Googleは、ようやくLGBTコミュニティーに対する失態を取り繕ったところなのだが、すでに次の問題が持ち上がっている。
先週、Googleは、人工知能の倫理的発達を監視し、おそらくは一般社会の不安をなだめるために、8人のアドバイザーからなる専門のグループを立ち上げた。
問題は、Advanced Technology External Advisory Council (技術外部諮問委員会:ATEAC)と名付けられたその新しい組織に、技術者やその道の専門家に交じって、Heritage Foundation(ヘリテージ財団)の代表Kay Cole Jamesが入っていることだ。
超保守派シンクタンクで、強硬な反LGBTの立場をとり、石油業界とガス業界におもねって気候変動否定論を強く支持してきた経緯のあるヘリテージ財団の代表の参加は、AIを監視する委員会には、まったく不可解とは言わないまでも、不相応に見える。
この財団の非科学的な考え方だけをとっても、Googleの最先端の科学に根ざした事業と相反するように思えるが、トランスジェンダーの権利を公然と否定するこの人物は、Googleに新たなる文化的災難をもたらそうとしている。
Googlers Against Transphobia(トランスジェンダーを嫌悪する人たちに対抗するGoogle社員の会)と名乗るグループは、Jamesを参加させたGoogleの決定に抗議する請願書で、こう述べている。
Jamesの選任により、Googleはその「倫理」の価値観が、トランスジェンダー、LGBTQ、移民を抑圧する勢力に傾倒していることを明らかにした。そうした立場は、Googleが宣言していた価値観に真っ向から矛盾する。多くの人々がこの件を公に強調しており、ATEACに指名されていたある大学教授は、この論争の末、すでに辞退している。
この発表の後、James選任の功労者は、その決定を支持し、Jamesの参加により委員会に「思想の多様性」がもたらされたと主張している。この発言は、多様性という言葉を凶器として用いている。ATEACにJamesを指名したことにより、Googleは同氏の思想を掲げ是認し、同社の意志決定において尊重する価値のある正当な見解として受け入れることが懸念される。看過できない。
このグループは、トラスジェンダーはAIなどのテクノロジーに対して過度に脆弱であるとして、GoogleにJamseを委員会から外すよう求めている。問題は、トランスジェンダーを人間として認めることができない委員(わずか数週間前にトランスジェンダーの女性を「生物学的男性」と気やすく呼んだ人物)の見解によって、さらに度を増した。現在、この記事を書いている時点で、請願書には1437名のGoogle社員が署名している。私はATEACへのヘリテージ財団の関与について見解を求めたが、Googleは選任に関するコメントを差し控えた。
The #EqualityAct is anything but equality. This bill would shut down businesses and charities, politicize medicine, endanger parental rights, and open every female bathroom and sports team to biological males. Learn more here: https://t.co/eJPDvfJKEs
— Kay Coles James (@KayColesJames) March 21, 2019
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「平等法は、平等とは程遠い。この法律は、ビジネスも慈善事業も停止させ、医療を政治化し、親権を危険にさらし、すべての女子トイレと女子スポーツチームを生物学的男性に開放するものだ」
James以外のATEACのメンバーには、行動経済学者、数学者、自然言語研究者、エネルギーと防衛に特化したドローンメーカーのCEO(この人物にも批判が出ている)、AI倫理専門家、デジタル倫理学者、そして、元外交官で、現在は、そもそも中道ながら事実上は左派のシンクタンクCarnegie Endowment for International Peace(カーネギー国際平和基金)代表のWilliam Joseph Burnsが選ばれている。Jamesを加えたのは、Burnsとのバランスを取るためだったかも知れないが、Burnsの超党派としての評判と、Jamesが右翼であるのと同等にBunsが最左翼だとする見誤りが、この問題の根底にある。
ハイテク分野でもっとも難しい問題について助言をもらうことでヘリテージ財団を持ち上げようというGoogleの選択は、右派とは反りが合わないと見られることを恐れる巨大ハイテク企業の現状をよく表している。そのため、Google、Twitter、Facebookといった企業は、態勢を修正しようとして右に寄りすぎてしまうことが多く、その状態を保ち続けてしまう。
Facebookは、白人民族主義が、アメリカンプライドやバスク分離派に近い無害なプライドの表れというよりも、白人至上主義の価値観の都合のいい類義語に過ぎないと気付くまでに2年を要した。先月、Jack Dorseyは、過激な陰謀論者や極右のヘイト扇動家が、批判的な考え方や適正な疑問の声などを気にせず、自分たちの思想を美化できる情報交換ポッドキャストJoe Rogan Experienceに出演した。
一方、Appleは、アイデンティティー、とくにLGBTQに関する問題のリーダーとして立派に振る舞っているが、それでもCEOのTim Cookは、その政権が精力的に何度も何度もアメリカ人トランスジェンダーの権利の制限を推し進めるトランプ大統領の隣に座って喜んでいる。もちろん、Appleが海外に隠し持っていた現金保有額の94パーセントを大幅減税付きでアメリカに返還するようトランプ大統領が懇願した事実は、Cookの相変わらずのお愛想とは関係がない。
The trans community at Apple makes us stronger and more vibrant. On this #TransDayOfVisibility, we’re grateful to all who live their truths and bring their authentic selves to work.
— Tim Cook (@tim_cook) March 31, 2019
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「Appleのトランスジェンダー・コミュニティーは、私たちを強く明るくしてくれる。このトランスジェンダー認知の日に、本当の自分で生きている人、本来の自分を活かしている人みんなを誇りに思う」
残念なことに、リベラルが「露見」してしまう恐れや、イデオロギー的バランスの思い違いという脅迫観念が根底にある多くのハイテク企業は、どうしても中間付近には着地しない極端な視点を求めてしまう。さらに悲しいことに、自分たちの考え方に合致しないあらゆる検証のクズを貪り喰おうと、陰険なイカサマ師たちが待ち構えている。彼らは今にも、大きすぎるお立ち台に載っかり、オバートンの窓が少しずつ動いて彼らを承認するまで叫び続け、ハイテク企業のプラットフォームによじ登ってくる。
だんだん明らかになってきたのは、弱気なシリコンバレーでは、議会の中や外を問わず、右派の日和見主義者をなだめるためなら、企業の認知的不協和がロビー活動に油を注いでいる限り、なんでもあり得るということだ。
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(翻訳:金井哲夫)