどコンシューマー向け領域と、それらサービスを支えるテクノロジーなどの関連領域も含めたスタートアップを支援していく。

「スタートアップチームの一員としてただの投資関係にとどまらない事業成長のサポートを通じて、スタートアップが安心して挑戦できる環境をつくっていく」というW ventures。今後3年で、30〜50社への投資を予定しており、人材採用・組織開発支援、PR支援、資金調達支援などでもスタートアップを支援する体制を整えていくとしている。

Facebook共同創業者が設立したVCが新ファンドの一次募集で約448億円を確保

Facebookの共同創業者のーEduardo Saverin氏のベンチャーキャピタルであるB Capitalが、2件目のファンドの一次募集を完了した。

先月FCCに提出された文書によると、同社は4.06億ドル(約448億円)の初期資金調達を完了した。文書には目標金額や参加LP(リミテッド・パートナー)の詳細は書かれていない。Saverin氏はFacebookの共同創業者として注目されたが、投資家に転身を果たしアジアに特に力を入れている。

B Capitalは比較的新しく参入し、この新ファンドは最終募集をまだ実施していない段階ですでに前回の募集金額を上回った。B Capitalの最初のファンドは今年2月に3.6億ドルを集め、コンサルティング会社のBCGが主要出資者として当初から加わっている。B Capitalは自らを、実業界と有望スタートアップをつなぐ架け橋であると説明しているが、これはBCGとの提携が重要な意味を持つ分野だ。

同社はSavarin氏が2011年に米国市民権を放棄して以来居住している東南アジアを拠点としているが、投資先は全世界が対象で、サンフランシスコ支社もある。金融サービス、保険、健康医療、工業、輸送、および「カスタマー・イネーブルメント」に焦点を当てている。これまでB Capitalは19社のスタートアップに出資しており、スクーターのBird、保険に特化したCXA(先月2500万ドル調達)、インドのフィンテック系のMSwipe(先週3000万ドルのラウンドを発表)、およびロジスティック系のNinjaVanなどに投資してきた。

Saverin氏は自身のファミリーファンドであるVelosを通じても投資しているが、B Capitalを設立してからは関与が少なくなっている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook